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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
第一章、始まりのダンジョン
55/206

閑話.とある日常.その2

メリークリスマス~♪

いきなりですみません。

作者からのプレゼントです。

何とか間に合いました、お楽しみ下さい。




 「ヒトシさん、これはなんですか?」

 「ん?マークか、丁度良いところに来たな、ちょっと手伝ってくれ」

 「はい、何をしましょう」

 「これを持っててくれるか」

 「はい……、すごいですね。キラキラとして、何だか楽しそうです」

 マークは、クリスマスツリーの飾りを見上げ、ウズウズしていた。


 「まだまだ始めたばかりだが、分かるのか。これはクリスマスツリーという」

 「クリスマス?」

 「ああ、俺がいた世界の宗教的な行事なんだが、俺が住んでた国では形骸化してな、俺らの世代では年末の祭りのひとつになったんだよ。その飾り付けをしたもみの木がクリスマスツリーだ」

 「へー、お祭りですか、良いですね」

 「よし、大体出来たな、ちょっと離れてくれ」

 「はい……」

 仁が何やら取り出し、設置してツリーの紐と繋げる。


 「ふぇ!?…………、す、凄い!凄いです!」

 「ハハ、成功だな」

 「綺麗ですね、ピカピカ光ってますが、魔道具ですか?」

 「まあ魔道具ではないが、似たようなものだ。完成したし、これは仕舞うから、ちょっと離れてくれ」

 「はい………、でも飾ったのにどうして仕舞うんですか?」

 「ん?子供たちの家の前に、当日設置するからさ」

 「え?今日じゃないんですか?」

 「ああ、12月25日がクリスマスだから、飾るのは24日だ」

 「そうなんだ……」

 「まあまだ2日あるが、盛大にやるからな、当日のお楽しみだ。あ、これは子供たちもだが、他の連中にも内緒だからな」

 「分かりました。ワクワクしますね、僕に出来ることありませんか?」

 「大丈夫だ、当日の飾り付けぐらいだし、その時お願いするよ」

 「はい!……、あ!アレクさんが何やら相談したいと、伝言を頼まれていました。すみません、うっかりしてました」

 「ん?そうか、なら一緒にいくか、いつもの処に居るんだろ?」

 「はい」

 「アリア、ちょっと出てくるから、後はよろしくな」

 「はい、マスタ一」


 仁とマークは、カシムの町外れまでテレポートで転移し、何時もの酒場へと向かった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「酒場で相談とかいうから、てっきり仕事の相談かと思ったんだが」

 「そうなんすよ、最初は仕事の打ち合わせでしたけど、金が足りねぇと言い出しましてね、聞けば、ナターシャに贈り物がしたいとかで、このバカリーダーの相談にのっていた処です」

 仁は冷ややかな眼差しで、二人を見ていた。


 「しかし、お前ら仲が良いな。普通、内緒にするもんじゃないのか?」

 「そうなんですが、ちょっとした問題があるんです」

 「ん?問題?」

 「あ、それはオレが孤児院出身者だからなんで、オレの方が問題があるということで、ナターシャには問題がない訳で……」

 「ああ、ハイハイ、何となくだが分かったわ、結婚のことで揉めているんだな」

 「え?ど、どうして……」

 「そういう話しは昔から在るから、分かるだけだ。しかも、丁度いい時期だし、俺に任せろ」

 「え?どういうことです?」

 「そうだな…………」

 仁はヒソヒソとアレク達に提案した。

 「ハハ、マジか、良いんですか?」

 「まあ場所が変わるだけだし、人数多い方が良いだろうしな、盛大にやってやろうじゃないか」

 「「あ、ありがとうございます」」

 アレクとナターシャは、泣いていた。


 「構わんよ、良い話しは皆と分かち合わないとな」

 「「「「ありがとうございます」」」」

 「じゃ、ちょっくらギルドに行こうか」

 「「はい!」」

 仁達は酒場の勘定をすませ、冒険者ギルドへと向かった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「そうか、分かった!後は任せろ!」

 冒険者ギルドギルドマスタ一のガイアは己の胸板を叩き吠えた。

 「ちょっと持って下さい。それは内緒でないと駄目なので、私共がやりますから、許可だけ下さい」

 仁は慌ててガイアを制した。


 「ん?そうなのか?」

 「ええ、これはギルドではなく、アレクが主体でないと意味が在りませんので」

 「そうか……、そうだな、アレクよ、気張れよ!」

 「はい!ありがとうございます!」

 ガハハと笑うガイアの了承も取れ、ギルド職員との話し合いをして、この日は終わった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「ジングルベール♪ジングルベール♪……?なんだっけ?思いだせんな」

 「なんですかマスタ一、今の歌は?」

 「うん、クリスマスソングなんだが、1万年ぶりなせいか、忘れてしまったよ」

 「そうですか、久しぶりにマスタ一の歌声が聴けると思いましたが、残念です」

 「ん?そうなのか?」

 「はい、前回は120年前になります」

 「え?マジか、そんなに前だったか……」

 「はい、やはりマークさまのお陰ですね。こんなに楽しく過ごして居られる仁さまは、久しぶりに見ました」

 「ん!あ、ああ、そうだな。久しぶりに田中仁として、楽しんでも良いよな」

 「はい、私も良いかと思います」


 こうして、仁とアリアは久しぶりの会話を楽しんで、クリスマスイベントの準備を済ませたのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 イベント開始前夜

 「よーし、こっちはいいぞー」

 「あいよ、ちょっとこっちに寄せてくれるか?……、はい!Ok!じゃ、降ろすから………」


 冒険者ギルドのギルドホールに、仁が造ったクリスマスツリーが設置された。


 「スゲぇ……、これずっと置かないか?」

 「…………、申し訳ないのですが、これば26日には撤去しますので」

 「そうか、残念だな」

 ガイアは本気で項垂れてしまった。


 「はぁ……、なんて素晴らしい飾り付け、まるで神々が祝福して下さっているようですね」

 「…………、一応、祭事ですので、こういった飾り付けなのです。くれぐれも悪戯などは、為れないようにお願いします」

 「畏まりました」

 「では、明日の開始時間まで、よろしくお願いします」


 夜中ではあったが、こうしてクリスマス会場の準備は整ったのであった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 開場1時間前

 「どうだ?支度は出来てるか?」

 「はい、そろそろ此方にくると思います」

 「そうか、ならそろそろ会場の仕上げをするから、後はそちらで何とかしろよ」

 「はい、よろしくお願いします」

 「おう、そろそろ子供たちが来るから、マークもよろしくな」

 「はい!」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 開場30分前

 「な、なにこの料理、旨そう……」

 ギルド職員達はテーブルに並ぶクリスマス料理を見て、目の色を変え生唾を飲み込んでいる。


 「ハイハイ!今はダメよ!我慢なさい、後で食べられるそうだから、ちゃっちゃと準備をなさい」

 「「「「はーい」」」」

 「まったく……、ガイア様!駄目です!」

 「うっ……、すまない、ついな……」

 「お気持ちは判ります。私も気になってますし、でもこれはあの方のお気持ちがこもったものです。ギルドマスタ一なのですから、我慢して下さい。お願いしますね」

 「分かった、善処する」


 一部の人は大変だったが、まあ何とか、会場の支度は整えられたのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 開場直前

 「えっと、ここで良いのよね」

 「はい、ここにナターシャさんが居ますので、どうぞ入って下さい」

 「しかし、なんでこんなに人が居るんだ?」

 「はい、それも後で説明しますので、とにかく中へ入って貰えませんか」

 カイはナターシャの両親を連れて来たが、冒険者ギルド前が様々な人々でごった返しになっていて、入るのに時間が掛かっていた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 開場5分後

 「そろそろ出番だが、良いか?」

 「「はい!」」

 「よし、では行くぞ」

 仁は会場の舞台裏から、アレクとナターシャを連れて、表舞台へと踊りでた。


 「皆様、本日は集まって下さりありがとう御座います。えー、今回、皆様に集まって頂いた趣旨を発表致します。本日はクリスマスイヴと言いまして、私の故郷の祭事の前日に当たる日であり、前夜祭となって居ります」


 「今、皆様の気になっていらっしゃる料理は、その前夜祭に振る舞われている品々でありますが」

 「ここでひとつ皆様にお知らせしたい事があります。この催しは本当は身内、またはパートナーの方と行うものでして、今回こうして皆様と行う運びになった理由が在ります」

 仁は、アレクとナターシャを促し、並ばせた。


 「えー、皆様はご存知かと思いますが、冒険者のアレクとナターシャはこの度、この場所にて婚約をする事と成りました。今回のこの催しも彼らがギルドと掛け合い、交渉の末に獲得できた結果であります」

 会場の至る所で、アレクとナターシャを祝福する声が響きわたる。


 「ありがとう御座います。皆様の祝福も神々にまで届いたと思います。ではもう一度、アレクとナターシャに盛大な拍手をお願いします」

 パチパチパチパチと、至る所で拍手が起こり、会場は熱気に包まれた。

 するとクリスマスツリーが輝き、シャンシャンシャンシャンと鈴の音が響き、白いものが降ってきた。


 教会の鐘がなり、何処からともなくラッパが吹かれ、クリスマスソングが聞こえてきた。


 この世界で、雪が降ることは無く、しかもこの様な現象は今まで一度たりとも無かった事であった。


 人々は上空を見上げ、天より舞い落ちる白い雪を見て涙した。


 仁は、神々が演出するとは思わず、まさかの事態であったが、ここまで為れては、もう後には退けず、イベントを盛り上げ、大盤振る舞いの覚悟を決めたのであった。


 「さあ皆様方!神々が祝福を与えて下さりました。これもアレクとナターシャをお認め下さった証拠です。もう一度、二人に祝福の声を上げましょう」

 アレクとナターシャは泣いていた。


 皆に祝福され、あまつさえ神の祝福まで授かり、二人は抱き合い号泣する事しか出来なかったのであった。



 ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 その後、両親と会ったナターシャは母親と抱き合い涙したが、ナターシャの父とアレクは殴りあっていた。


 「貴様!ナターシャを泣かしたら許さないぞ!神に代わって成敗してやる!」

 「やってみろ、クソジジイ!」

 とりあえず目的は達成した様子であった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 「はぁ、一時はどうなるかとヒヤヒヤしたが、何とかなったな」

 「ええ、後で抗議の連絡をいれますか?」

 「……、いや、退屈なんだろ、今頃飲み会でもしているだろうしな」

 「わかりました」

 「よう、もう良いか?」

 「はい、大丈夫ですよ」

 「そうか、では皆とご馳走になる。ありがとう、良いものが観れた、本当に感謝している。ありがとう」

 ガイアは仁の手を取り、ぐっと握手を交わし、涙ぐんでいた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 仁達はガイア達と別れ、マーク達がいる場所へとやって来た。


 「やってるか?」

 「あ、ヒトシさん、お疲れさまでした」

 「うん、ありがとう、しかし、びっくりしただろう、すまんな」

 「はい、感動しました」

 「そうか、俺はヒヤヒヤしたがな」


 子供たちは、ローストチキンやフライドチキンを片手に持ち、もちゅもちゅとしゃぶるように食べていた。


 「「「ヒトシさま!これ美味しいです!」」」

 「そうか、それは良かった、まだあるからな、たくさん食っていけよ」

 「「「「はい!」」」」

 モグモグと食べる子供たちの笑顔をみて、やっとひと息つけたのだった。


 「アリア、もうアレの準備は出来て居るんだよな」

 「はい、仕込みはもう出来ています」

 「なら、時間まで俺達も楽しもうか」

 「はい、仁さま」


 こうして、夜のとばりが降りるまで、仁達は皆と料理と酒を楽しむのだった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 仁は舞台に上がり、最後の挨拶をする。


 「皆様、宴もたけなわでありますが、夜も更けてまいりました。名残惜しいですが、この時間をもちまして終了とさせて頂きます」

 仁はアリアに合図した。


 「それでは皆様と過ごした記念に、最後の余興をお楽しみ下さい」

 仁は出口を指し示し、皆は外へと繰り出した。


 会場のギルドホールから、少しずつ人が減っていくと、外から大きな音と光りの粒が舞い、人々の視線を釘付けにした。


 ドーンと鳴り響き、その数秒後にパアッと咲く輝きが、花と咲き乱れ、スッと消えていく。


 打ち上げ花火の豪快さや、華やかさに彩られた夜空を眺め、観衆が増えていく。


 カシムの町の夜空は、月や星々の輝きしかなく、大気の汚れすらない夜空に、大輪の花火が咲き誇り、次々と咲き消えゆく光景に、人々は感動を覚えたのだった。


 カシムの町でのこの日の事は、神々の祝福として、世界各地へと報されて往くこととなる。


 クリスマス、神々の祝福の日


 この日を境に12月25日は、この世界の神事となったのであった。




書き終わって思いましたが、クリスマスとかは大丈夫ですかね?何か問題が在るようでしたら、ご一報下さい。


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