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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第一章、始まりのダンジョン
56/206

閑話.とある日常.その3

今年最後の投稿です。




 カシムの町にある公邸では、ひとりの男が奮闘していた。


 アルフレッド・カーラント(42)カーラント公爵家当主にして、カーラント領の領主である。


 現在、彼はカシムの町で激務に追われていた。


 その理由は彼の息子、エルリック(17)が起こした事件が発端である。


 エルリックはカーラント家の名を剥奪され、神を蔑ろにする狂人として、王都の地下牢奥底にある無限洞穴へと送られた。


 無限洞穴とは、文字通り無限に拡がる空間である。

 そこはかつて、()()使()()が用意した空間であった。

 なにかあったら、ここを使えと云われ、以来王国では手に余る重罪犯を探索目的の刑場として利用していたのである。

 出てこられたら免罪だと言い含め突き落とすのだが、未だかつて誰一人として帰還出来た者は居なかったのであった。

 では帰還出来た時は如何するのか、それは神が赦したから出られたと見なし『無罪放免とする』と王が持つ宣誓書にも記された誓約である。


 アルフレッド・カーラントは王に己の隠居を望んだが、王は其れを許さず、神を怒らせた罰としてカシムの町で尽力せよと命じ、現在自らが動き奔走しているのであった。


 数十年ぶりの激務は、年老いた躰を否応なしにいたぶったが、アルフレッドは逆に、やる気は漲っていた。


 子供の頃に、憧れた英雄達のお伽話に出てくる神に逢い、本来裁かれたはずの己を赦して『よくやった』と言われ、息子を残念に想うが、己の運命を覚り、身を投げ打つ覚悟を持ち、こうして自ら働ける喜びは何よりも勝るものであった。


 「ふぅ、すまないが、何か飲み物をくれ」

 「畏まりました」

 メイドが紅茶を入れ、テーブルに焼き菓子と共に配膳し、アルフレッドは礼を述べた。


 紅茶を飲み、一息付いているアルフレッドに、家令のヨハンは窘める。

 「アルフレッド様、もう少しお仕事を控えて下さい」

 「大丈夫、俺は今とても充実している。確かに躰にガタが来ているが、そんな事よりもあの方の為なら死んでも構わんとさえ思っている」


 「…………、しかし、カイル様はまだ19歳です、万が一を考えますと、奥方様やお嬢様方に顔向けが出来ません」

 「……、そうだな、すまん。だがこれは罰でもあるしな、申し訳ないがしばらくは俺のしたいように遣らせて貰う」

 「分かりました、ですがちゃんと休養はとって貰いますので、無理を為さらないようにお願い致します」

 「分かった、すまんな。迷惑を掛けてしまうが、この仕事は俺の夢の欠片だ。これをやり残すと俺には何も無くなってしまう。子供の頃に憧れた、あの方の役に立ちたいのだ」

 「分かります。私もかつては夢見たことも御座いますゆえ……」


 「ありがとう。だがエルリックの事を想うと、正直残念なのかどうなのかが複雑だな、お前にも奴の教育をして貰ったが、如何してああも馬鹿なのかが解らん。すまんな、我ら親子共に迷惑を掛けてしまうが、もう少し付き合ってくれ」


 「滅相もありません。私もかの方に逢えて、若い頃の夢を思い出し、若返った気分です。迷惑などとは思っても居りません。大旦那様の頃から仕えた私は、アルフレッド様やカイル様に仕えるのは当たり前ですし、エルリック様は残念でしたが、アルフレッド様やカイル様を通してあの方のお役に立てるのですし、これ以上の喜びはないと、使用人も喜んで居ますので、どうかお気になさらず、私共を使って下さい」

 「そうか、ありがとう。今後もよろしく頼む」

 アルフレッドは一礼して、ヨハンは深々と礼を返し、メイド達もそれに倣った。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 在る日、ガイアが急遽訪ねてきた。

 「どうした急に」

 「ああ、仕事中だったかすまんな」

 ガイアは頭を掻きながら近寄り、ソファーへと座った。


 「構わんよ、ガイアの急用なら、あの方のことだよな」

 「そうだな、まあ其れだけじゃないんだが、実は12月24日にあの方が祭りの前夜祭をギルドホールで行いたいそうだ」

 「ん?祭り?……、24日だと明後日ではないか?」

 アルフレッドは、祝日や祭日の類がないことに疑問を口にした。


 「そうだ、あの方がアレクとナターシャの婚約を聞いてな、急遽決めたそうだ」

 「ん?どういう事だ?アレクとナターシャというと、マーク様絡みだよな」

 「ああ、そうだ。あの方はマーク様の師であったアレクとナターシャとも昵懇の仲だ。そのアレクとナターシャが婚約をするという事で、12月25日の神事の前日に大勢の客を集めてパーティーを開いて、祝ってやろうという寸法よ。いい話だろ、だから領主の許可を俺が貰いに来た訳よ」

 ガイアが語った神事という言葉をアルフレッドは問い質す。


 「なに!?それは真か?今、12月25日が神事と言ったよな」

 「ああ、25日は何でも神の御子が生まれた日だと言っていたな……」

 ガイアはしれっと噸でもない事実を語る。


 「な!なんてことだ、これは一大事だ、すぐに王都へ報せねば成らないぞ、ヨハン!すぐ魔導師殿を呼んでくれ」

 「分かりました、すぐに使いの者を向かわせます」

 「どうした、何かマズかったか?」

 「そうだな、非常にマズいが、今からだと間に合わんし、報告だけなら魔導師殿の使い魔で何とか間に合う筈だ」

 「何の事だ?」

 アルフレッドは、頭に手を当てガイアに言い聞かせる。

 「12月25日が神の御子様の()()()()だということを、()()()()()のは、最優先事項ではないか」

 「おお!そうだな、こりゃうっかりだったな、すまん」

 「こうしては居られんな、ガイアは何か云われていないか?」

 「ん?……、そうだな、オレには何もするなと言っていたな」

 「ふむ、流石に分かってらっしゃっるな、それだけか?」

 「ああ、ギルドホールの使用許可だけくれと云われたから来ただけだな」

 「分かった、それは許可しよう。それ以外は無いのだな?」

 「ああ、それだけだ」

 「了解だ。ガイア、頼みがある。ギルドホールの警備並びに、人員の選考、掛かった費用は全て依頼扱いで此方に回して欲しい。いいな、あの方の邪魔をする奴の排除は最優先事項だ、頼むぞ」

 「おうよ!任せとけ!」

 「よし、次は商人ギルドと話を通さねばならんな」

 「ふむ、それもオレが引き受けよう、どうせ帰り道にあるしな」

 「そ、そうか、なら頼むぞ」

 「ああ、じゃあまたな、何か在れば報せる」

 「ああ、頼むよ、此方も何か在れば報せるからな、よろしく頼む」

 ガイアは退室し、商人ギルドへと向かった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 アルフレッドは、公邸の最上階の一角にある、町を一望できる部屋に居た。

 「魔導師殿、よく来てくれた」

 「このアーニアに御用と聞き、参上致しました」

 「すまないが、急ぎ王城に連絡を取りたいのだ」

 「分かりました、では早速準備に入ります」

 「よろしく頼む……」

 アルフレッドは魔導師アーニアに、王城へ向けて使い魔を送る依頼をした。


 この使い魔による通信手段は、緊急時以外は禁止為れている。

 何故なら、使い魔の性質上、契約者から離れた場合、制御不能となり何が起こるか分からないからであった。

 ただ、封書などの軽く小さな物を届ける事は可能であったので、緊急時だけは許されていたのである。


 「準備出来ました」

 「では、これを頼む」

 アルフレッドは、小さな筒に緊急時用の小さな書簡を入れ、アーニアに渡した。

 「では早速、送ります。大凡、片道4時間は掛かりますので、明日の朝まで、ここを使わせて頂きます」

 「了解した、よろしく頼む。食事はここで構わないのか?」

 「はい、お気遣いありがとう御座います」

 「そうか、ならそうしよう。仕事が終わり次第、改めて食事の用意はするからな、あと何か在れば、このメイドにいってくれ」

 アルフレッドは、アーニアにメイドを一人付け、執務室へと戻っていった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「待たせたな、急遽呼び出しすまないが、頼みたい事があるのだ」

 「はい、ガイアさまからお伺いしましたが、何やらあの方のお仕事と聞き、参上した次第です。何なりとお申し付け下さい」

 「そうか、では…………」

 こうして、アルフレッドは商人ギルドと繋ぎをとり、町の有志を集め、24日に起こるであろう事態の回避を試みる算段をしたのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「居たか?」

 「いや、こっちには居なかった」

 「くそっ、何処行った……」

 「おい!こっちだ!」

 「居たぞ!」

 「こっちだ!回り込め!逃がすな!」

 冒険者達は、逃げ回る()()冒険者(スパイ)を追っていた。


 「フッ、もう逃げ場はねえぞ!」

 「ハッ、それは如何かな……」

 「強がんな、お前の仲間はもう捕まってるんだ、大人しく捕まれ」

 「くっ、こ、殺せ……」

 「はあ?なにそれ?殺さねえし、お前ら()()()読みすぎなんじゃね?」

 「此だから、狂信者共は邪魔なんだよ、あの方はそういうのが苦手なんだ、何回言っても聞かねえよな」

 「なんだと!そんな事はない!女エルフが捕まる時はこのセリフしかないだろ!?」

 「……、お前らエルフは何を見ているんだ!まったく、何でこいつらはこうなんだ?」

 冒険者達は何時もの如く、エルフの対処に辟易していた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「報告します。エルフ3名ドワーフ2名を拘束しました」

 「そうか、よくやった。引き続き捜索を続けろ。奴等はまだ居るはずだ」

 「了解しました」

 アルフレッドは、明日の前夜祭に影響が無いように、万全の体制をとっていた。


 「ふぅ、厄介だな、奴等はいつから狂信者の道に進んだのやら……」

 「大旦那様の頃では、既にああでした」

 「彼等の先祖は聡明だとあったのだがな、今では話の通じない狂信者に成り果てるとはな……」


 アルフレッド達はエルフ共の扱いに手を焼いていたのだが、実は昔に仁がエルフ達と出逢った時の出来事が影響しているのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「素晴らしい、これがクリスマスツリーというものか……」

 「ああ、オレも最初に見た時は感動しちまったよ」

 「うむ、これは良いものだな、是非このままあって欲しいな」

 「オレもそう思って頼んでみたんだがな、26日には撤去するそうだ」

 「そうか……、残念だな、王にも見てもらいたかったのだが、仕方ないな、絵師に頼んでみるか」

 「なるほど、その手があったか」

 「25日は在るんだよな」

 「ああ、一般公開するそうだ」

 「そうか、有難いな、神の御子の生誕の日か……、今後は王都でも行える様にしないとな」

 「そうだな、来年はカシムの町をあげて行うべきだな!」

 ガハハと笑うガイアの声が、夜中のギルドホールに響くのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「くそっ!」

 「行かせるか!」

 「ウリャッ!ぐはっ……」

 「よっしゃっ!取り抑えろ!」

 「ングゥ!ンンゥ…………」

 「これで最後だよな?」

 「いやもう一人居たはずだ」

 「え?マジか、オレもパーティーに行きてえのに、くそっ!」


 仁達が冒険者ギルドのホールでパーティーを行っていた頃、有志の冒険者達が外で警備をしていた。


 「何処だ?まさか会場じゃないよな?」

 「ああ、だが奴等は侮れんから、誰か報せに行かせよう」

 「よし、オレが行く!」

 「まて!お前はリーダーなんだから、他の奴じゃないとな」

 「ちっ……」

 「あ!居たぞ!上だ!」

 「なに!?な、なんだと!」

 「天窓から侵入為れたぞ!ギルマスに報告しろ!奴が侵入したと」

 冒険者達は一斉に動き出し、ギルドの外壁を登り始めた。

 数人がギルドホールへと入り、ガイアに報告をしに走った。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 「なに!?侵入を許しただと!」

 「ガイア!お前が行け!俺はここの指揮を執る!」

 「分かった、任せとけ!」

 アルフレッドは、ガイアに侵入者の捕縛を指示し、会場の警備に集中する事にした。


 「あと少しなんだ、お前らも油断するなよ」

 「「「はい!」」」


 「なんかあったのか?」

 「え?いやこれは……、今、侵入者が居ましてガイアが向かって居ります……」

 「そうか、すまないな色々とさせてしまって」

 「いえ、滅相もありません、これは私共の仕事ですので、お気遣いなく願います」

 「分かった。だが、ありがとう、君達の働きが無ければ、このパーティーは出来なかった筈だ。ガイアにもよろしく伝えておいてくれ」

 「はっ!」

 アルフレッドは、仁を最敬礼で見送った。


 まさか仁に声を掛けられ、労いの言葉を貰えたことに、一同は感激して薄らと涙ぐむのであった。


 天窓から侵入した賊はガイアに取り抑えられ、無事警備の任務は達成された。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 ギルドホールに造られた舞台上で、仁は閉会の挨拶を開始した頃、アルフレッドにある報せが届く。


 妻のセザンヌが懐妊したと……


 「「「おめでとう御座います」」」

 「…………、あ、ありがとう」

 まさかの報せがもたらされ、閉会と共に始まった打ち上げ花火の最中、今日一日の出来事がかすみ、アルフレッドは皆に祝福され、新たな命を授かったことに感謝したのだった。


 数日前にもたらされた今回の仕事だが、夜空に描かれる大輪の花火に、何とも云えぬ想いが溢れ、アルフレッドは神に感謝し、祈りを捧げるのであった。


 『私の冒険(たび)は、まだ終わらないのですね』と……



ばたばたしていた最中で書き上げたので、最後が少し雑になったきがします。

書き直しするかも知れませんが、ストーリーとは絡む事はありません。

次回の予定は活動報告にて、お知らせ致します。



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