【8】始まりの果実
お久しぶりです。
やっと街に着いた。
魔獣と戦った場所から街まではそんなに離れていなかった。
いや、離れていたのかもしれないが、ずっと精神的に追い詰められていたらしく、ほっとしてから一気に気が楽になり、足に力が入らなくなり、手を貸してもらっていた。
助けてくれた集団は冒険者らしく、Dランク冒険者チームの【始まりの果実】というチーム名の人達だった。
リーダーのデリトス、平のリアナ、マモン、ルルカの四人パーティーだ。男二人女二人のお人好しの人達で、わざわざ冒険者ギルドまで案内してくれて、道中、ワイバーンに襲われ、なんとか逃れ、街をめざしたいが、遠く、途中魔獣に襲われたという話をしたら、今後の身の振り方を一緒に考えようと、明日の朝、一緒に考えてくれると言ってくれた。今日の宿はとりあえず、ワイルドウルフという魔獣を倒した報酬をデリトスがギルドから受け取り、それを俺が貰って安宿に一部屋三人で泊まらせてもらった。
俺は、色々やって貰っている間、ずっと魔法の感触を忘れられずにいた。
翌朝
「あ、あの、ミナトさん、そろそろ起きてください、朝ですよ?」
肩を揺らして起床を促す声がする。
「ん、ぅん〜あと五分…」
誰の声だろう?覚醒していない頭で記憶を探る。
「もうっ!ミナトさん!ミーナートーさん!起きてください!朝ですよ〜!」
「いいよ〜、今日は疲れてるから〜」
待って、誰だっけ?というか、この匂い!なんだ!?臭い!
「ミーナー、っきゃっ!」 「クサイ!!」
あまりの臭さに勢いよく飛び起きてしまった。その時、肩を揺らしていたエクシアを飛ばしてしまった。
「え、えっと…俺はエクシアさんに言ってた?」
尻もちを着いていたエクシアさんをみる。
「いってて、えっとー、はい。言ってましたね、私に」
いゃっだ、もう、恥ずかし!!
「そ、それは、ごめんね、あ、とばしたことも、ごめんね、・・・おはよう」
顔を赤くして、顔をなかなか見れないで、手だけを出す。
エクシアは手を掴んで起き上がる
「いいですよ、それと、おはようございます。そろそろ始まりの果実の皆さんとの約束の時間ですよ」
この世界にも時計はある。今は8時半を指していて、約束の時間は9時だ。
「あっ、そっか、ここ宿屋か、準備しなきゃ・・・と言いつつも特にすることはなかったや、起こしてくれてありがとう」
一瞬焦ったが、学校はもうなかった。
顔でも洗おうかと、ベッドから降りようと——するが、エクシアに押し返される。
「え?えっとー、エクシアさん?っどわっ!」
そのままベッドに押し倒され、床ドンされてしまった。
「えあえっ、えっと、エクシアさん!?」
少しずつ顔を近づけてくる。そして——
「ミナトさん!私臭いですか!?私ってあんな勢いで起き上がるほど臭いですか!?確かに最近お金が無くて水浴びぐらいしかできない日もありましたし、昨日だって一日歩いて汗かいて臭うかもしれませんが、あんな勢いで起き上がるほど臭いですか!?匂いますか!?」
あっ、そっちですか。いや、まぁ別に期待してたわけじゃないよ、でもね、ね、そうかなーと思うじゃんね、
「ミナトさん!どうなんですか!?」
半分泣きながら服も昨日破ったせいできわどい所まで見えている。あと少しで胸の突起まで見えそうになる。
「いやいや!臭くないよ!さっきの臭いってのはこの枕が臭いって言っただけ!エクシアさんの事じゃないって!」
顔が息がかかるぐらい近く、服もギリギリで今にも落ちてきそうな状態。しかも上にまたがっているので、朝から刺激が強い、やばい!静まれ!
「おっはよー!湊、朝ごはんはどうす——」
終了。終わり。ジ・エンド。このタイミングで来るか…傍から見たら朝から盛んなカップルではないか。まずい。非常にまずい。
「あ、あの、薫さん、これには事情があってですね、決して薫さんが怒ることは・・・」
声に震えが入っている。
「湊…歯、食いしばりなさい」
上にエクシアさんが跨っているせいで逃げることも出来ない。甘んじて受け入れるしかないのか…
「ま、待ってください!カオルさん!私が悪いんです!私が勘違いしてミナトさんを問い詰めただけなんです!」
天使!女神!いや、まぁ、追い詰めたのもこの子だけど。
「そうなの?湊」
「うんうんうんうん!」
首がはちきれんばかりに縦に振る。
そこから状況説明十五分。新しい服を買うのに十分、そしてギリギリの時間と残った数少ない金でギルドへと向かう。
ちなみにここでの貨幣は
小銅貨・・・1円
銅貨・・・10円
小銀貨・・・100円
銀貨・・・1000円
大銀貨・・・10000円
小金貨・・・100000円(十万)
金貨・・・1000000円(百万)
大金貨・・・10000000円(千万)
ミスリル貨・・・100000000円(一億)
ぐらいの感覚となり、ワイルドウルフ毛皮と討伐報酬は銀貨5枚、つまり五千円だった。宿代銀貨3.5枚、つまり三千五百円だった。服を小銀貨8枚で買ったので、残り小銀貨8枚だ。
定刻にギルドに着くと、始まりの果実の4人はもう既に座っていて、俺たちを待っていた。
「すみません、遅れてしまって」
「いや、大丈夫だよ。ちゃんと定刻だよ。」
リーダーのデリトスは優しく話してくれる。
すると、平であるルルカが口を開く。
「あれ?エクシアちゃん、昨日と服が違うね、せっかく私の昔の服あげようと思ったのに〜」
「あ、ありがとうございます。今買って来ました。」
「でもせっかく持ってきたし、上げるよ〜」
「でも、貰えません。こんなに良くしていただいて…」
袋を手渡されるが、エクシアは受け取らない。
すると、もう1人の女性冒険者のリアナが仲介する。
「エクシアちゃん、貰ってやってくれないか?ルルカは昨日エクシアちゃんにあげるんだ、と必死で探してたんだ。」
恥ずかしい話を暴露されたルルカは「言わない約束でしょ〜も〜!」と言いながらもそういうわけだからと、エクシアに押し付けるように渡した。
「あ、ありがとうございます。」
すると、少し体格のいいマモンが指揮をとる。
「さて、そろそろ本題に入ろうか?」
「そうだね。」
リーダーであるデリトスも続く。
「さて、君たちの今日からなんだけど、一日で元居た町に戻るのは結構厳しいね」
なんでだ?昨日は来れたのに
「ここから君たちの街まで歩きだと三日〜五日はかかる。道中は宿もなく、道も荒れている。ワイバーン達はものすごく早く飛ぶから、そんな距離には感じなかっただろうけど、君たちは結構飛ばされていたんだよ」
目の前に地図を開きながら解説してくれる。
曰く、昔は道が整備されていて、比較的行きやすかったが、最近は整備に回すだけの予算の余裕がなく、荒れ始めているらしい。
「噂では山賊もデルと聞いたことがあるな〜」
マモンがいつの間にか食べ物を食べながら話している。いつ食べ始めたんだ。
「そこでね〜、少しの間この街で滞在して、資金を稼いだらどうかな〜」
今度はルルカが言う。順番に言うルールでもあるのだろうか。次はリアナだろうか。
「冒険者ギルドに登録すれば、簡単な依頼を受けて、報酬を受け取れるぞ」
ほらやっぱり。
「俺達でもなれますか?俺と薫は何も知らないし、エクシアさんも」
「私もあまり大したことは出来ません」
三人が小さくなる。
「大丈夫さ!ミナトくん!君はワイルドウルフを無詠唱の魔法で仕留めたんだろ!?それは十分に凄いことなんだよ!」
急に席をたち、デリトスが力説を始める。
「エクシアちゃんだってもう炎の日常魔法が使える。ということはまだ伸びしろがあるんだよ!カオルさんはまだ分からないけど、きっとできるよ!」
「そうですか…でも、戦い方とか全く分からないんですけど」
平和は日本で暮らしていて、急に対人、対魔獣で戦えるかと言われたら、答えは否だ。絶対に無理だ。
「そこで私たちから提案があるの。」
リアナが今度話し始める。
「私たちのパーティーはルルカは魔道士、私とデリトスが前衛、マモンは魔法少し、前衛少し、荷物持ちメインでやってるの。バランスが取れていいチームだと私は思ってるの。そこで、あなた達にも少し協力させて欲しいの」
それはありがたいんだけど、そもそも魔法少ししか使えないふたりと、何も出来ない一人だぞ。無理に決まってる。
「そもそも、前衛とかって何するのか私分からないんですけど」
薫が本日第一声。
「前衛とは出てきた魔獣の前に立ち、後衛である魔道士の援護を受けながら、敵に切り込みに行くのよ。魔道士は攻撃魔法が使えるなら基本攻撃をしながらサポートするのが仕事ね。あとは色々仕事があるけど、今はいいわ。」
なるほど、さっぱりわからん。
「とりあえずさー、冒険者登録しないとどうしよもないよね〜」
また別のものを食べながらマモンが話し始めた。
「そうだな。ミナトくん達、一緒に受付に行こうか」
なんて面倒見のいいリーダーなんだろう。
そして、ここで初めて、異世界最初のテンプレ感がでてきた。とても楽しみだ。
まだ行きます




