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とあるダンジョンの探索記  作者: アイネコ
序章、見習い冒険者マーク
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約束の地


 公邸の一室に苛立ちを隠さず不満顔の男が、主不在の椅子を蹴り倒し部下達を怒鳴りつける。

 「なぜだ!何故見つからない!たかが庶民のガキに、なぜ振り回される!」

 怒鳴られ萎縮する部下の中に、ひとりボソリと呟く声がした。

 「ああっ!?なんだ?言いたいことが有るなら、はっきりと言え!」

 「坊ちゃん、最初から言ったはずです、あのガキには手を出したらヤバいって」

 気怠そうに男は大きなため息を吐いた。

 「なんだと!きさま!オレがガキに劣るというのか!」

 「坊ちゃん言葉遣いが、落ち着いて下さい」

 「坊ちゃんいうな!」

 ハアハアと息を荒げる男、カーラント公爵の次男、工ルリック・カーラントである。

 「……エルリック様、落ち着いて下さい」

 「ああ………、手を出すなだったな、なにかあるのか」

 「はい、お父上もご存じなので、知っているのですが、あのガキ……もとい彼は選ばれし者です。それに手を出すこと、即ち、神に逆らう者と成るのです。200年前に神と交わした約束の地もここです、お判りですよね、住民の嘆きや憤りの意味が」

 「ああ!?バカか?そんなお伽噺をだれが真に受けるという!」

 諫めたつもりが、貶める言葉に嫌気がさした。

 「坊ちゃん、いくら次男坊とはいえ公爵家でしょう実話ですよ実話、王家にも神と交わした親書があると教えて貰ってますよね?どうなんです?ここの住民の先祖は、代々子や孫に伝えてる実話なんですよ?お伽噺なんてあんたバカなんですか?」

 エルリックの時は止まった。



 エルトランド王国、カーラント領領主アルフレッド・カーラントは焦っていた。


 アルフレッドは、カシムにあるダンジョンに調査団を送り、復活の報せが来たところで王都からの登城要請があり、視察団を一時棚上げし王都へと向かったのだが、それを好機と判断したエルリック・カーラントは、手勢を集め視察団としてカシムの町へと向かったのだ。


 アルフレッドは国王からの密命を受け、領都に戻るとエルリックが手勢を以て視察団とし、カシムに向かったと報告が上がったのだった。


 アルフレッドは慌ててカシムに向け出立した。

 国王の密命は200年前の約束の地である、始まりのダンジョンで神の使徒に会い、丁重に王都へ招くことであった。

 だが、先に向かったエルリックは、約束の地の始まりのダンジョンを、ただの枯渇したダンジョンとして認識し、軽んじていた。

 そんなエルリックが何をするかなど知れた事である。

 昼夜を通して馬を使い潰しながら強行軍で4日かかる所を2日弱で到着したが、全ては終わっていた。


 エルリックは抜け殻になっていた。

 何を言っても反応せず、アルフレッド到着の報せが来た途端逃げ出し、喚いて話しにならなかった。

 エルリックが何をしたか報告を受け、天を仰いだ、終わったと。


 だが事態は止まない、もうカーラント家は取り潰しは免れないのは確定しているのだ。

 だが100年以上続いた名家カーラント家の先祖代々の面目まで潰す訳にはいかないと奮い立ち、全てを掛けて事態に向き合い対処し、解決しようと動きだしたのだった。



 首謀者、エルリック・カーラントの廃摘という事で何とか住民の怒りの矛先を収めようと領主アルフレッド・カーラントは到着早々に、頭を下げたのだった。

 公爵家が下々に頭を下げるなど起きようにない事態に、住民一同の驚愕と恐怖は凄まじかった。


 こうして一連の騒動は収束して行ったのだが、まだマークや仁、マイク一家や子供たちが一向に帰ってこず、公爵家のピンチは続くのだった。

 住民もこれには此で納得の事態なので見守っていくしか術は無い。


 一方、ダンジョン近郊に出来た、真新しい建物の中で祝勝会を開く人々が居た。

 「いやぁ、早かったですな」

 「そうですね、もうちょっと骨があると思ってたのに、拍子抜けでしたね」

 「んぐんぐ、かぁっ!うめぇ!勝利の美酒ってやつだな」

 「ガイアなんでここにおる、お前は公爵家側だろう?」

 「ああん、爺臭えこというな、酒がマズく成るじゃねぇか、堅ぇこたぁなしだ飲め」

 「ハハ、まあ楽しく飲んで食べて騒いで、忘れましょう。今日ぐらいは神様も笑って許してくれるでしょう」

 「うっ……」

 「ハッハッハ、ガイア一本やられたな、そうだな、今日ぐらいは良いよな、よしとことん呑むぞ!」

 から揚げ、ピザ、エビフライ、カツサンド、片手で摘まめる見たこともない料理に、マイク一家や子供たちは夢中で食べる。

 「ハムハム、モグモグ、んぐっ、はぁ、おいしいね、お兄ちゃん!」

 「んぐう!んぐぁ!」

 「アハハッ、何言ってるかわかんないよ」

 「んぐっ、はぁ、うめぇって言ったんだよ、リサももっと食べないとなくなるぞ」

 「うん、食べる」

 「よし、今度はあっちだ、いくぞ」

 「あ、まってぇ」

 「はは、すいません、うちの子たちが……」

 「いえ、構いませんよ今日ぐらい好きなだけ食べさせましょう、そうでないと、気が晴れないでしょう」

 「ありがとうございます」

 「マイクさんもどうです?向こうには良い酒も在るんで呑みましょう」

 「はい、ご相伴になります」

 「では行きましょう」

 こうして、公爵家は放置されたのである。


 翌日、ひょっこり現れたマイク一家が自宅跡地を片付ける村人達と遭遇した。

 「村長!マイクが帰って来ました!」

 「なに!あ、ああ、無事だったようだな、良かった」

 「おかえり、マイク!」

 「ありがとう、ただいま戻りました」

 「奥さんも子供たちも無事みたいだが、マークは無事なのか?」

 「ああ、マークはヒトシさんと一緒で無事だよ」

 「そうか、なら良かった」

 「皆にも心配を掛けたようだな、片付けまでさせてしまってすまない」

 「それは構わない被害者だしな、それよりも、まったく何を考えているのかが分からん、例え領主様でも今回は信用ができん」

 「そうだな、領主様は良い方だと思ってたががっかりだ」

 「しかし、これではもうここは住めんな、どうするか……」

 「それなら心配ない、ヒトシさんが直すらしい」

 「本当か?またあれを建てるのか?」

 「ああ、有難いことに、今準備しているらしい」

 「そうか、さすが神様が遣わした使徒様は格が違うな」

 「まったくだ」


 村人達がマイクの家の焼け跡を片付けていると、ガタゴトと馬車の音が聞こえてきた。

 「こんにちは」

 「こんにちはー」

 「ヒトシ殿、お待ちしておりました。私はこの村を預かり、村長をしておる、ドランと申します。この度はこの村の住民のマイク一家ならびに子供たちを救って頂き、有り難う御座います」

 「初めまして村長殿、ご挨拶にも伺わず丁寧な挨拶痛み入ります」

 「改めまして挨拶をさせて貰います。私はタナカ・ヒトシといいます」

 「この度は、不意な事とはいえ、この村にご迷惑を持ち込んでしまい、誠に申し訳ありません」

 「いや今回はご領主様側が明らかに悪いので、ヒトシ殿が謝る謂われなどありえません」

 「有り難う御座います。つきましては災難に遭いましたマイクさんならびに損害のあった家屋の修繕や建て直しを致しますので、よろしくお願いします」

 「大変有難い申し出感謝致します。今回の被害の回復は本来ご領主様がするべきですが、流石にそれを待つ時間も場所がないので、有難く受けさせて頂きます」

 「では早速作業を開始させて頂きます。作業は危険な事もあるので、なるべく私達の指示など無い場合は近寄らないようお願いします」

 「分かりました、ではよろしくお願いします」

 「それでは、また後で」


 「さて、やりますか」

 バリバリ、ガリガリと廃材を粉砕してゆく破砕機は、けたたましい音を立てて焼け跡の廃棄物を処理してしまった。

 村人達は驚愕と供に、焼け跡がみるみる片付いていく光景に賞賛を送る。


 「次は地均しだが、魔法陣でやるから、もっと離れてくれ」


 仁は焼け跡に何やら書かれた布を広げそれを起点に人々に離れるように指示をだし、中心に向いて地に手をついた。

 中心にある布が光り大地が揺れた。

 揺れが治まり、仁が布を取り払うと、焼け跡は消えていた。


 「よし、馬車をこちらに入れてくれ」

 ガタゴトと馬車は家屋があった場所の手前で停まった。

 仁が指示をしなから、資材を降ろしていき、それぞれの場所に組み合わせていくと、既に外観は家であった。

 村人達は組み上げていく手順を見ていたが、なぜ家になったかが分からず唖然とするしかなかった。


 「次は内装だな、これも魔法陣を使うから離れてくれ」

 仁が家の中に入り、暫くした後家全体が光った。

 「よし、入ってくれても良いぞ」

 「マイクさん、どうぞ」

 「お、おう………な、なんと、これは……」

 「どうです?とりあえずの設備は整えましたけど、足りない物は言って下さい」

 「いえ、十分です、ありがとうございます」

 「ここまで出来るとは、魔法とは凄いのですね」

 「そうですね、厳密には魔方陣ですが、長い研鑽の果てに出来るので内密にお願いします」

 「承知しました、村人達にも徹底いたします」

 「お願いします。では次があるので、また後で」


 その後、再度子供たちの家を建て、序でに公衆浴場を建設してその日は終わり、村人達と風呂に入り疲れを癒し、さっぱりしたとこで宴会になり、親睦を深めたのだった。


 それを聞きつけた領主一行は、もう仁が居ない上に、村人総出で抗議の声を浴びせられたのであった。

 何もかもが後手後手であり、塩対応の領民に、頭を下げる領主はもう誰にも評価されなく成ってしまい、後は仁を見つけ謝罪するしか手が無い。

 だが、神出鬼没の仁は一向に見つからない上に、こうして情報が入ったら一目散に駆けつけるしか無いのが現状なのだ。

 いわゆる『詰み』であった。



マーク回は次で一区切りの予定です。

どうやら風邪をひいたらしく、皆さんも体調管理をしっかりしましょうね。

おまゆう作者でした。

失礼しました。

マジで頭痛が……

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