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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第二章、ダンジョンマスターとして
65/206

新たな依頼



 20階層に入り、仁は身構える。


 闇はなかったが、Dの僕達が仁を取り囲み、襲ってきた。


 左右から斬撃が飛んできては、剣と盾で受け、躱すついでに蹴りを放つ。

 すっころんだ敵が追撃を妨害し、仁は有利な場所へと移動していく。


 明らかにDの僕達のレベルは低く、仁にいいようにあしらわれていた。


「くそー、当たらねえ。数で攻め立てろー!」

「「「おー!」」」


 一度に数人が襲い掛かり、仁の逃げ場に先回りしては襲ってくる。


 だが、仁はそれでも軽々と避け、躱しながら追い詰められないように立ち回っていく。


「あのさあ、いい加減実力差に気づこうな。お前達じゃ、俺に触れる事も、出来ないんだよ」

「なにー! なら全員一斉に掛かれー!」

「「「うおー!!」」」


 仁と距離をとり、隙間を積めて仁を取り囲んでいく僕達


「やれやれ、言っても分からんか、なら仕方ないな」


 仁は盾を構えて魔法を発動する。


『エアシールド』を盾に纏わせ、仁は突撃を敢行した。


「「「ぐぁー!」」」

 僕達を次々と吹き飛ばし、仁は包囲網を打ち破った。


「どうだ、降参か?」

「ぐぬぬ……」

 数名は立ち上がったが、大半は衝撃で気絶していた。


「こ、殺せ、くそぉ……」

「はぁ、殺しはしない、それより話があるんだが、いいか?」


「な、なに? 何を企んでいる?」

「企みねぇ……、まあ、一言でいうと人捜しをしている、『出来損ない』という奴の世話をしていた者は居ないか?」

 仁が尋ねると、僕のひとりが応えた。


「そいつを捜しだして何をするつもりだ」

「ふむ、まあいいか、うちにサキュバスの子供が居てな、そいつに世話になったと聞いて、だから捜しているんだ」

「な、なんだと!」

 仁に問い掛けた僕の後方から、叫ぶように声があがった。


「ちょっと退いてくれ……、サキュバスの子供だと?」

 人狼の男が仁に詰め寄った。


「なんだ、やっぱり居たんだな」

「ん? それより、サキュバスの子供とか言わなかったか? 知っているのかあいつを?」

 人狼は唾を飛ばしながら、仁に質問をしてくる。


「むむ、近すぎだ、そんなに心配しなくてもいい、サチコは無事……、もとい、サキュバスの子供は無事で、俺が保護している」

「な、なんだと!」

 人狼は仁に襲い掛かり、仁に触る直前で取り押さえられた。


「落ちつけ、サキュバスの子供は無事だ、そして、手厚く保護もしている、分かるか?」

 仁は人狼に威圧をかけ、一言一言はっきりと言い聞かせた。


「わ、分かった……」

「よし、放すが下手なまねはするなよ、サチコとの約束は果たしたいからな」

 仁は人狼から離れ、立ち上がるのを待った。


「サ、サチコ? あいつは無事なのか?」

「ああ、無事だよ。 何度も言っているが無事だし、ちゃんと保護もしている。 それで、あんたを捜していると言ったんだ、分かるか?」

「分かった……」

「なら、後ろの奴等を説得して貰えるか?お仲間なんだろ?」


 人狼は仁の言葉で我に返り、仲間たちを見つめ言葉の意味に気付いた。


「ああ、なる程、あんたは俺達を殺しに来た訳じゃないんだな」

「おっ! 察しがいいな、流石だな、助かったわ」

 仁が茶化すと、人狼は頭を掻きながら息を吐き出した。


「D様のご機嫌取りが、役に立っただけだ、いつ殺されるか分からんと長生きは出来ないからな」

「その割には俺を襲うとか、そんなにサチコが心配なのか」

 仁はニヤニヤと人狼を観察する。


「…………、あいつは俺の恩人だからだ」

「そうか、ありがとうな。サチコもお前に色々と救われたと聞いた、無事で何よりだ」

 仁は人狼の言葉を聞き、安堵した。

(この分なら、上手くやって行けそうだな)


 人狼は仲間を説得し、仁は気絶している僕達を治療した。


 その後、全員が投降を示したので、仁は19階層のアリアと合流した。



 ◇ ◆ ◇



「お待たせしました」

「お帰りなさい。 えっと、如何でした?」

「はい、生きていましたよ。少し痛めつけましたが、話は出来ました」

「そうですか、ではその方達も連れて行くのですね」

「ええ、あのままだと復元に邪魔ですし、降伏もしてるので、一旦、7階で様子を見ようかと」

「そうですね、サチコには如何しましょう」

「会わせますよ、約束ですしね」

「分かりました、では行きましょう」



 仁とアリアは20階層に下り、僕達に今後の扱いを説明をして、7階層のゴブリンキングの元へと、テレポートで僕達を運んだ。



 ◇ ◆ ◇



「おお、主殿、戻られましたか」

「ああ、ただいま」


「如何でしたか? 20階層は……」

「生きていたよ、少し争ったが敵対者は無し、22名全員を7階のキングの集落で保護している。一応、問題あれば手加減するなと言ってあるし、何とかなるだろう」


「ふむ、してどんな奴等でしたか?」

「そうだな、やはり厄介者だったんだろうな、常日頃から『出来損ない』と言われ続けて、Dに命運を握られ怯えていたんだろ、サチコが生きていた事を知って、食い付いてきたぞ」


「なるほど、やはり恐怖による支配は、闇側の常套手段ですな」

「今更だが、まあそんなところだ。で、サチコは如何している?」

「今は寝ている頃ですな、起こしますか?」

「いやいい、寝ているなら、朝で構わんだろ」

「承知しました。では、主もお休み下され、寝てないのでしょう?」

「ああ、ありがとう。 久しぶりに寝かして貰うわ、おやすみー」

「お疲れさまでした……」


 翌日まで、仁はグッスリと眠った。



 ◇ ◆ ◇



 翌日の朝、仁は自室のベッドで寝ていた。



「ぐぬぬ……、お、重い……、くっ! ぬおー!」

 寝ている間に、サチコが仁の腹の上にのし掛かり、たまらず跳ね起きた。


「…………、ふにゅ~、ふあ~、おはようごじゃいましゅ……」

「お、おはようございます」

「…………、おはよう」

 仁は起きたが、非常に不機嫌であった。


「あ、あの、これはですね、サチコが……」

「ふぁ~、あちしのことれす?」

「ああ、お前の寝相のせいで起こされたからな、少し機嫌が悪いだけだ」

「あぅ……、ごめんなしゃい」

「す、すみません、仁さま」

「なぜ、アリア様が謝るのですか?」

 仁は、冷たい視線でアリアを射貫く。


「あ、あの……、すみませんでした。サチコのせいではなく、私が勝手に添い寝を……」

 アリアは罪悪感に堪えられず、仁に許しを請うのであった。


「はあ、まあいいです。 今後は許しませんので、気を付けて下さい」

「はい、もう致しません」

「あ、あちしも……」

「ん?サチコは子供だし、たまにならいいぞ」

「ほんとれすか?」

「ああ、だが、おねしょは勘弁な」

「あい……」

「えっと、私は」

「なにか?」

「いえ、なんでもありません」


 添い寝は嫌いではない仁だが、勝手に寝床に入られ、起こされたことには納得出来ないのである。


 特に未婚女性の、こういった行動に関しては、相変わらず貞操観念に厳しい仁であった。



 ◇ ◆ ◇



 朝食を済ませ、サチコに僕達の無事を伝え、7階のゴブリンキングの元へと連れていく。


 キングに僕達の様子を確認したところ、大人しくしているとの事だった。


 特に問題もなく、監視をしている者達とも、何の支障もないと確認出来たので、サチコとの面会を許可した。


 ゴブリン達に見守られ、サチコは緊張していたが、人狼の姿を確認してからは大変だった。


 わんわんと泣いてしまい、人狼に縋り付く姿はゴブリン達にも伝わり、全員が号泣してしまったからである。


 結局、大した話も出来ずに、時間切れで別れる事になったサチコには、再会の約束だけをさせて送り帰す事になってしまった。


 少し罪悪感が残ったが、仕方のない事である。


 なぜなら、この後のダンジョン制覇が、最優先事項であったからだ。



 ◇ ◆ ◇



 サチコとの約束は守られ、残る20階層の復元は開始された。


 20階層の復元は、仁ひとりで行うと決まっている。


 何故なら、復元完了時にどうなるのか分からずにいた為であった。



 20階の復元作業をする仁は、何が起きてもいいように、完全武装で作業に取り組んでいた。



 20階はそれ程広くもなく、通路や部屋も少なかった。


 入口の階段、エントランスのような広間に、僕達の小部屋に大部屋、Dが居たと思われる謁見の間や、ハーレムがあったとされた寝室といった、分かり易い造りであった。


 大体の復元も終わり、いよいよ作業も終わる頃であることに気付いた。


「うーん、これって階段だよな」


 Dの寝室の奥に、どう見ても隠し部屋があり、その中心には階段が設置されていた。


 階段を復元し、階下へと下りていく仁は、今までに感じた事がない感覚に囚われた。


 足下から感じていた階段の感触は視界と共に歪み、下へと引き込まれる感覚へと変わっていった。


 これはヤバいと思いつつも、仁は抗う事すら出来なかった。


 そして、気付けばどことなく見たことのある場所に佇んでいた。



 ── ── ──



「ここは……、えっ? ちょっと待て、ここってまさか」

「久しぶりじゃな、上手くいっているようで何よりだ」

 そこには、『名も無き神』が待っていた。


「な、なぜ貴方がここに?」

「うむ、そうだな、実は伝えたい事があって、少し細工をして置いたのじゃよ」

「えっ? どういう事です? 確か介入は禁止されているのですよね」

「うむ、介入は禁止されておるよ、だからこういった細工をして居るのじゃ」

 名も無き神は、着物の襟を広げ、その内側を見せた。


 そこには何もなかった。


 在るはずの躰が存在していない上に、銀河のような星の輝きが瞬いていた。


「君が観ているものは私ではない、私の影であり、君がかつていた世界でもあるのじゃ」

「…………、すみません、全く分かりません」

「ふむ、要するに、君が居る世界と前に居た世界をくっつけたのが、君が今見ている私じゃよ」


「マジですか、それって禁止されてはいないのですか?」

「うむ、これは予め設計されたものであり、元々このダンジョンをクリアした君に、スキルを譲渡する為のものなのじゃ、だから違反ではないので心配無用じゃ」


「なるほど、でも普通に会話出来る時点で駄目なような気が」

「まあそこは私も同感だが、今回は仕方ないじゃろ、イレギュラーが多すぎて、神界も大混乱しておったし許されるじゃろう」


「そうですね、やっとクリアかと思えば、二カ月間穴掘りでしたし」

「うむ、スキルの方も少し修正せねば機能しないものになってしまったからのう」

「えっ?それって大丈夫なのですか?」

「少し仕様を変えてあるが、君のスキルと合わせれば以前のものより良いはずじゃよ、では早速渡すとしよう」

「はい、よろしくお願いします」

 名も無き神は、仁に巻物を渡し、スキルの譲渡を完了する。


「思ったよりあっさりですね」

「フフ、もっと派手な儀式の方が良かったかのう?」

「いえ、こういった形は助かります」


「ふむ、では残り時間も余りないので本題だが、君の成長は予想以上であり、此方の想定以上の成果が出ておる、そこでもう一つ課題が出された『魔神を斃せ』と」


「はあ!? 魔神を斃すというと神殺しですよね? それって大罪じゃないですか?」


 仁はパニックに陥ったが、名も無き神はこう付け足した。


「まあ、これは神界の神々の要望にすぎない、本来の課題通り無理せず、魔神復活の阻止だけで構わんよ。 なので安心して、引き続き頑張って欲しい、以上じゃ。 それじゃあまたのう」


「えっ!? ちょっ!」



 ── ── ──



 気付けば、階段があった場所で佇んでいた。


「マジかあ……、神殺しとか無いよな、ハハハ……」



 称号『ダンジョンを踏破せし者』を獲得しました。




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