剣聖
「誰かいるか?」
「はい、いらっしゃいませ」
仁が接客にでると、ひとりの男が立っていた。
「ここの『剣』が良いと聞き、買いたいんだが、何処にある?」
「済みません、ウチは武器屋の方に卸しているので、そちらでお求め下さい」
「いや、向こうで売り切れたと云われ、ここで作っていると聞き、こうして来たんだ、一本で良いから売って欲しい」
なにやら事情がありそうな雰囲気と、どことなく焦りを感じる。
「ふむ、お急ぎなのですか」
「ああ、今まで使っていた剣が、もう保ちそうにないんだ」
「そうですか、今、在庫がないので、作ると4日は掛かりますが、如何します?」
「なっ、どうにか2日で出来ないか?」
「まあ、出来なくもないですが、正直、お勧めは出来ませんね」
「そうか、困ったな……」
ふと、男が装備している剣が気になった。
「失礼ですが、お持ちの剣を見せて貰えますか?」
「ん? いいが修理は出来ないと言われたから、見ても変わらないと思うぞ」
男は、腰にぶら下げていた剣を差し出しす。
「ふむふむ、これなら打ち直せば、何とかなりそうですね」
「本当か? どれ位掛かりそうだ?」
「そうですね、打ち直しと補強加工で、明日のお昼までには出来ます」
「そ、そうか、よろしく頼む、金は幾らだ?」
「えーっと、材料費と手間賃で800Gでどうですか?」
「ん? だいぶ安いが良いのか?」
「ええ、作りが良く、手入れもちゃんとしてあるみたいですし、貴方の人柄が分かりましたのでサービスしますよ、でないとこの剣に申し訳ないですから」
「そ、そうか? なんか分からんが有難い、恩に着る」
「いえ、ですが余り無茶はしないで、新しく買い換えて下さいね」
「分かった、明日の昼に取りにくるから、よろしくな」
「はい、お預かりいたします。 あ、お名前を宜しいですか?」
「おお、そうだった、オレはマルスという」
「マルスさまですね。 では、明日のお昼、お待ちしていますので」
「ああ、よろしく頼む。 あと、マルスでいい、それじゃあな」
仁はマルスの背中を見送り、ため息をついた。
「どうかしましたか?」
「あ、すみません、ちょっと気になる事があって鑑定したんです。 そうしたら『剣聖』の称号がありました」
「え? あの『剣聖』ですか?」
「ええ、その『剣聖』でしたね」
「でしたら、何故ため息を……、あら、その剣があの方のものですか、なるほど『剣聖』であっても、この程度の剣しかないのですね」
「ええ、この剣も主の為に、ずっと頑張っていたんでしょう」
「これも天命ですか」
「さて、彼の為にも、この剣を生まれ変わらせないといけませんね」
仁は、剣聖マルスの剣を打ち直す事にした。
◇ ◆ ◇
マルスから預かった剣は、過去数代の剣聖を護ってきた『聖剣』である。
本来、聖剣は光の加護が内包されているので、勇者でなければその力は発揮されず、また剣としての力も半減されるのである。
偶々、剣聖が使用者であり、資格が無くても、ある程度は使えていたというだけであった。
おそらく剣聖と出会い、勇者と出会う為にも剣聖と行動を共にしていたと思われる。
だが既に、聖剣としての力も失い、人の手では修復は不可能となり、なんの因果か仁の元へと辿り着いたのである。
これも天命であろう。
仁の持つ『勇者』の称号に導かれ、最後に辿り着いた場所が、仁の手の中であった。
工房の神棚に一礼し、聖剣を捧げ、仁は語りだす。
「お疲れさん、お前さんは俺のところにこれて満足だろうが、これからも剣聖と共にあって欲しい。 彼奴にはお前が必要であり、俺はお前を使うことも無いからな。 だから、勇者として頼む、剣聖を護り育ててくれ。 お前には酷かも知れんが、魔神との闘いが近い、どうか奴やその同朋を護ってやってくれ」
すると、聖剣から光が溢れ、一振りの剣へと変わっていった。
草薙の剣【神剣】
レジェンド級アイテム。
勇者の要請により、剣聖の剣として生まれ変わり、新たな力を得た。
「な、なん、だと……」
本当に生まれ変わった聖剣は、神剣へと姿を変えたのであった。
「仁さま! 今の光は……、あらまあ、さすが仁さまですね」
「いや、これは違うんです」
「ウフフ、分かっていますわ。 これも天命ですわね」
「うっ……、そ、そうですね」
(ぐぬぬ、解せぬ)
◇ ◆ ◇
翌日の昼過ぎにマルスはやってきた。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
「昨日、預けた剣を取りに来たんだが」
「はい、少しお待ち下さい」
サチコが仁にマルスの来店を伝え、仁は剣を神棚から回収し、マルスの元へと向かう。
「お待たせしました」
「ああ、構わないよ、それより剣は出来ているか?」
「はい、出来てはいますが、ひとつ問題がありまして」
「ん? やはり駄目だったのか?」
「いえ、それがですね……、これがお預かりした、マルスさまの剣です」
「ん? こ、これは……」
マルスは、仁が差し出した剣を見て驚愕した。
「店主、これは何の冗談だ? これはまるで神の剣ではないか!」
「ええ、それは『草薙の剣』といって、仰るように【神剣】です」
「な、なんだと!?」
マルスは仁の説明に、再度驚愕に囚われた。
仁はことの経緯を正直に伝え、マルスに己の正体を明かした。
「なんだと……、俺が『剣聖』だというのか? マジかあ……」
「ええ、ちゃんと鑑定したので間違いなく、剣聖ですよ。 おそらく貴方の師匠も、剣聖としてその剣を所持していた筈です」
マルスは仁の話を、信じられぬといった顔で聞いていた。
「そんなバカな、あんな古い剣が聖剣だったなんて、いったいどうなっているんだ? 剣聖とか、いったい何時からなんだ?」
「まあ、信じられないのも、仕方ないですよ、私自身も貴方の持っていた剣が聖剣だったので、貴方を鑑定しただけですので、いつ頃と云われても、その剣を受け継いだ時としかいえません」
マルスの混乱が治まるまで、出来る限りの推測を交えて、落ち着かせるように、話を誘導していく。
少しずつ落ち着かせ、少しずつ過去を探っていくと、マルスは冷静になっていった。
子供の頃に師匠に拾われ、剣の稽古に取り組み、次第に師匠の強さに憧れ、その背中を必死に追い掛け、ついに師匠から一本取れたことで、あの剣を受け継いだと
師匠から受け継いだ剣の由来は特に無く、ただ一門の証として受け継がれていたとかであった。
「なるほど、マルスさまが受け継いだ時には、既に聖剣の力は失われていたのですね」
「ああ、師匠の時も同じ感じだったし、師匠も特になにも言わなかったから、オレも気にしなかったな。 ただ、売っている剣より良い剣だったし、最近急に状態が悪化したから正直焦っていたんだ」
「ふむ、やはり天命なのか……」
「なにか言ったか?」
「いえ、こちらの話です。 で、どうですか? 納得出来ましたか?」
マルスはいまいち納得いってない様子で、仁に質問を返してきた。
「納得もなにも、仁殿が人ではないと云うのも信じられぬのだが、証明は出来るのか?」
「ふむ、如何したら納得しますか?」
「フッ、そんな事は言葉より、コレで語ればいいじゃないか、勇者様」
マルスは不敵な笑みを浮かべ、拳を見せつける。
「仕方ないですね。 分かりました、やりましょうか」
「そう来なくちゃな!」
◇ ◆ ◇
仁とマルスは工房のある中庭に出て、対峙する。
「いつでもどうぞ」
「フッ、余裕だな、それでこそ勇者様だよな!」
そう言った瞬間で、マルスの動きは見えない動きで、仁に斬り掛かっていた。
ガキーーン!!
仁を斬った音が鳴り響くが、当の仁は平然と立っていた。
「はあ!? マジかあ! ガチで斬ったはずだが」
「この程度ですか、がっかりです」
「フッ、フハハハ! いいね! これならどうだ!」
マルスは渾身の力を篭めて、一撃に賭けた。
大地を踏みしめ、重心をやや前にして構えたマルスは、腰を落とし仁目掛けて飛び出した。
全力で蹴り出した一歩は、仁の間合いに入る程で、そのスピードに乗ったまま仁に渾身の一撃を叩き込む。
常人では、けして受けることの出来ない攻撃をマルスは放った。
避ける気配のない仁を視界に捉え、勝ったと確信した時、それが起こった。
「えっ!?」
豪快に放たれた大地を砕かんばかりの一撃を、仁はいとも容易く無力化したのだ。
マルスの視線の先では、ひかり輝く盾で受け止める仁が、涼しい顔で立っていた。
そして次の瞬間、マルスは意識を刈り取られ、目覚めるとそこは見たことのない世界が待っていた。
そこは白のダンジョン。
人の身では、けして敵わぬ絶望の地であった。
「フハハハ! マジかあ」
マルスは、仁の言葉を受け入れ、己の強さを始めて、魂に刻み込んだ。
「オレはまだ弱かったんだな、よおし! やってやるぜ!!」
この日、この地に、最初の『剣聖』が生まれたのであった。




