ダンジョンコアの願い
ダンジョンコア【白】を入手し、そのマスターとして登録された仁は、どうしたものかと悩んでいた。
「どうか、お願いします」
「んー、言いたいことは分かるんだが、こっちにも予定があってだな……」
「そこを何とか……」
「そう言われてもなぁ」
ダンジョンコア【白】(以後、白と呼称)が言うには、ダンジョンコアが設置されていた場所が魔物に占拠されたらしく、早期に奪還して欲しいとのこと。
理由を聞くと、何やらゴニョゴニョと何かを隠しているらしく、いまいち要領を得ないのである。
(仕方ない、カマでも掛けてみるか)
「済まんが、俺にも事情があるんでな、今は仲間達に攻略を任せて居るんだ。 悪いが、お前の要望には答えられない」
「……、そうですか、残念です。 では登録の方は解除致しますが、宜しいですね」
(そ、そうくるか……)
「……、ああ、構わんよ」
白は、仁の返事に面を喰らい慌てだす。
「えっ? えっと、構わないのですか? 以後、二度と登録出来ませんが……」
(ん? マジか、なら)
「ふむ、そうか、残念だが、解除して構わないぞ」
「…………」
「…………、どうした? 解除しないのか?」
白は仁の対応に涙ぐむ。
「うぅ、済みません、ご免なさい。 お許しを……」
仁はやり過ぎたと思い、もう一度問い質す。
「はぁ、ならちゃんと理由を話せ、でなければ話にならんだろ」
「うぅ、そのぉ、私の……、猫のミィちゃんが……」
「ん? ミィちゃん? 猫を飼っているのか?」
「いえ、ぬ、ぬいぐるみです……」
「……、マジか、ぬいぐるみね、ふぅ、気持ちは分かるが、直ぐには無理だな」
ぬいぐるみの奪還と聞いて若干引いたが、白との繋がりで出来ることも増えたし、大切なものなら仕方ないなと、仁は思う。
「……、そうですか、諦めるしかないのですね」
「因みに、場所はどの辺だ?」
「えっ? あ、えっと、10階層の奥にある制御室です」
「10階の制御室ね、ちょっと調べてみる……」
「あ、ありがとうございます」
白は、仁の言葉に希望を見出し礼を述べる。
「ふむ、なるほど、時間があれば行けなくもない所だが、やはり今直ぐは無理だな」
「あ、あのぉ、引き受けてくれるのですか?」
仁はスケジュールを考え、白の要望に条件をだす。
「そうだな、2~3日待ってくれれば、時間を作れるんだが、それで良いか?」
「は、はい! ありがとうございます!」
白は、涙ながら喜び、何度も仁に頭を下げていた。
◇ ◆ ◇
8階層の攻略を進め、9階層に到達させた仁は、白のことも考え予定を繰り上げる。
「今夜はここまでだな」
「「「お疲れさまです」」」
「あ、あの、私はどうしましょう」
「ん、そうだな、このダンジョンから出られないのだし、猫又族の所にでも置いて貰うか。 猫好きなんだろ?」
「は、はい、お願いします」
白は若干嬉しそうに答えた。
◇ ◆ ◇
仁は夜の活動を終え店に戻り、朝の仕込みをしてから仮眠をとった。
「おはよー、学校いくからねー」
「ん? お、おう、いってらー」
サチコに起こされ、寝ぼけつつ返事をする。
「ふぁ、んー、さて、飯食って……、あっ、サチコに予定変更を伝えてないや」
仁はサチコに通信を繋げ、予定変更を伝える。
『サチコ、聞こえるか?』
『はい!? び、びっくりしたー。 き、聞こえてます、なんですか?』
『すまん、昨夜トラブルがあってな、今週の予定を変更するから、何時ものように、学校に休むと伝えて欲しい』
『分かったけど、何時もの日数で良いの?』
『ああ、それでいいよ、詳しくは今夜にでも話そう』
『了解』
若干タイミングが悪かったみたいだが、予定変更を伝え終わり、開店の準備をしだす仁だった。
◇ ◆ ◇
サチコが学校から戻り、予定変更の為に、領主や町長に報告をしに向かう。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ、サトシ様」
「町長はいらっしゃいますか?」
「はい、少々お待ち下さい」
何時もの人が仁の接客をし、別の人が町長を呼びに向かった。
応接室に通され、お茶を貰いしばらくすると、町長が入室してきた。
「こんにちは、相変わらず忙しそうですね」
「いやー、お待たせしました。今日は偶々ですね」
「そうなのですか?」
「ええ、さて、今日は何のご用ですかな?」
「それなんですが、急用が出来まして、明後日に町を出るのでお知らせに来ました」
「ほう、それはまた急ですな。お戻りはいつ頃になりますか?」
「そうですね、何とも云えませんが、ひと月以内には帰れると思います」
「ふむ、では水田の管理は私共で引き受けましょう。 後は実り次第で刈り取るのでしたな?」
「ええ、稲穂が垂れてくるので、実の入りが良ければ刈り取りです。 ですが刈り取り時期まで、まだ時間があるので、その頃には帰っているかと思います」
「承知しました。 ではその様に周知しておきますので、無事なお帰りを祈り、待つこととしましょう」
「ありがとう御座います。 無事帰れるよう頑張ります」
町長と再会の約束をして、町長宅を辞去し、次は領主館へと向かう。
しかし、領主は現在王都に居ると判り、言伝だけを頼み、店へと帰る事にした。
◇ ◆ ◇
「と、いうことなんだが、明日は10階層攻略の下準備をしないといけないんだ」
「へぇー、相変わらずですね」
「なにがだ?」
「フッ、そういう処もヒトシさまらしいです」
「……、まあいいか、明日は一日店番をよろしくな」
「はーい」
その日は夜のお仕事をお休みにして、翌日の為に休養をとる事にした。
◇ ◆ ◇
翌日の朝、サチコに店を任せ『始まりのダンジョン』に向かった仁は、アリアやリッチ達、主要メンバーを集め会議を開いた。
「そこで、この中から参加する者を選ぶのだが、質問はあるか?」
「はい、参加する制限は有りますか?」
「ん、そうだな、まずLv40以上だな、後は各種族20名位が条件かな」
「妥当ですな、某は守護者故、参加出来ませんが協力は惜しみませんぞ」
「そうだな、お前にはこのダンジョンの警備を頼むからな、しっかり指揮を執ってくれ」
「承知しました」
「後はあるか?」
「はい、隊長クラスの参加は如何しますか?」
「んー、今回は警備面もあるから不参加の方がいいかな?」
「そうですね。 防衛戦でしたら隊長クラスは残すのも有りですね」
「なら、隊長クラスは不参加で、まあこれ位かな? 後は各種族間で参加メンバーを決めてくれ、以上だ」
会議が終了し、それぞれの階層へと戻る各種族の代表達は、この後メンバー選考しなければと、急ぎ足で退場していく。
そして、残った仁、アリア、リッチは白のダンジョンの現状を話し合う。
「して、『白のダンジョン』でしたな、如何なのです?」
「うん、かなり深いな」
「私は参加というか、ついて行きたいのですが」
「んー、そうですね、来て貰えますか?」
「あら? 良いのですか? 断られるかと思いましたが」
「まあ、何も起きないと思いますが、少し予感がするのですよ」
「ほう、それはまた、主の予感はたまに酷く当たりますからな」
「そうなんだよ。 って、おい!」
ハッハッハッと、笑うリッチの頭をスパーン! と、ハリセンではたく仁であった。
明日は用事があるので、更新出来ないかも知れません。




