光魔法
お待たせしました。
10階層の攻略から3日が経った。
「キャハハハ、あちしの勝ちら!」
「グヌヌ、もうイチドだ」
サキュバスの子供とゴブタロはトランプで遊んでいた。
「随分と馴染みましたね」
「ええ、子供ですしね」
「子供とはいえ、魔神の使徒の配下です、もっと警戒すべきでは?」
「まあ、そうなんだが、鑑定で確認したらな…………、その、あれだ……」
「何かあったのですか?」
「従属してるんだよ……」
「「はい?」」
仁はサキュバスの子供を手懐けてしまった。
「サキュバス、お前は今後どうするんだ?」
「なんの話れす?」
「「…………」」
「ディーさまとやらの処へ帰らないのか?」
「…………、ヒトシしゃまはあちしが嫌いなの?」
「好き嫌いじゃない、帰らんでいいのかと聞いてるんだよ」
「あちしはヒトシしゃまと居ると決めたのれす、ディーなんてもう知らないのでしゅ、あちしは生まれ変わって、ヒトシしゃまのお嫁さんになるのでしゅ!」
仁は呆れ、リッチは驚き、アリアはサキュバスの子供に敵意を向けた。
「あなた、自分がどんな存在か分かって言っているのですか?」
「恋する乙女?」
「はあ?チンチクリンな上に魔神の眷族であった貴方が、神の使徒である、仁さまには相応しくないと分からないのですか?」
サキュバスの子供は、仁の足に縋り付き、アリアから身を隠した。
「ヒトシしゃま怖い、たしゅけて」
「……、アリア様、子供の言うことです、ここは私に免じて許してやって下さい」
仁はサキュバスの子供をアリアの前にだし、頭を抑え言い聞かす。
「お前もここに居たいなら、アリア様を敬え、彼女は神界の女神様だから、怒らせると神罰が下るからな、分かったらちゃんと挨拶をしろ」
「あい……、アリアしゃま、ごめんなしゃい、あちしはおめかけしゃんでもいいでしゅ、よろしゅくお願いしましゅ、いったぁ」
仁はポカリと殴り、サキュバスの子供は頭を抱え涙ぐむ。
「そうじゃねえよ!まったく、ちゃんと挨拶出来ないなら帰れ!」
「仁さま、小さい子に乱暴はダメですよ。私も子供に大人気なかったですし、もうそれぐらいにしましょう」
「すみません、お前もご免な、殴ってすまなかった」
「いいでしゅ、あちしはヒトシしゃまと一緒なら、この身を……、イデデデ」
仁はサキュバスの頭をグリグリと拳骨で挟んだ。
「調子にのるな」
サキュバスの子供は再び頭を抱え、涙ぐむのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
中央拠点に戻り、今後の攻略を如何するか話し合った。
ゴブリンキングは7階層で防衛の指揮を執ってもらい、8階9階はレベル上げ位しかないので放置、問題は10階層以降である。
仁が戻ってから、何度か穴の先を偵察したが、相も変わらず闇が支配しているのだった。
「ホーリーライトですか……」
「ええ、光魔法を覚えるべきです」
「光と治癒魔法の上位魔法ですか」
「はい、闇に対抗するには必須になります」
「そうですね、分かりました。アリア様、ご教示お願いします」
「はい」
アリアは非常に上機嫌で、仁の願いを引き受けた。
光魔法は、勇者や聖者等の称号が無ければ覚える事すら難しく、覚える為には、教会での信仰や、治癒魔法を極める必要があるのだ。
「では、光魔法の習得条件をお教えします。まずは称号、勇者、聖者、聖女の獲得、若しくは聖職者の職につき、神意、神性の理解力をつけ、治癒魔法を行使しつつ徳を積み上げ、治癒魔法のレベルを高める事です」
「聖職者ですか、無理ですね」
「あ、確かに」
「終了ですな」
「勇者や聖者の称号は魂に紐付いているんですよね」
「あっ!それがありました!」
「「はい?」」
「勇者や聖者の称号は、神意に魂が触れることで獲られるんです」
「……、それに何かあるので?」
「仁さま、お手をお借りします」
「え?手をですか?」
「はい、その手です」
仁は右手を差し出し、アリアはその手を己を胸に差し込んだ。
「な!」
「仁さま、そのまま私を受け入れて下さい」
仁の右手は、アリアの体内に取り込まれていた。
仁の右手がアリア中で融け、仁とアリアの精神が繋がり始める。
── ── ──
仁の意識がアリアと繋がり、覚醒しだした。
「ここは……」
青く輝く湖と、草木の薫りが心地良く、頬にあたる風も清々しいものであった。
「確か、こっちだよな」
仁は朧気に記憶を辿り、森の中へと入っていった。
いつ来たのか分からないが、ここを訪れた事があり、誰かの記憶を思いだした。
「〇〇!!」
仁は森の中を走りだし、低木の枝葉をかき分け、獣道を走り抜けた。
「〇〇!〇〇ー!」
声にならない叫び声は、仁を苛立たせたが、この先に誰かが待っている事は判っていた。
走りながら、何度も名前を叫んでいるが、それが誰の名前か思い出せない。
記憶を辿りながら、向かう場所へと近づき、大切ななにかを求め、心がざわめいている。
やがて、小さなログハウスが建った場所へと辿り着き、扉に駆け寄り開く。
「〇〇ー!ハァハァハァ」
『お帰りなさい、あなた』
扉の奥には誰も居なかった。
ただ、帰宅の返事が耳に残っていた。
手造りのテーブルと椅子に、暖炉とソファーがあり、奥の部屋には寝室の扉がある。
仁は息を整え、寝室の扉をそっと開けたが、誰も居なかった。
頬にひとすじの涙がつたい、仁の心に熱い想いが蘇った。
かつて、愛した人と過ごした大切な場所。
そして、儚くも最後を看取った、辛く悲しい場所であった。
「〇〇ー!」
声にならない叫び声は、虚しくかき消され、想い人の名前は思い出せず、愛する人への想いだけが溢れ出した。
仁はベッドに埋もれ泣き叫び、やがて泣き疲れ寝てしまった。
「貴方が求め、辿り着きたい場所はここなのですね」
アリアは、仁の魂の拠り所を知り、仁の想いを理解した。
大切な人を助けられず、後悔の日々に埋もれ、亡くなった過去の記憶。
転生しても、消えない想いを持ち続け、忘れてしまった記憶に反して、想いを追い続ける魂の叫びは強くなっていった。
ただ一人の女性に想いを捧げ、追い求めた男の生き様は、女神であるアリアにも、涙が溢れる想いで満たされていた。
仁が命に拘る想いは、慈悲
子供に向ける想いは、慈愛
女性に対する想いは、怖れ
理不尽に向かう想いは、怒り
物事への執着はすべて、ここへ辿り着く為の、思いの丈であった。
「あれ?ここは……」
「起きましたか?」
「おはようございます……」
「おはようございます、仁さま」
「えーっと、アリア様、ここは何処ですか?」
仁は、何も無い空間にあるベッドの上に座っていた。
「ここは私の中、まさに神性そのものの中です」
「はい? それって大丈夫なのですか?」
「はい、仁さまは神の使徒として、既に私達の眷族ですので、大丈夫です」
「よく分かりませんが、大丈夫なのですね」
「ですが、ひとつだけ問題がありました」
「な、なにがあったのでしょう?」
「その、仁さまの想いが私に流れてきてしまい、記憶の共有が成されてしまいました」
仁は、背中に冷たいものを感じながら確認を試みた。
「えーっと、もしかしてその……」
「はい、はっきりと……」
仁とアリアは、互いに真っ赤な顔で俯いた。
アリアは、仁の魂が抱える想いはふせて、敢えて誤魔化したが、仁との記憶の共有だけを伝え、目的の称号を与えた。
称号:勇者を獲得しました。
── ── ──
「ちょっ!勇者とか!ふがっ……」
「お帰りなしゃい、ヒトシしゃま!」
飛び起きた仁に、サキュバスの子供が飛びついた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
仁は頭を抱えていた。
「うー、勇者とかないわー」
「えっと、お気に召しませんでしたか?」
「ハッハッハッ、勇者ヒトシさまは魔王を、いや魔神の討伐とか、燃えまするな、ハッハッハッ」
「もう寝る!起こすなよ!」
仁は更に不機嫌になり、ふて寝を開始する。
「あちしも、ヒトシしゃまとお昼寝するじょ!」
「な!……、では私もご一緒します」
「ああ!なんでこうなるんだ! お前達、少しは俺の心を察してくれ!」
ベッドの上でサキュバスとアリアに挟まれ、甘い空気に居たたまれず、やさぐれる仁であった。
「素直じゃありませんな」
「うるせー、俺のキャラじゃハーレムは柄じゃないんだよ!」
嬉しいが、免疫がない仁のチキンハートは悲鳴を上げるのであった。
(俺は〇リ〇ンじゃねぇし!……、うん、ないぞ!)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
サキュバスの子供は、仁によって『サチコ』と名付けられた。
サキュバスのさっちゃん転じて、『サチコ』となり、安易であったが幸子なら良いよなとなり、由来を伝えると満場一致で決まり、サキュバスの幸子は、満面の笑みを浮かべながら、泣いていた。
「サチコ、お前はもっと遠慮を覚えろ!」
「えー、やだー、ご飯がうみゃいのがいけないのら」
「旨いからといって、他人の物まで手をだすな」
「……、ごめんなしゃい」
「ん、素直な子供は好きだぞ」
「あい!」
サキュバスのサチコは、いい返事をしたが、残念なことに、口の周りに生クリームがベットリと付いていた。
サキュバスのサチコは、仁が大好きだ。
良いことも悪いことも、全てを受け入れて貰える。
例え、いたずらをしても、シッカリ叱ってくれるし、良いことをすればちゃんと褒めて貰えた。
サチコにとって、仁はかけがえのない存在となっていた。
仁に出会う前は、魔神の使徒の僕であり、Dという存在が全てであった。
だが、出来損ないと切り捨てられ、ダンジョン内を彷徨っていた。
そんな中で、仁達の軍勢が8階を蹂躙し、9階へと侵攻してきたのを間近でみて、神の使徒である仁を、Dが語っていた敵の僕と思い、恐れおののいた。
だが、仁が軍勢を退却させた事で、これはDの元へと帰れるチャンスなのではと思い、なけなしのアイテムと魔力で罠をしかけ、仁を待ち伏せしていたのであった。
もし、仁がひとりで来なかったら、サチコの運命は変わらなかった。
そして、仁とも会えずに終わっていただろう。
そう、こうやって笑って過ごせる場所にすら、辿り着くことは出来なかった筈である。
サチコは仁に出逢い救われた。
そして、仁の愛情に救われ、暖かな場所へと連れ出して貰えたことに感謝し、己の中にあった闇が消えていったのである。
本来、闇の眷族がこの様に変質することはない。
仁がもつ、ダンジョンマスターの性質と、称号、異形たちの王による親和性に救われたのである。
全ては導かれ、やがて答えをだすだろう。
その答えをどの様に出すかは、神ですら分からずにいた。
── ステータス更新 ──
田中 仁 Lv47
ダンジョンマスター
HP.112800/112800(3s=+5%)
MP.20304/20304(3s=+5%)
DP.50000/50000
STR.188
VIT.188
DEX.141
AGI.141
INT.282
MND.10564
LUK.34
スキル
通常:メニュー.マップ.テレポート.情報.通信.監視
召喚Lv5.作成Lv6.分解Lv5.鑑定LvMAX
魔方陣LvMAX.生活魔法LvMAX.治癒魔法LvMAX
火魔法LvMAX.水魔法LvMAX.土魔法LvMAX.風魔法LvMAX
氷結魔法LvMAX.光魔法LvMAXnew
MP倍加.MP消費半減.HPMP自動回復LvMAX
経験値倍加.思考加速.詠唱破棄
身体向上.知能向上.反応速度向上.回復力向上
戦闘:光の剣Lv1new.光の盾Lv1new
耐性:全属性95%無効.光属性吸収new.闇属性半減new.状態異常無効.精神異常無効
加護:異世界の神(不老不死)
称号:大賢者.異形たちの王
勇者new(光属性倍加)
体調不良で更新が遅れています。
申し訳ありませんが、しばらくは休養を取りつつ、少しずつ書き進めようかと思います。
毎回、読みにきて頂いている方々には感謝しておりますが、宜しくお願い致します。




