マークの帰還
マークは行方不明になった日から2日目の夕方に帰還した。
オレはアレク、職業は戦士でCランク冒険者だ。
オレの人生で最大の出来事であり、カシムの町でも衝撃的であった先週起きた事件の話しをしよう。
事件当日は、マークの冒険者ギルドメインイベント(注:そんなイベントはありません)『冒険者採用試験』があったのだが、マークのことを全職員が可愛がっていたので、即採用が満場一致で決定したんだ。
ガキの頃から可愛がり、マークを知っていたオレ達は全員当然だと喜んだが、ギルマスがそれに待ったを掛けた。
当然、オレ達は不満をぶちまけたのだが、ギルマスは「気持ちは判るが、それじゃあ示しがつかねえ」と言い職員も含めオレ達全員を説得し、採用試験を行うことになった。
試験の内容はどうでも良かった、ぜってぇ受かるからな、だが我らがギルマスはやらかしてくれやがった。
なんと、北の森のダンジョンにひとりで行けと言い放ちやがった。
マークはギルマスに試験内容を確認後、徐に走り出した。
オレ達は焦り、ギルマスも慌てて叫んだ「おいアレク!後を追え!」と
オレは頷き後を追った、丁度北門前で背中が見え、北門を出たところで急に方向が変わった。
疑問に思ったが、自宅に向かっているのが判り、ちょっとだけ見直した。
親に相談し、一緒に断りに行く選択をしたんだなと。
断ればいいのだ、無茶振りだから誰も咎めないし、冒険者として当然の判断だからな。
なのに、マークは真面目だから素直に従いやがった。
そこはいい、昔からそういう奴だからオレ達は可愛がって、色々と仕込んできたんだ。
だが出てきた所を見て、思わず納得した。
何時ものリュックにポーチまで装備していやがった。
オレは誤解をしていた。
こういう奴だからこそ仕込んできたと再確認でき、嬉しかった。
オレ達はマークに認められていたからこそ、こいつは行くんだと
ダンジョンに到着し、入り口前で気合い入れるマークを見て、試験の合格はまず間違いないなと思った。
気合いの入ったアイツは、どんな奴より頼もしい。
何より集中力がヤバい、油断すらしないし、堅実な手をうつからな。
マークがダンジョンに入ったのを見てから、茂みから立ち上がり辺りを確認。
ゆっくりとダンジョン入り口に近づくと、何かの気配があり後ろが気になった。
何も無いし気になるが、マークの後を追うことにした。
4階層迄は何事も無く突破、だが4階層に入った途端マークを見失った。
ずっと正体不明の視線感じるし、マークを見失うことはヤバいので足を速める。
通路先に気配があることに安堵し確認しようと近づいた。
すると、辺りを見回しているマークが見え咄嗟に隠れた。
「あっぶねぇ…、見付かってないよな?」
マズいと思いながら確認をしようと近づいたのだが、それがマズかった。
目の前に飛び込んできたマークと目が合ってしまい動きを止めてしまっていた。
その直後、何か当たった感覚と視界から消えるマークの顔しか思い出せない……
オレはあの時パニックをお越していたのだろう
その後の行動も、うろ覚えでマークの名を叫びながら必死で探していた。
なにか手掛かりがないか、床や壁を手探りで確認したり出来ることはやり尽くしていた。
オレは何が起きたのかを必死で思い出す、あの時目が合い何かが当たり壁に激突したのを思いだした。
おそらくマークはオレを突き飛ばしたのだ。
なぜ? 消えた? どこで? 床か? 必死で考えた。
だが何も無い……、罠だよな? もしかして、テレポーターか? まさかな、あり得んだろこんなところに……
もうこれ以上一人で出来ることはないと判断、ダンジョンを出ることにした。
オレの目の前で行方不明になったマークを探す為に、1度カシムの町へとオレは戻った。
町に到着し冒険者ギルドに駆け込んだオレは、ギルマスが居るであろう執務室に直行した。
扉を叩き、至急の報告だと叫ぶオレを見た連中が集まりだした。
何事だ?と声を掛けられたが、ギルマスに至急の報告だと繰り返していた。
お陰でギルマスにすぐ連絡がつき、マークが消えたと報告をする。
最初は何を言っているかも判らずにいたので、何度も繰り返し正確に伝えることに徹底した。
かなり時間が掛かったが、繰り返し伝えていくうちに、何が起きたかが伝わり、皆の顔が青ざめていった。
この時、別室にはマークの両親が待機していたのだが、すでに日没真際になっていたので、翌日捜索隊を組んでダンジョンに向かうことを決めてから、マークの両親に伝えたのだった。
翌日、オレ達は捜索隊を連れてダンジョンに向かい捜索を開始。
念の為5階層までくまなく捜したが、なにも見つからなかった。
2日目も早朝から夕方まで捜索は行われたが、やはり成果はなく町へと帰還した。
冒険者ギルドの前で解散した捜索隊の足取りは重く、マークの行方を憂う気持ちは絶望へと変化しつつあった。
マークの両親が泣き崩れている姿に、オレは拳を強く握り締めた。
そして、北門から門番が慌てて走って来るのが見え、ギルド内へと駆け込んだ。
「先ほど、北の街道を歩いてくるマーク君を確認!いま北門にて保護しております!」
門番は繰り返し伝え、一礼して去っていった。
ギルドの外でその知らせを聞いた捜索隊たちは、歓喜した。
泣き崩れる者、抱き合い喜ぶ者、安堵して騒ぎ出す者、それぞれがマークの無事を喜んだ。
オレは気付くと北門に向かって走り出していた。
そして、北門の詰め所から出てきたマークに走り寄っていった。
夕方の薄暗く赤い光りに照らされて、苦笑いしているマークの前に立ち拳を突き出すと、拳を打ち合わせて挨拶をする。
「お帰り」「ただいま」
交わした言葉はそれだけだった。
オレはマークを連れて冒険者ギルドに向かった。
そこで皆が待っていると……
マークの両親が号泣しながら、息子を抱き締める姿に、皆は涙したのだった。
後日、マークに事情聴取をしたが、マークは何も覚えておらず、気がつくと町の近くに居たのだと……
そして、その手に1本の剣が握られていたとも……




