初めての探索
「そっちはどうだ」
「うん、特に変わりないな」
「次、いくか」
「あいよ」
アレク達は、ダンジョンの中を確認しながら、各階層を探索していた。
ここのダンジョンは、1~3階層が洞窟の様に狭い通路が続いている。
たとえ枯渇したダンジョンと言えども、そこは洞窟であり暗く、たまにだが外から生き物が入いる事もあり、ごく稀にだが魔物にも遭遇する為、油断は禁物であった。
曲がりくねる細い通路が終わると、ちょっとした空間があり4階層へと下りる階段がある。
「少し休憩したら下へ行くから、各自装備の確認をしとけよ」
アレクはパーティーメンバーに指示しながら、マークに近寄る。
「どうだ調子は?」
「はい、問題ありません」
「そうか…… で、どれ位採れた?」
「そうですね、いつもと同じ量が採れてると思います」
「なら問題なさそうだな、とりあえず採れた物は、ここに置いていこう」
「了解です」
アレク達は装備を整え、4階層へ下りて行く。
◇ ◆ ◇
4階層はこれまでとは違い、広い空間が点在している。
昔はここで魔物と遭遇する事が多く、危険な場所でもあったが、様々な素材が採れてもいた為、多くの犠牲者がでた場所でもあった。
魔物達の皮や肉、爪や牙などは勿論、鉄や銅といった鉱石類は階層が進むにつれて、より貴重な素材が取れていたのだ。
今では、魔物の素材や貴重な鉱石は採れないが、少量の鉱石類や薬の材料になる素材は採れる。
これらの素材を回収する依頼を受けてきたのがアレク達であり、冒険者の仕事でもあった。
◇ ◆ ◇
アレク達は6階層手前のエリアを確認後引き返し始めた。
「ここも問題はなさそうだな」
「なら少し鉄を回収しないか?」
「そうだな、おやっさんのとこも在庫が少ないらしいしな」
「マークも小遣い欲しいだろ?」
マークは苦笑いを浮かべ、皆に笑われた。
「だいぶ時間もかかってるし、とっとと回収しようか」
アレクの言葉に皆は同意し、行動していくのだった。
めぼしい場所のみ回収していくアレク達は、マークに色々教えながら帰路につくのだが、この時ダンジョンの奥で蠢くものたちが居た。
「……」
「行った様ですね」
「ああ……」
「どうしました?」
「とりあえず帰る」
「はい?あ!待って下さいマスター!」
そして、暗闇にふたつの影が消えた。
◇ ◆ ◇
カシムの町に帰還したアレク達は、冒険者ギルドで報告と回収してきた素材を納品していた。
「お帰りなさい、アレクさん」
「ただいま、ダンジョン調査の報告なんだが」
「はい、少しお待ちを」
受付嬢のミーシャが、使用可能な個室の手配をして戻ってきた。
「お待たせしました、こちらにどうぞ」
アレクは個室に案内され、入室した。
「こちらでお待ち下さい」
「おう、ありがとな」
ミーシャはにっこりと微笑みお辞儀した。
5分程待った頃、大柄な男が入室して声をかけられた。
「よう、待たせたな」
ギルマスのガイアである。
「お疲れさまです」
アレクは立ち上がりお辞儀した。
「で、どうだった?」
お互いの挨拶を終え、アレクは報告を行う。
◇ ◆ ◇
その頃、他のメンバーは素材の換金をしていた。
「お待たせしましたぁ」
納品受付のハンナが素材の代金を持ってきた。
「えー、納品の薬草20束光苔2袋鉄鉱石40㎏銅鉱石10㎏で17000G端数分の素材が薬草5束鉄鉱石8㎏銅鉱石6㎏で3500Gになりますが、どうしますか?」
「すべて換金で」
「ありがとうございます」
ハンナは微笑み、代金を渡す。
「納品分17000Gと端数分の3500G合計20500Gになりますご確認下さい」
アレクパーティーの金庫番ナターシャが確認後受け取った。
「さてと、まだアレクは来てないわね」
「いつものとこでいいんじゃね?」
皆は同意し、ギルド隣の酒場に入って行った。
◇ ◆ ◇
しばらくして、アレクが酒場に入ってきた。
「おつかれ、待たせたな」
「おう、おつかれさん」
「お疲れさまぁ」
と、皆が労う言葉を交わした。
「お疲れさまです」
マークは立ち上がり、お辞儀をする。
「マークもおつかれさん、今日はどうだった? いつもと違って疲れただろ?」
「はい、疲れたかどうかは判りませんが、楽しかったです」
「そうか、なら良かった」
「アレクも来たし、今日の給金を分配しましょ」
ナターシャが、皆に小袋をわたした。
「え?あ、あのこんなに…」
マークは、小袋を覗き込んで困惑する。
「ん?別に問題ないわよ、ないわよね?」
ナターシャは皆に同意を求めた。
「おうよ!とっとけとっとけ」
「ん?どうした?」
リッキーが同意し、カイがマークの顔を覗き込む。
マークは、涙目になっていた。
「今日は皆と同じ仕事をしたんだ、問題はないから受け取れ」
と、アレクはマークの肩に手をかけ小袋を握らせた。
「あ、ありがとうございます!」
マークは泣きながら何度も礼を言い、自宅に帰って行った。
◇ ◆ ◇
帰宅したマークは、母親に小袋をそのまま渡すと、3000Gが入っていた。
慌てて母親はマークを問いただすと、今日の給金だと伝え両親は涙するのだった。
なお、1Gは円にして10円換算であり、この世界の一般家庭の稼ぎは1日100G、ひと月2800G前後なので、成人前のマークが稼ぐには無理な金額であった。