食糧生産計画
バレンタインデー……、うっ、頭が(ry
マルスのレベリングも、Lv20を超えたことで、始まりのダンジョンでの修行を一旦中止し、新規の農地開発をすべく、町長と共に領主館を訪れていた。
仁達は、領主の執務室に通され、ここで待つようにと、待機中である。
しばらくすると扉を開け放ち、執事を連れた、領主のジェフリー・エルトランドが入ってきた。
「待たせたな」
「こちらこそお忙しいところ、お時間を頂き、有難う御座います」
「有難う御座います」
町長の礼にならい、仁も礼を述べる。
「いや、この町の発展の為だ、その話をするのに礼など要らぬよ」
「「有難う御座います」」
町長と仁が礼を述べると、苦笑いをもらし、ジェフリーは執務室の一角にあるソファーへと座った。
それに続き、着席を促された仁達も、対面へと着席する。
「して、新たな農地開発の話だったか、早速話を聞こうか」
「はい、先ずはこちらをどうぞ」
領主は町長から資料を受け取り、ざっと目を通した。
「ふむ、水田を増やせと云うのだな」
「はい」
「んー、米とはサトシ殿が持ってきたアレだよな」
「はい、以前にご試食用に納めた、新しい作物です」
収穫祭の前に、町長と仁は領主館に米を献上したのだが、その時領主が王都に居た為に会えず、仁が日を改めて納品したのである。
「納めた米は、種籾を60㎏を持ち込み苗を育て、それを水田に植えて育てたところ、収穫量は423㎏となり、現在の主要穀物より収穫量が多く、味も申し分ないものでした」
「そうか、そんなに収穫が出来るのか。 だが、今年の麦は豊作と聞いたが、如何なんだ?」
「今年は例年の1,5倍と豊作となりましたが、同等の耕作面積での収穫量を比較すれば、圧倒的に米の収穫量が優るかと思います」
町長の報告と分析を聞き、領主はサトシに向き直る。
「ふむ、サトシ殿、米を量産するとして、種の方は如何ほど用意出来るんだ?」
「今年収穫した米のうち、種籾として選別した200㎏と、調達先では300㎏の種籾を確保して在ります」
仁は、多めの報告を入れる。
「なるほど、かなりの量だな。 収穫量だと、どれ位になりそうなのだ?」
「そうですね、今年は幾つか試験的に作付けしたので、一番良い結果が出た方法で作付けして、大凡15倍前後になるかと思います」
「なに!? 15倍だと!」
「はい、最大値で15倍になりました。 少なくとも5,000㎏、5t以上には成るでしょう」
仁の言に、領主は驚愕するのであった。
◇ ◆ ◇
領主館で農地開発の話を終え、町長と今後の打ち合わせをしたあと、仁は白のダンジョンへとやってきた。
白のダンジョンの第1階層の最奥部に、新たに拡張された区画がある。
そこは、通常の手段ではたどり着くことの出来ない、隔離された場所であった。
10階層の制御室にやってきた仁は、白から何時もの報告を受けた。
「うん、順調そうだな」
「はい、稲もかなり成長して、あと数日後には収穫できる状態になります」
「流石だな、ダンジョンコアの制御力とは、ここまで出来たんだな」
「あ、ありがとうございます。 仁さまが居てこそ、成立すると思いますが、私もここまで出来るとは知りませんでした」
「そうか、始まりのダンジョンでの検証は無駄ではなかったと、そういう事だな」
「はい、貴重なデータをありがとうございます。 以前とは比べられない程に、ダンジョンを制御出来ています」
白との契約は、ダンジョンの制御だけでなく、情報の共有でも発揮されていた。
白に提供された仁の情報は、土壌や気温による様々な変化、そしてダンジョンへ与える影響も含め、モンスターをどう管理するかにも重要であった。
モンスターの発生は食糧にも関係しており、マナの影響によってその分布も変わるのである。
モンスターが生きていける環境下で、そのモンスターが生きていく為の食糧も発生しているのだが、それが他のモンスターであったとしても、食物連鎖が無い限り、維持が出来る訳もなく、だがその食物連鎖が無い以上、ダンジョンが食糧を生まねばモンスターも餓死して居なくなるのでは? という事で、敵対勢力下の食糧をすべて回収(破壊、殺害を含む)した結果、モンスターは発生するが、異常にレベルの低いモンスターとなり、食糧による影響も検証出来たのであった。
それ以降、食糧の質を改善し、配下の栄養管理も進んだ事によって、損耗率も下がっていったのは僥倖であった。
オークの養豚場もその検証に一役買っていたのだが、第1階層のファームでも役に立ったという話であった。
ダンジョンでの食糧生産はマナの管理で容易くなるのだが、白の管制下によるマナの供給は自在な上に、土壌変化も可能とあって、ファームの現状はとても良好であり、作物の生産能力は異常といって良いほどに高かった。 いや早かったと云うべきものであった。
「しかし、2週間で米が穫れるとか、恐れいったわ」
「通常は半年掛かるのですよね」
「ああ、外だと7カ月程掛かったよ」
「へぇ、随分掛かるのですね」
収穫量が多くても、時間が掛かる稲作は、現状においては主食としては、たり得なかった。




