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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第三章、人々の暮らし
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収穫祭

領主の年齢設定を30歳前後に変更しましたので、口調を変えました。

※例として、『儂』を『私』に修正しました。





 仁が住んでいる町は、エルトランド王国の領地のひとつで、開拓者が多く住む町である。


 その町は、エルトランド王国第三王子、ジェフリー・エルトランドが領主として治め、開拓者カーラが20年前につくった町であり、カーラの町と云われていた。


 第三王子である、ジェフリーが何故領主として、この町を治めているかは、いわゆる政治的配慮と云うやつである。


 そして、開拓者カーラがこの町をつくった経緯も、無縁ではなかったのである。


 まあそこら辺のお話は、王家の秘匿情報(恋バナ的な)なので割愛させてもらいます。




 仁は、白のダンジョンで集めた物資を、領主館に売りに来ていた。


「いやあ、いつもすまんな」

「いえ、お役に立てたのであれば、私も嬉しく思いますので」


「サトシ殿が持ってくる物資には、いつも助けられているが、それよりも不躾なのだが、そちらの方は奥方かな?」


 仁の肩越しに覗くジェフリーは、アリアのことが気になっていた。


「はい、少し年が離れて居りますが、パートナーのアリアです」


 仁は、アリアの挨拶を邪魔しないように、紹介をした。


「アリアと申します」


 アリアは、ジェフリーに顔を伏せたまま、一礼して下がった。


「ほう、良い奥方であるな」

「ありがとう御座います。 こういった場に慣れてはいませんが、ご挨拶をと思いまして連れて来ました」


「ふむ、羨ましいな。 美しく慎ましいとは、実に羨ましい」

「ハハ、ありがとうございます。 では、今日の処はこれで帰ると致します」


「うむ、すまんな。 また何か在れば何時でも頼って欲しい」

「はい、では失礼致します」


 領主館を辞去した仁達は、自宅へと帰るのだが、帰路の馬車でのアリアは、終始上機嫌であった。



 ◇ ◆ ◇



「やっと落ち着けたな」

「お疲れさまでした」


 アリアが用意した紅茶を啜り、ひと息いれる仁であった。


「ありがとうございます。 やはり紅茶は、アリア様がいれると違いますね」


「そうですか? まあ色々と入れ方を研究しましたし、これだけは自信がありますね。 最終的には好みによるのでしょうけど、仁さまが出して下さる紅茶自体が良質なので、私も楽しんでいます」


「ふむ、ずっと昔に飲んだ事があるダージリンティーを思い出して作ったのですが、そんなに良質なのですか?」

「ええ、薫りがよく飲み心地も爽やかなので、最近はずっとこればかり入れています」


「そうですか、自分はいつも市販品のティーバッグで、やっすいのしか飲んでいなかったので、一番うまかったダージリンにしたんですが、なるほど、そうでしたか」

「ティーバッグですか? どんなものですか?」


「そうですね、……、こんな感じです」


 仁は召喚で材料を揃えて、インスタントのティーバッグを作りだした。


「カップにお湯を入れて、これをこのまま入れると、お茶が簡単に入れられるんです」

「まあ! 便利なのですね」


「ですがインスタントですから、やはり味の方は落ちますよ」

「なるほど、面白そうなので、今度作って貰えますか?」

「いいですけど、余り期待はしないで下さいね」


 後日、数種類の茶葉で作ったティーバッグは、やはり不評でお蔵入りになりなった。



 ◇ ◆ ◇



「かなり収穫できそうですね」

「そうですな、これ程とは思いませんでしたね」


 今日は、数日掛かって刈り取った稲穂を乾燥させる為に、干す作業をしている。


 2週間程を目安に乾燥させるのだが、始めての米作りなので、数日ずらしつつ脱穀作業に入る予定である。


「楽しみだなあ」

「ええ、ですがお米を食べるには、まだまだ大変な工程があるので、頑張りましょう」

「「「はい」」」


 脱穀作業を終え、玄米にする事、更に精米する事に数週間をかけ、やっと白米を炊いて食べた時の皆は、涙ながらに食すこととなったのであった。


(いやあ、ここまで大変な作業を経て、食べられるものだとは……、昔の人はえらかったんだなぁ)


 機械やスキルが無いこの作業は、当然手でやるか道具を揃えないと、大変な作業になるのだと、実感した仁であった。


 後日、道具の開発をすべく、試行錯誤するのであるが、最終的に石臼による精米方法が一番良い結果が出たので、人力と魔力による精米機をそれぞれ作り出し、人力による物は一日掛かりだが、全ての工程を熟す事が出来るようになるのであった。


 尚、魔力による精米機は、仁の店に設置され、持ち込まれる玄米を精米するサービスが行われ、大盛況となるのであるが、それはもう少し先のお話である。



 ◇ ◆ ◇



 米の収穫から精米をした頃、お米の試食会を兼ねての収穫祭を開くこととなった。


 そこで、町の収穫物で出来る料理を米と相性のよい、ハヤシライスを作ったところ大絶賛となり、以後ハヤシライスは、カーラの町でのご馳走の代名詞となった。



「いやあ、旨いですなあ」

「ええ、こんなにうまい物が作れるとか、知りませんでしたな」



 大人たちはエールを片手に、唐揚げをつまみながら、フライドポテトやオニオンリングを食べ、エールを飲みほすを繰り返し、収穫祭を楽しんでいた。


 一方、女性や子供たちは、ハンバーガーやサンドイッチ、唐揚げ、コロッケ、そしてメインのハヤシライスを食べている。



「うめー、おかわりー」

「うまうま、ムグムグ」

「お母さん、美味しいねー」

「そうだね、いっぱいお食べ」



 こうして、その日に振る舞った仁の料理が少しずつ、家庭料理として定着するのだが、そこまでになるには10年の歳月が必要であった。




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