ダンジョンマスターの戦い
仁が勇者の称号を得て、10階層以降の攻略に必要な『ホーリーライト』を覚え、現在15階層の攻略を進めている。
当初、ホーリーライトは闇を祓うことを目的としていたのだが、10階の穴の先にある闇に使用したところ、ダンジョン自体が変質してしまった。
「ふう、今のでDPの5割を消費したので、今日はこれで終わります」
「はい、お疲れさまでした」
仁は、ホーリーライトの魔方陣を設置して、アリアに作業終了を伝える。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「主、お疲れ様です」
「おう、ただいま」
「ヒトシしゃまー、お帰りなしゃい」
「ハイハイ、貴女はこっちに来なさい」
アリアはサチコの突撃を阻止して、仁の邪魔にならないようサチコを連れ出した。
「して、ダンジョンの様子は如何でしたか?」
「ん、ホーリーライトは機能しているけど、穴掘りの方が大変だよ、DPが幾らあっても足りない状況だな」
「なるほど、依然として我々の侵入は出来そうにないと」
「まあそうだな、ホーリーライトの影響で、お前は消滅しかねないからな、浄化されたくはないだろ?」
「そうですな、主に浄化されるならまだしも、同行する事が出来ないのが、一番悔しいですな」
「それは、ゴブリンやオーク、ゴブタロ達も同行出来ないんだ、仕方ないよ」
「忌々しいですぞ、闇を祓った途端に、この様な嫌がらせがあるなど、全く以て腹立たしいですぞ」
リッチは拳に力を込めて、その想いを吐き出した。
10階の穴の先、闇にホーリーライトを放ち分かったことは、ダンジョンの構造が維持できなくなっていた事だった。
闇の力によるダンジョンの侵蝕は、かなり進んでいると話には聞いていたが、維持できる時間は1分となく、異変に気づかぬまま進入していたら、生き埋めとなっていただろう。
ホーリーライトで闇を祓い、ダンジョンの崩壊による撤退には、仁も流石に詰んだと思い、頭を抱えた。
だが、このままこのダンジョンを放棄する事は出来ず、なにか打つ手はないかと、図書室でダンジョン関連の本を読みあさり、ダンジョンクリエイターというスキルが在ることを突きとめた。
ダンジョンクリエイターとは、始まりのダンジョンをクリア時に発動する、ダンジョンマスターの為のユニークスキルであった。
だが、魔神の使徒が侵入したことで、それが不可能になってしまったのだ。
しかし、仁は諦めず、実験を繰り返し、既存のスキルや魔方陣を使い、ダンジョンクリエイターのように自動生成が出来ないものの、手作業によるダンジョン生成が出来るようになったのである。
そして、ホーリーライトの魔方陣を組み込むことで闇の侵蝕を防ぎ、ダンジョンの機能が回復可能であると分かり、15階層までを復元する事が出来たのだった。
これこそが、ダンジョンマスターである仁にしか出来ない、闇との闘いの始まりであり
闇によって侵されたダンジョンを、光の力によって『始まりのダンジョン』を再生させていく事が、仁よるダンジョンマスターの初仕事となり、今後起こりうる魔神の勢力と、戦う術を得る切っ掛けとなったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
仁とアリアは、昨日設置した魔方陣まで転移し、作業を再開した。
「さて、今日も穴掘りを始めますか」
「はい」
作業内容は、マップを確認しながら、崩落した土砂や瓦礫を撤去し、そのままダンジョンの形跡に沿って壁や床を設置し、ホーリーライトの魔方陣にて闇の侵蝕を防ぎ、ダンジョンの再生を促すのである。
この方法に至った経緯はこうである。
当初に行ったホーリーライトによる闇の浄化は、ダンジョンの崩壊を引き起こしたが、10階より上の階層は無事であった。
仁は気になっている事を考えた。
何故崩壊が起きたのか?
闇による侵蝕によって起きたのであれば、あれ程異質な8階や9階が無事なのは何故なのか?
やはり、あの闇が要因であろうと仁は考え、図書室の文献を漁り、試行錯誤した結果がホーリーライトによる闇の浄化と、ダンジョンの再生力に任せることにする事が、正解であると結論に達したからであった。
「仁さま、休憩のお時間です」
「ん?あ、もうそんな時間でしたか、ありがとうございます。全然気付きませんでした」
仁は作業を中断し、アリアの用意した休憩所に移動する。
「いつもすみません」
「いえ、私の役目ですし、趣味みたいなものなので、構いませんわ」
アリアは、仁が無茶をしないようにと、監視役を買って出たのだが、仁と同行できる者がいない上に、仁と二人きりという、美味しい役に就けたことに喜び、非常に上機嫌であった。
「仁さま、お代わりは如何ですか?」
「では、もう1杯お願いします」
「はい」
新たに淹れたコーヒーを、仁のコーヒーカップに注いだ。
「こちらもどうぞ」
「ありがとうございます。これはビスケットですか」
「はい、仁さまのものには適いませんが」
「そんなことはないでしょう、では頂きます」
仁はビスケットをひとつ口にした。
「うん、旨い。これは美味しいですね」
「ありがとうございます。仁さまに頂いたレシピ通りに作りましたが、上手に焼けたので食べて頂こうと思ったのです」
「アリア様は料理だけでなく、菓子作りの才能もあるのですね。 あ、これだと失礼ですね、すみません」
「いえ、これでも沢山練習した方ですし、偶々上手く焼けたのですよ」
「そうなんですか?でも偶々でこんなに美味しいのですから、才能はあると思いますよ」
仁とアリアは会話を楽しみ、ゆったりと時を過ごした。
☆ ★ ☆ ★ ☆
作業を再開した仁は、マップを確認して15階層の復元が終わりに近いことをアリアに告げた。
「やっと15階の復元が終わります」
「かなり長かったですよね」
「ええ、まさか15㎞ある通路とは思いませんでしたね」
「4日も掛かるとは思いませんでした」
「ホーリーライトの魔方陣はMPとDPを大量に消費しますし、こればかりは仕方ありませんね」
「MP譲渡は出来るのですが、ダンジョンポイントがないのが悔しいですわ」
「ハハ、流石にDPは無理ですね。では、仕上げてしまいますか」
「はい」
残りの通路と16階層への階段を造り、ホーリーライトの魔方陣を埋め込んで15階層は完成したのである。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
15階層が完成し、中央拠点にて慰労会を開こうと、仁は各拠点に転移して物資を解放して廻った。
流石に全員を集めるのは断念したが、仲間はずれは良くないと、仁がごねた結果であった。
「はあ、やっと帰って来れたな」
「だから言ったのです、個別に開催すればよいのです」
「流石に疲れましたな」
「うん、すまん。 だけど皆頑張っているんだし、これ位はしてやりたかったんだ」
「仁さまは無理をしすぎです。 これでは、仁さまが一番働いているじゃないですか」
「ですな。 主が我々を思っての行動でしょうが、今回はアリア様が正しいですぞ」
「う……、す、すみませんでした」
各拠点を巡り、解放した物資で料理を作り、慰労会を実施するだけで、都合10時間以上掛かってしまい、アリアとリッチに説教される仁であった。
☆ ★ ☆
「うみゃー、ムグムグ……、プハァ、こりはうまいじょー」
「サチコ、もうちょっとゆっくり食えよ、口のまわりが酷すぎるぞ」
サチコの口のまわりは、ケチャップやら、照り焼きソースやら、それはもう酷すぎるぐらいベチョベチョだった。
「あい、だけどにゃくなったら食べれにゃいのれす」
「無くなったら作ってやっから、もっと女の子らしくしろ、そんなんじゃ嫁に行けないだろ」
「大丈夫れす、ヒトシしゃまに貰ってもらいましゅ……、ヒテテテ」
「仁さまに、迷惑をかけてるのが分からないのですか? 貰って貰おうなどと、どの口で言っているのです」
アリアは、サチコのほっぺをつまみミョンミョンしながら説教をした。
「はい、キレイになりましたよ」
「ありがとうございましゅ、アリアしゃま」
「どういたしまて、仁さまと居たいのであれば、もっと礼節を身につけないと嫌われますよ」
「れいしぇつ?」
「礼儀正しく、マナーを学びなさいといっているのです。口の周りにソースをつけてる意地汚い男の子は好きですか?」
「う、嫌でしゅ……」
「さっきの貴女が、どの様に仁さまに見られていたか分かるわよね」
「あい、分かりましゅた……、あちしはレデーになるでしゅ」
「レデーって、それを言うならレディだろ」
「うぅ、レデー……」
「まあ、まだまだ子供だし、食べて寝て、学んで遊んで、もうちょっとだけ大人しくしてれば、何とかなるだろ」
「あい、頑張るでしゅ」
よしよしとサチコをなでて言い聞かせる仁であった。




