異形たちの王
7階層の探索をしつつ、ゴブリン達の集落を目指す仁達は、ある敵性生物に襲われていた。
「またか……、しつこいな、チョロチョロとまあ……」
「トカゲですか……」
「魔法を使うのでさがって下さい」
皆が仁の後方へさがり、魔法を詠唱しながら仁は歩き出し、周囲の通路が凍り始めた。
壁や天井からボトボトと、凍ったトカゲが大量に落ちてきた。
落ちてきたトカゲは皆で踏み潰していく。
「何だろう、なんか不毛なんだが……」
「ハハ、コレハスゴイ、リザードタチガ、コンナニモアッサリトタオセルトハ」
「リザードか………、トカゲじゃね?」
「トカゲですな」
「ええ、トカゲです」
トカゲ Lv35
HP.10/350
状態異常:凍傷.麻痺
弱点である氷属性により、瀕死の凍傷を受け、躰は麻痺して結果的に戦闘不能になっていた。
ダイヤモンドダスト 氷結魔法Lv6相当の仁が創ったオリジナル魔法。
水蒸気のように極小サイズの結晶を辺りに撒き散らし、対象を氷結させていく広域氷結魔法である。
極小サイズの結晶が敵に付着すると、周辺の結晶も集まり、対象周辺の温度を下げ、氷結を促すさまは正にダイヤモンドダストであった。
「素晴らしいですな」
「はい、キラキラと光り、白く輝く樹氷を連想し、敵を活動不能にまで追い込む、オリジナル氷結魔法ダイヤモンドダスト。素晴らしいですわ」
「圧倒的な威力と美しさは、主にしか為し得ない魔法ですぞ」
「……、うん、もういいからそれは」
「トカゲ共も、主の魔法の前には赤子同然ですな」
「ええ、数を見た時は、恐怖を感じましたが、魔法ひとつで戦滅出来るなんて思いもしませんでしたわ」
「あの規模の範囲攻撃魔法ですと、精霊魔法くらいしか在りませんからな」
「仕方ないだろ、相手は壁一面に張り付き届かないんだし、偶々思い付いた魔法だろ?なにそのダイヤモンドダストとか、いつ名前が付いたんだ?」
「あら、仁さまが解説して下さったダイヤモンドダスト、とても良い名称かと思いましたが、不評でしたか?」
「……、アリア様が良いのであれば構いません」
アリアはニッコリと微笑み、仁は諦めるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
仁達は一つ目のゴブリン集落を見つけたが、かなり酷い状況だった。
到着時にトカゲの大群に囲まれ、ゴブリン達が松明を片手に戦っていた。
ゴブリンキングに、ゴブリン達の退避を命じさせ、仁はダイヤモンドダストを集落へ行使した。
トカゲ達は、既に事切れていたゴブリンの死体に群がっていたが、仁のダイヤモンドダストが襲い、集落を埋め尽くしていたトカゲ共はすべて行動不能に陥った。
「モノドモ!カカレー!」
キングの号令に、ゴブリン達は集落中に転がるトカゲ達を襲い、今までの鬱憤を晴らすように、各々の武器で殺していった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「ヒトシサマ、トカゲドモハカタヅキマシタ」
「そうか、それは良かった。間に合って良かったが、彼奴らは大丈夫か?」
仁が指し示した方向には、トカゲの死体に囓りつき生肉ならぬ、冷凍肉を喰らうゴブリン達がいた。
「ドウホウヘノトムライト、オモッテイタダケレバ……」
「そうか、彼らなりの弔いなら、仕方ないか」
仁は微妙な表情しか出来なかった。
「これは酷いですな……」
「…………」
「気持ちは分かります。彼らなりの弔いらしいので、見ない方が良いでしょう」
「ですな。アリア様、あちらへ行きましょう」
「リッチ、頼む。俺はアレを片付けてから行くから」
リッチは肯き、アリアを集落から連れ出した。
集落中が血や肉片、内蔵や骨が散乱し異臭を放ち始め、狂乱が始まっていた。
事態の収拾をすべく、ダイヤモンドダストを作り変え、集落全体に雨を降らせる。
狂乱しかけていたゴブリン達に雨が降り、次第に雨粒が大きくなり正気に戻るゴブリンが増えていった。
血肉の臭いが洗い流され、頭に上った血も冷め、事態は収束された。
「ふぅ、何とかなったな」
「アリガトウゴザイマス」
「まあ気持ちは分かるから、気にするな。一度綺麗にするから、彼らを集落から連れ出してくれるか」
「ワカリマシタ」
キングはゴブリン達を従えて、集落を後にした。
仁は集落に向かって合掌し、亡くなった命に祈りを捧げた。
2分ほどの短い祈りだったが、溢れていたマナが急速に治まり、一礼した後にスライムを召喚し始めた。
スライム達に、死体の処理と壊された集落の片付けを頼んだ。
スライム達は、仁に躰の一部で礼を示し、作業を開始する。
スライム達に後を任せて、仁はアリア達がいる場所へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「お疲れさまです」
「ん?ああ、ありがとうございます。すみません、考え事をしてました」
「どうかなさいましたか?」
「ええ、ちょっと思う処がありまして」
「ふむ、気になりますな」
「ダンジョンマスターとして、向いていないなと思って……」
「確かに向き不向きでいえば、向いていないでしょうな」
「え?なぜです?」
「…………」
「優しすぎるのですよ。主の性格は、支配者としては不向きの性格と云えるでしょう」
「……、ですが仁さま程の適任者は居なかったのですよね」
「そうらしいです……」
「でしたら、……」
「分かってます。今さらですが、人でない彼らの死は無駄にはしません。だからこそ想うのです、魔神の使徒との攻防では、多くの彼らの命が必要になると。きれい事ですまない死闘に向かうには、自分はもっと強くならないと、何時終わるのか分からないですから」
「…………」
「人々の嘆きや怒りは奴等の糧となる。名もなき神さまから聞いていましたが、モンスターである彼らも嘆きや怒りをもっている姿を見て、より理解しました。彼らも救われなければ、魔神との闘いは終わらないと思いました」
リッチが、仁の前で跪き語りだした。
「主殿、改めて誓います。我ら守護者は貴方様に、永遠の忠誠を捧げます。この命、いや魂がすり潰されようと、貴方様に付き従います」
「「「「アルジに、ワレワレのチュウセイをササげます!!」」」」
背後で多数の声が聞こえ、仁が振り返ると、ゴブリンキングを始め、連れて来たオークやホブゴブリンの精鋭達、ゴブタロやコボジロ、オッグにジェット、そして生き残ったゴブリン達も、この場に居たモンスター全てが跪いていた。
称号.異形たちの王を獲得しました。
「はい!?」
仁は素っ頓狂な声をあげてしまった。
(な、何が起きた!?)
「ああ、仁さま彼らの為にも頑張りましょう。私もできる限りの協力をいたしますわ」
アリアは目尻に溜めた涙を拭いながら、仁に寄り添った。
「ぐぬぬ、解せぬ」
仁は思わず、心境を吐露した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
7階層の集落は3ヵ所あり、2ヵ所は既にトカゲ共が占拠していた。
「居た、リザードだ」
リザード Lv38
HP.90/950
状態異常.凍傷.麻痺
集落到着時にダイヤモンドダストを放ち、粗方のトカゲは行動不能になったのだが、トカゲ達の中にふた回りでかい個体がいた。
トカゲと違い、麻痺しているが行動不能にはならず、攻撃をしてきたのである。
最初、麻痺耐性があるタイプと思い鑑定したのだが、リザードと判明し、リーダー格としてトカゲ共を率いていたらしい。
ゴブリンキングが呪いを受けた時も、リーダー格を倒すべく行動していたのだが、カースリザードが奴等に紛れていて、違いに気付かず斃してしまい呪われてしまったのだ。
残念なことに、肝心のカースリザードの特徴が分からず、弱めのダイヤモンドダストを放ち、距離をとって鑑定するという、チキンハート丸出しの仁は何時もと違った。
なにせ、倒した者を呪うという特殊性に、仁は警戒心に囚われ、ビビリまくっていた。
しかし、特異個体なので居るわけもなく、取り越し苦労に終わり、我ながら情けなく思った。
異形たちの王などと、ご大層な称号を獲得した直後ゆえ尚更であった。
「うん、まあ、なんだ、居なかったな」
「レアモンスターですから、余ほど数でもない限り、出会う確率は低いでしょう」
「仁さまは、状態異常無効でしたよね」
「……、斃すと呪われるらしいので、一応用心しようかと」
アリアはクスクスと笑いをもらしながら、仁の耳元で囁いた。
「大丈夫ですよ、私が治します。何の心配もいりませんわ」
仁は顔から火がでる思いで居たたまれなくなり、テレポートで逃げ出してしまった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ノオォォー-!」
第1拠点まで転移して、独りでのたうち廻り、恥ずかしさでいっぱいのまま風呂に飛び込み、水風呂の中で顔を冷まして、冷静さを取り戻したのだった。
「うぅ、どうすべ……、はは……」
どんな顔してアリアに会うのか、仁は笑うことすら出来なかった。
仁にとってアリアとの関係は、初めてだらけの経験であり、今までの色恋沙汰は騙されるだけで、女性イコール詐欺師か美人局の類いでしかないので、純粋な好意で接するアリアの想いは、とても扱い辛いものであった。
それだけに仁は、非常に困り、だが失うのも怖くて、どうして良いかと分からず、逃げ出すぐらいしか出来ないのである。
都合三度生まれ変わり、女性にあまり良い経験がない仁には、女神の愛はあまりにも眩しく、尊いものであった。
「ワフッ!」
「ん?風呂に入りたいのか?そうか、ちょっと待ってろ今沸かすからな、ちょまっ!」
ジェットの家族達が仁目掛けて飛びつき、風呂に押し戻され揉みくちゃにされ、何時もの仁に戻ることができた。
(ここは何時も、俺を癒してくれるのだな)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
仁は平静を取り戻し、通信で連絡を取り、謝罪してテレポートで戻った。
「すみませんでした」
「いえ、仁さまは何も悪くありません。急用があって転移したのですから」
アリアはウインクで合図をし、仁は困惑した。
「主、急用で転移したのであれば、謝罪など必要ありません。アリア様も、もっと堂々とイチャついて良いのですぞ」
「「な!なにを……」」
仁とアリアの抗議がハモってしまい、赤い顔でお互いに見詰めてしまい、益々真っ赤な顔になった。
「ふっ、仲が宜しいようで何よりですな、ハッハッハッ」
「リッチ!!」
仁はリッチに飛び蹴りを喰らわせ、アリアはクネクネしていて満更でもなかった。
「なんで何時もこうなんだ?」
「皆に、愛されているからです」
「…………」
「今はあるがままで良いのです。いずれ時間が癒してくれるでしょう」
「すみません、自分でも不甲斐ないと思いますが、今は許して下さい」
「大丈夫です。私は今幸せです。こんなにも楽しい場所は、初めてですし、何より、貴方に逢えたのですから」
屈託のない笑顔でアリアは語ったが、仁にはまだわだかまりがあって、素直には喜べず苦笑いになってしまった。
(やはり俺は、まだ壊れているんだな)
色々とあり、疲れた仁は休憩を取る事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ああああ、気持ちいい……」
「あ、あの、私にさせて下さい」
「んんんん、き、効くううぅぅ」
「あ、あのぉ……、わたしにも……」
「はぁ、スッキリした、ありがとうな、ゴブタロにこんな特技があったとは、また頼むな」
「…………」
「あ、アリア様もやりますか?マッサージ、気持ち良かったですよ」
「いえ、そうじゃなくてですね……」
「ささ、遠慮なさらずに」
「でしたら、仁さまにお願いしてもよろしいですか?」
「はい?ゴブタロでは駄目なのですか?」
「えっと……、分かりました。ゴブタロさんお願いします」
「ゴブタロ、アリア様もマッサージをご所望だから、やってあげなさい」
アリアがマッサージ用の長椅子に横たわり、仁は大判のバスタオルをアリアに被せ、ゴブタロにマッサージを頼んだ。
「ん……、あっ……、そ、そこは……」
ゴブタロはアリアの背中を温め揉みほぐす。
「んん!…………、ああ……、ん……」
ゴブタロは、ふくらはぎを血流に沿って入念に上下にさする。
「ああああ、きっ、きっくぅぅ!!」
ゴブタロはアリアの足ツボを刺激していった。
「ハアハアハア……、あ、ありがとうございます。大変、参考になりました」
「どうでした?ゴブタロのマッサージ、良かったですよね」
「はい、ゴブタロさんは凄いです。私もお父様にマッサージはしましたが、流石にここまでは出来ませんでしたわ」
「ゴブタロ、アリア様から、お褒めのお言葉がでたぞ、今後のマッサージはお前に頼むからな」
「えっ!?そ、そんなぁ……」
アリアは、仁のマッサージをゴブタロに奪われてしまい、ションボリと項垂れてしまった。
「スッキリしたし、今日はもう良いよな」
「そうですな、7階層も後は階段を目指すか、マッピングですか?それぐらいですし、急ぐことはないでしょう」
「マッサージが……」
「主、アリア様は如何したのですか?」
「ん?ゴブタロのマッサージが気持ち良かったからな、その余韻かもな」
「ほう、そうでしたか、某もマッサージを受けてみたいですな」
「流石にそれは無理じゃね?」
「あ、そうでしたな、某には肉が在りませんでしたな。これはうっかりハッハッハッ」
「わざとだろそれ……」
ハッハッハッと高笑いで誤魔化すリッチに、何時も通りの日常、仁はホッとするのであった。
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田中 仁 Lv38
ダンジョンマスター
HP.91200/91200(3s=+5%)
MP.16416/16416(3s=+5%)
DP.50000/50000
STR.152
VIT.152
DEX.114
AGI.114
INT.228
MND.10456
LUK.28
スキル
通常.メニュー.マップ.テレポート.情報.通信.監視
召喚Lv4.作成Lv5.分解Lv4.鑑定LvMAX
魔方陣LvMAX.生活魔法LvMAX.治癒魔法LvMAX
火魔法LvMAX.水魔法LvMAX.土魔法LvMAX.風魔法LvMAX
氷結魔法.MAXnew
MP倍加.MP消費半減.HPMP自動回復LvMAX
経験値倍加.思考加速.詠唱破棄
身体向上new.知能向上new.反応速度向上new.回復力向上new
戦闘.なし
耐性.全属性94%無効.状態異常無効.精神異常無効
加護.異世界の神(不老不死)
称号.大賢者
.異形たちの王new(各ステータスup)
仁の過去は、今後に語ることはないですが、本文にある通り女難しかない人生を3度送った結果です。
次回は1/12(土)17時の予定です。




