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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第三章、人々の暮らし
84/206

ダンジョンマスター、撃沈!?

ジェフリーのターンです。

そして……





 執務室に、着替えを済ませたジェフリーが戻ってくる。


「ふむ、待たせたな。 さて、先程の話の続きをしようか」


 ジェフリーが執務室のデスクにつき、仁は改めて話し始める。


「まず何から話しましょうか、私がこの町へ来た理由は先日もお話ししましたし、もう一つの理由もあるので、まずそちらからお話しさせて貰いましょう」


「うむ、聞かせて貰おうか」


「私共が勇者様に助けられたのが、今から8年と約半年前となります。 当時の私達は外の世界の情報、また状況すら知りませんでした。 勇者様から、人々は今も魔物達の脅威から逃れ、暮らしていると聞き、初めて人々の生存を知りました。 その後、色々と話し合い、我々に出来ることする為に、まず情報を集めようとなりました。 勇者様からの情報は、『人間の国』が南に在るとしか分からず、また勇者様の出身地である村は、魔物達に襲われ、無くなったとの事でしたので、我々は色々と手を尽くして情報を集めました。 そして、大凡の情報と状況が確認出来たのが、今から約7年程前の事です」


「ん? 7年前と云うと父上が亡くなった年だな」


「はい、その時ある()()をお助けしたのですが、それが切っ掛けである情報が入手出来ました。 その時『王の暗殺計画』と、『宰相と王妃の秘密』が、その方からもたらされ事で、我々はより慎重な行動と綿密な計画を立て、様々な情報と証拠を集め廻りました。 王に盛られていた毒や手口、実行犯の特定、誰が関わり誰が得をするのか等、様々な角度からアプローチして、すべての情報と証拠を集めました。 その結果、我々はジェフリー様が正当な後継者として、どの様な生き方を選択するのかを確かめる為に、私達はこの町へとやって来たのです」


「うーむ、話の大筋は分かった。 だが、何故私の元へと来たのかがいまいち分からんのだが、何故だ?」


「では、その切っ掛けとなった方をお連れするので、少々お待ちを」


 仁は執務室の片隅を片付け、そこへ魔方陣を展開させた。


 すると、魔方陣は光り、ある人物を連れたアリアが現れる。



「おお……、何ということだ。 神よ、感謝致します。 父上、よくぞご無事で……」


「うむ、お前も健勝で何よりだ」



 アリアが支え連れてきた人物は、先代の王『カルロス・エルトランド』その人であった。



 ★ ☆ ★



 感動の再会なので、日を改めようとした仁であったが、ジェフリーをはじめ、カルロスや家令達からも止められた。



「仁殿、本当にありがとう。 父上と再会出来るとは思っても見なかった。 私はこの恩は生涯忘れぬ。 そして、我ら一族は決して忘れぬように、此度の事を子供たちに伝えていくと約束しよう」


「うむ、儂も約束しよう。 『勇者』で在られる仁殿には、儂のみならず、ジェフリーをはじめ民たちも助けて貰っているからな」


「なっ!なんで!? 知っ……」

「ちょっと待て!? 父上、今なんと仰いました? 仁殿が『勇者』様と聞こえたのですが」


「うむ、仁殿は『勇者』で在ると、『女神』様であられるアリア様から直接聞かされた時は、流石に儂も驚きましたぞ」

「あら、そうでしたの? とても楽しげにしていらっしゃったので、気づきませんでしたわ」


 ハッハッハ、ウフフと笑いあう二人を余所に、仁は顔面蒼白、ジェフリーと家令達は驚愕の顔を張り付かせていた。


(しまった!! アリア様は『超絶ウッカリ女神』なのを忘れていたぞ、如何する? まさかここで『Ex女難』が発動すとか、大ピンチじゃないですか、やだぁ!)


 すべては()()()()()()であった。



 ☆ ★ ☆



「うぅ、済みません。 もう嘘は申しません。 ハイ」


「もうそれ位にしろ、息子よ。 仁殿は『勇者』で在っても、所詮は一庶民で在ったのだ。 王族と関わりたくない気持ちは、お前が良く知って居ろう?」


「ですが父上、私は哀しいのです。 私は仁殿を信頼していたのですよ。 それなのに、避けられるとか……」


 王城で、様々な辛酸を舐めてきたジェフリーは、仁の気持ちと己の感情の板挟みに揺れに揺れていた。


 そこへ、仁を何度も問い質すジェフリーを、親であるカルロスが諫める。

 仁の気持ちも察せと、戒めるカルロスであった。



 一方、ジェフリーに嘘がバレ、フルボッコにされた仁を慰めようとするアリアがいた。


「あ、あのぉ、すみません。 私がウッカリと話したせいですよね」

「いえ、すべては俺の嘘が発端ですし、アリア様は悪くないです。 俺が悪いのです」


「ですが、私のせいで計画が駄目になったのですよね?」

「いえ、それは身から出た錆なので、もう良いのです。 楽がしたい等と、嘘をついた私が浅はかだったのです。 所詮、私の平穏は何処にも無いと、知って居ましたので、もう良いのです」


 ガックリと項垂れる仁と、少しでも仁を慰めようと考えるアリアであった。


 やはり『嘘は身を滅ぼす』と、学んだ仁であった。



 ◇ ◆ ◇



 お詫びを兼ねて、ジェフリーや家令達を連れて、仁の隠れ家へと招待していた。


「ほう、ここが『始まりのダンジョン』か、思ったより快適な場所であるな」


「そうですか? 出来るだけ住み心地よくはしたのですが、どうやっても薄暗いのですよ」


 ジェフリーや家令達は辺りを見まわしたが、所々にある間接照明を見ては感嘆する。


「ふむ、薄暗いか、普通ではないか? 王城の夜も、こんな感じだったし、気にはならんのだが」


「やはりそうなのですね。 以前、前に住んでいた時の明るさを入れたのですが、不評でしたので」


「ほう、どれ程の灯りだったか気になるな」

「こんな感じです」


 パチッと、部屋の壁に埋め込まれているスイッチを入れた。


「うお!? な、なんとこれ程の灯りがあったのか!」


 ただの蛍光灯の明るさなのだが、ジェフリーやカルロス達にはやはり明るすぎた様子だった。


「とまあ、こんな感じで不評でしたので、先程の灯りに戻したのです」


 部屋が明るくなり、部屋の壁が照らされて、初めてその部屋の凄さに、ジェフリー達は驚く。


 壁には薄らと模様が一面びっしりと描かれ、天井にまでも同様であり、壁や柱には彫刻が刻まれ、その存在感を主張するが如く黒光りしており、壁の模様とマッチしていた。


「ちょっと待て、ここは王城なのか? これ程の細工は見たことがないのだが?」

「はい? ただの壁紙ですが?」

「ん? 壁紙?」

「ええ、壁紙ですよ。 触って貰えれば分かると思います」


 恐る恐る触るジェフリー達一行は驚愕する。


「なんと!? これ程の彫刻すら、ただの壁面であるのか!」

「ええ、薄暗いとまったく意味が無いのですが、まあ遊びなので奥に行きましょう」


 部屋の蛍光灯を消して間接照明だけにした部屋を奥に進み、突き当たりの扉をあけ、食堂へと入る。


「すみません、狭い場所で。 普段は余り使ってないので、少し不便なのですが、ここが一番綺麗な場所なのです」


 扉をくぐった先には、厨房が見える広めの食堂であった。


「な、なんと!? これはまた見たことが無い部屋であるな」

「うむ、厨房が見えるとは、全くの予想外であったな」


「そうですか、まあそうですよね。 ここは狭いダンジョンの中ですので、利便性を考えて造りましたので、狭さはご容赦下さい」


 カルロスやジェフリーはテーブルに着き、家令達は厨房設備をまじまじと観察していく。


「では、少しお待ちをすぐにお茶を出しますので」


 すると仁は召喚でティーセットと茶葉、お湯を即座に作り出し、それをアリアが受け取り、紅茶を入れだした。


「ふぁっ? 今何処から出したのだ?」

「ま、魔法なのか? というか、アリア様自ら紅茶を入れるのですか!?」


「ええ、これだけは私の楽しみなので」


「な、なんと、女神様が入れる紅茶を飲めと……」

「ジェフリーよ、まだ驚くのは早いぞ、ここの食事は予想外過ぎるからな」


 アリアがお茶をいれ、茶菓子を準備している頃、仁は厨房で食事の準備を開始していた。



 鳥肉や豚肉、牛肉などの肉類、鮭やブリ、ニンジン、玉ねぎ、ジャガイモなどの野菜を沢山用意して、お米とあう料理にしようと、下ごしらえ開始した。


 家令のセバスチャンをはじめ、執事やメイド達がその手際に舌を巻いていた。


 当然、仁が作成スキルによって手を動かして居るのだが、彼等には分からずただ見守ることしか出来ない勢いで、下ごしらえは終わったのである。


「これはまた、素晴らしい手際良さですね。 感服致しました」

「ん? ああ、そうですね。 実は、これは私のスキルを応用しているので、大半は体が勝手に動くのですよ」


「ほう、そんなスキルが在るのですか?」

「ええ、作成というスキルで私だけが持つスキルなのですが、本来は自動作成で瞬間に作れてしまうモノなのです」


 そう言って、仁はスキルでサンドイッチをひとつ作って見せた。


「おお!? これはサンドイッチですね。 なるほど、仁様はこの様な事も出来るのですか、これは凄い」


「ありがとうございます。 ですがこうやって全てをスキルで作ってしまうと、如何しても手作りには及ばないので、スキルに頼らず自身の手を使い作る事にしています。 どういう訳か、手作りにすると旨味も増しますしね」


 同様の材料で同じサンドイッチを手作りにして、先程のサンドイッチと食べ比べをして貰う。


「ほう、では失礼して………… ん、これはまた、なるほど、お手製の方が美味しゅうございますな」


「ええ、ですので皆さんも、テーブルでごゆっくりしてても構いませんよ」


「ハハ、ご冗談を、これ程の作業を見ずしてなんの執事といいましょうか、お邪魔は致しませんので、是非お手並みを拝見させて貰います」


「そうですか、分かりました。 でしたらじっくりと観ていって下さい」


 仁が許可を出すと歓声が上がり、厨房内の温度が上がっていく。


 まず鳥肉は、唐揚げと照り焼きステーキ。

 豚肉は、とんかつと生姜焼き。

 牛肉は、ハンバーグとすき焼きになり、鮭は塩焼き、ブリは照り焼きとぶり大根にして、それらの料理がテーブルへと運ばれていくと、皆の口へと消えていった。



「おお、これ程の量を食べたことなど無かったが、以外と食べてしまうものだな。 これ程、旨ければ納得でもあるか、ハッハッハ」


「そうですね、私もこんなに食べたのは初めてです」


「では、こんなのも在るのですが、此方は止めときますか」


 仁の手には、カツ丼と親子丼、それに極めつけの牛丼があった。


 既に満腹常態の彼らであったが、その存在から目を逸らす力は無かった。


 先程食べたとんかつが卵と絡み合い旨そうな湯気を立て、唐揚げや照り焼きとは違う煮込み料理として卵と合わさり旨そうな香りを漂わせ、最後に盛られた肉の存在感によって口の中を蹂躙してやると言っているかの如く牛肉がのせられている丼たちは『喰いたいのだろう?』『ええんじゃよ無理せんでもな』と云わんばかりに主張為ていたからであった。



「くっ、こ、これ程の魔力が在ると云うのか、恐るべし」

「いやいや、これを食わずにして、如何して居られようと云うのだ」


 そして、手を伸ばし貪り始めた一同は為す術もなく撃沈為れたのであった。


 そこに追い打ちの言葉が投げかけられた。


「デザートは要りませんよね」


「「「頂きます」」」


 こうして、謝罪の食事会は終わったのだが、一同揃ってこう認識する。


 恐るべし、ダンジョンマスター。


 食の求道は、修羅の如し。


 最後のカレーライスは、最初に食べたかったと。




と、まあ仁の嘘がバレての幕引きにしよかと思っていたのですが、うまく書けずに久しぶりの飯テロというか自爆?になりました。

仁らしさは描けたと思いますが、如何でしょう?



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