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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第二章、ダンジョンマスターとして
59/206

異形たちの王



 7階層の探索をしつつ、ゴブリン達の集落を目指す仁達は、ある敵性生物に襲われていた。


 「またか……、しつこいな、チョロチョロとまあ……」

 「トカゲですか……」

 「魔法を使うのでさがって下さい」

 皆が仁の後方へさがり、魔法を詠唱しながら仁は歩き出し、周囲の通路が凍り始めた。


 壁や天井からボトボトと、凍ったトカゲが大量に落ちてきた。


 落ちてきたトカゲは皆で踏み潰していく。


 「何だろう、なんか不毛なんだが……」

 「ハハ、コレハスゴイ、リザードタチガ、コンナニモアッサリトタオセルトハ」

 「リザードか………、トカゲじゃね?」

 「トカゲですな」

 「ええ、トカゲです」


 トカゲ Lv35

 HP.10/350

 状態異常:凍傷.麻痺


 弱点である氷属性により、瀕死の凍傷を受け、躰は麻痺して結果的に戦闘不能になっていた。


 ダイヤモンドダスト 氷結魔法Lv6相当の仁が創ったオリジナル魔法。

 水蒸気のように極小サイズの結晶を辺りに撒き散らし、対象を氷結させていく広域氷結魔法である。

 極小サイズの結晶が敵に付着すると、周辺の結晶も集まり、対象周辺の温度を下げ、氷結を促すさまは正にダイヤモンドダストであった。



 「素晴らしいですな」

 「はい、キラキラと光り、白く輝く樹氷を連想し、敵を活動不能にまで追い込む、オリジナル氷結魔法ダイヤモンドダスト。素晴らしいですわ」

 「圧倒的な威力と美しさは、主にしか為し得ない魔法ですぞ」


 「……、うん、もういいからそれは」

 「トカゲ共も、主の魔法の前には赤子同然ですな」

 「ええ、数を見た時は、恐怖を感じましたが、魔法ひとつで戦滅出来るなんて思いもしませんでしたわ」

 「あの規模の範囲攻撃魔法ですと、精霊魔法くらいしか在りませんからな」

 「仕方ないだろ、相手は壁一面に張り付き届かないんだし、偶々思い付いた魔法だろ?なにそのダイヤモンドダストとか、いつ名前が付いたんだ?」

 「あら、仁さまが解説して下さったダイヤモンドダスト、とても良い名称かと思いましたが、不評でしたか?」

 「……、アリア様が良いのであれば構いません」

 アリアはニッコリと微笑み、仁は諦めるのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 仁達は一つ目のゴブリン集落を見つけたが、かなり酷い状況だった。


 到着時にトカゲの大群に囲まれ、ゴブリン達が松明を片手に戦っていた。

 ゴブリンキングに、ゴブリン達の退避を命じさせ、仁はダイヤモンドダストを集落へ行使した。


 トカゲ達は、既に事切れていたゴブリンの死体に群がっていたが、仁のダイヤモンドダストが襲い、集落を埋め尽くしていたトカゲ共はすべて行動不能に陥った。


 「モノドモ!カカレー!」

 キングの号令に、ゴブリン達は集落中に転がるトカゲ達を襲い、今までの鬱憤を晴らすように、各々の武器で殺していった。


 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆


 「ヒトシサマ、トカゲドモハカタヅキマシタ」

 「そうか、それは良かった。間に合って良かったが、彼奴らは大丈夫か?」

 仁が指し示した方向には、トカゲの死体に囓りつき生肉ならぬ、冷凍肉を喰らうゴブリン達がいた。


 「ドウホウヘノトムライト、オモッテイタダケレバ……」

 「そうか、彼らなりの弔いなら、仕方ないか」

 仁は微妙な表情しか出来なかった。


 「これは酷いですな……」

 「…………」

 「気持ちは分かります。彼らなりの弔いらしいので、見ない方が良いでしょう」

 「ですな。アリア様、あちらへ行きましょう」

 「リッチ、頼む。俺はアレを片付けてから行くから」

 リッチは肯き、アリアを集落から連れ出した。


 集落中が血や肉片、内蔵や骨が散乱し異臭を放ち始め、狂乱が始まっていた。


 事態の収拾をすべく、ダイヤモンドダストを作り変え、集落全体に雨を降らせる。


 狂乱しかけていたゴブリン達に雨が降り、次第に雨粒が大きくなり正気に戻るゴブリンが増えていった。


 血肉の臭いが洗い流され、頭に上った血も冷め、事態は収束された。


 「ふぅ、何とかなったな」

 「アリガトウゴザイマス」

 「まあ気持ちは分かるから、気にするな。一度綺麗にするから、彼らを集落から連れ出してくれるか」

 「ワカリマシタ」


 キングはゴブリン達を従えて、集落を後にした。


 仁は集落に向かって合掌し、亡くなった命に祈りを捧げた。


 2分ほどの短い祈りだったが、溢れていたマナが急速に治まり、一礼した後にスライムを召喚し始めた。


 スライム達に、死体の処理と壊された集落の片付けを頼んだ。

 スライム達は、仁に躰の一部で礼を示し、作業を開始する。


 スライム達に後を任せて、仁はアリア達がいる場所へと向かった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 「お疲れさまです」

 「ん?ああ、ありがとうございます。すみません、考え事をしてました」

 「どうかなさいましたか?」

 「ええ、ちょっと思う処がありまして」

 「ふむ、気になりますな」


 「ダンジョンマスターとして、向いていないなと思って……」

 「確かに向き不向きでいえば、向いていないでしょうな」

 「え?なぜです?」

 「…………」

 「優しすぎるのですよ。主の性格は、支配者としては不向きの性格と云えるでしょう」

 「……、ですが仁さま程の適任者は居なかったのですよね」

 「そうらしいです……」

 「でしたら、……」

 「分かってます。今さらですが、人でない彼らの死は無駄にはしません。だからこそ想うのです、魔神の使徒との攻防では、多くの彼らの命が必要になると。きれい事ですまない死闘に向かうには、自分はもっと強くならないと、何時終わるのか分からないですから」

 「…………」

 「人々の嘆きや怒りは奴等の糧となる。名もなき神さまから聞いていましたが、モンスターである彼らも嘆きや怒りをもっている姿を見て、より理解しました。彼らも救われなければ、魔神との闘いは終わらないと思いました」


 リッチが、仁の前で跪き語りだした。

 「主殿、改めて誓います。我ら守護者は貴方様に、永遠の忠誠を捧げます。この命、いや魂がすり潰されようと、貴方様に付き従います」

 「「「「アルジに、ワレワレのチュウセイをササげます!!」」」」


 背後で多数の声が聞こえ、仁が振り返ると、ゴブリンキングを始め、連れて来たオークやホブゴブリンの精鋭達、ゴブタロやコボジロ、オッグにジェット、そして生き残ったゴブリン達も、この場に居たモンスター全てが跪いていた。


 称号.異形たちの王を獲得しました。


 「はい!?」

 仁は素っ頓狂な声をあげてしまった。

 (な、何が起きた!?)

 「ああ、仁さま彼らの為にも頑張りましょう。私もできる限りの協力をいたしますわ」

 アリアは目尻に溜めた涙を拭いながら、仁に寄り添った。


 「ぐぬぬ、解せぬ」

 仁は思わず、心境を吐露した。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 7階層の集落は3ヵ所あり、2ヵ所は既にトカゲ共が占拠していた。


 「居た、リザードだ」


 リザード Lv38

 HP.90/950

 状態異常.凍傷.麻痺


 集落到着時にダイヤモンドダストを放ち、粗方のトカゲは行動不能になったのだが、トカゲ達の中にふた回りでかい個体がいた。


 トカゲと違い、麻痺しているが行動不能にはならず、攻撃をしてきたのである。


 最初、麻痺耐性があるタイプと思い鑑定したのだが、リザードと判明し、リーダー格としてトカゲ共を率いていたらしい。


 ゴブリンキングが呪いを受けた時も、リーダー格を倒すべく行動していたのだが、カースリザードが奴等に紛れていて、違いに気付かず斃してしまい呪われてしまったのだ。


 残念なことに、肝心のカースリザードの特徴が分からず、弱めのダイヤモンドダストを放ち、距離をとって鑑定するという、チキンハート丸出しの仁は何時もと違った。

 なにせ、倒した者を()()という特殊性に、仁は警戒心に囚われ、ビビリまくっていた。


 しかし、特異個体なので居るわけもなく、取り越し苦労に終わり、我ながら情けなく思った。

 異形たちの王などと、ご大層な称号を獲得した直後ゆえ尚更であった。


 「うん、まあ、なんだ、居なかったな」

 「レアモンスターですから、余ほど数でもない限り、出会う確率は低いでしょう」

 「仁さまは、状態異常()()でしたよね」

 「……、斃すと呪われるらしいので、一応用心しようかと」


 アリアはクスクスと笑いをもらしながら、仁の耳元で囁いた。

 「大丈夫ですよ、私が治します。何の心配もいりませんわ」

 仁は顔から火がでる思いで居たたまれなくなり、テレポートで逃げ出してしまった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 「ノオォォー-!」

 第1拠点まで転移して、独りでのたうち廻り、恥ずかしさでいっぱいのまま風呂に飛び込み、水風呂の中で顔を冷まして、冷静さを取り戻したのだった。


 「うぅ、どうすべ……、はは……」

 どんな顔してアリアに会うのか、仁は笑うことすら出来なかった。


 仁にとってアリアとの関係は、初めてだらけの経験であり、今までの色恋沙汰は騙されるだけで、女性イコール詐欺師か美人局の類いでしかないので、純粋な好意で接するアリアの想いは、とても扱い辛いものであった。

 それだけに仁は、非常に困り、だが失うのも怖くて、どうして良いかと分からず、逃げ出すぐらいしか出来ないのである。


 都合三度生まれ変わり、女性にあまり良い経験がない仁には、女神の愛はあまりにも眩しく、尊いものであった。


 「ワフッ!」

 「ん?風呂に入りたいのか?そうか、ちょっと待ってろ今沸かすからな、ちょまっ!」

 ジェットの家族達が仁目掛けて飛びつき、風呂に押し戻され揉みくちゃにされ、何時もの仁に戻ることができた。

 (ここは何時も、俺を癒してくれるのだな)



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 仁は平静を取り戻し、通信で連絡を取り、謝罪してテレポートで戻った。


 「すみませんでした」

 「いえ、仁さまは何も悪くありません。()()があって転移したのですから」

 アリアはウインクで合図をし、仁は困惑した。


 「主、()()で転移したのであれば、謝罪など()()()()()()()。アリア様も、もっと堂々とイチャついて良いのですぞ」

 「「な!なにを……」」

 仁とアリアの抗議がハモってしまい、赤い顔でお互いに見詰めてしまい、益々真っ赤な顔になった。


 「ふっ、仲が宜しいようで何よりですな、ハッハッハッ」

 「リッチ!!」

 仁はリッチに飛び蹴りを喰らわせ、アリアはクネクネしていて満更でもなかった。


 「なんで何時もこうなんだ?」

 「皆に、愛されているからです」

 「…………」

 「今はあるがままで良いのです。いずれ時間が癒してくれるでしょう」

 「すみません、自分でも不甲斐ないと思いますが、今は許して下さい」

 「大丈夫です。私は今幸せです。こんなにも楽しい場所は、初めてですし、何より、貴方に逢えたのですから」

 屈託のない笑顔でアリアは語ったが、仁にはまだ()()()()()があって、素直には喜べず苦笑いになってしまった。

 (やはり俺は、()()()()()()()んだな)


 色々とあり、疲れた仁は休憩を取る事にした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「ああああ、気持ちいい……」

 「あ、あの、私にさせて下さい」

 「んんんん、き、効くううぅぅ」

 「あ、あのぉ……、わたしにも……」

 「はぁ、スッキリした、ありがとうな、ゴブタロにこんな特技があったとは、また頼むな」

 「…………」

 「あ、アリア様もやりますか?マッサージ、気持ち良かったですよ」

 「いえ、そうじゃなくてですね……」

 「ささ、遠慮なさらずに」

 「でしたら、仁さまにお願いしてもよろしいですか?」

 「はい?ゴブタロでは駄目なのですか?」

 「えっと……、分かりました。ゴブタロさんお願いします」

 「ゴブタロ、アリア様もマッサージをご所望だから、やってあげなさい」

 アリアがマッサージ用の長椅子に横たわり、仁は大判のバスタオルをアリアに被せ、ゴブタロにマッサージを頼んだ。


 「ん……、あっ……、そ、そこは……」

 ゴブタロはアリアの背中を温め揉みほぐす。

 「んん!…………、ああ……、ん……」

 ゴブタロは、ふくらはぎを血流に沿って入念に上下にさする。

 「ああああ、きっ、きっくぅぅ!!」

 ゴブタロはアリアの足ツボを刺激していった。

 「ハアハアハア……、あ、ありがとうございます。大変、参考になりました」

 「どうでした?ゴブタロのマッサージ、良かったですよね」

 「はい、ゴブタロさんは凄いです。私もお父様にマッサージはしましたが、流石にここまでは出来ませんでしたわ」

 「ゴブタロ、アリア様から、お褒めのお言葉がでたぞ、今後のマッサージはお前に頼むからな」

 「えっ!?そ、そんなぁ……」

 アリアは、仁のマッサージをゴブタロに奪われてしまい、ションボリと項垂れてしまった。


 「スッキリしたし、今日はもう良いよな」

 「そうですな、7階層も後は階段を目指すか、マッピングですか?それぐらいですし、急ぐことはないでしょう」

 「マッサージが……」

 「主、アリア様は如何したのですか?」

 「ん?ゴブタロのマッサージが気持ち良かったからな、その余韻かもな」

 「ほう、そうでしたか、某もマッサージを受けてみたいですな」

 「流石にそれは無理じゃね?」

 「あ、そうでしたな、某には肉が在りませんでしたな。これはうっかりハッハッハッ」

 「わざとだろそれ……」

 ハッハッハッと高笑いで誤魔化すリッチに、何時も通りの日常、仁はホッとするのであった。



 ─── ─── ─── ─── ───



 田中 仁 Lv38

 ダンジョンマスター

 HP.91200/91200(3s=+5%)

 MP.16416/16416(3s=+5%)

 DP.50000/50000

 STR.152

 VIT.152

 DEX.114

 AGI.114

 INT.228

 MND.10456

 LUK.28

 スキル

 通常.メニュー.マップ.テレポート.情報.通信.監視

 召喚Lv4.作成Lv5.分解Lv4.鑑定LvMAX

 魔方陣LvMAX.生活魔法LvMAX.治癒魔法LvMAX

 火魔法LvMAX.水魔法LvMAX.土魔法LvMAX.風魔法LvMAX

 氷結魔法.MAXnew

 MP倍加.MP消費半減.HPMP自動回復LvMAX

 経験値倍加.思考加速.詠唱破棄

 身体向上new.知能向上new.反応速度向上new.回復力向上new

 戦闘.なし

 耐性.全属性94%無効.状態異常無効.精神異常無効

 加護.異世界の神(不老不死)

 称号.大賢者

   .異形たちの王new(各ステータスup)




仁の過去は、今後に語ることはないですが、本文にある通り女難しかない人生を3度送った結果です。

次回は1/12(土)17時の予定です。



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