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【3】湊の決意

やっと異世界に行きます!お待たせ!

「僕がいる世界は魔法というものが存在していて、


もともと生まれ持った魔力に圧倒的な差があっても、


経験や熟練度を上げることでその差を埋めることができる努力に比例する社会なんだ。でも100%還元では無いんだ。センスが物をいう。いわゆる適正だね。


そして、その中でも体の中に猫を持っている猫使いと呼ばれている人たちは圧倒的な力を持つことができるんだ。


そして、猫というのはそれぞれ試練を設けていて、猫に合格と判断されたもののところに契約を結びに降りてくるんだ。


その試練は、高レベルの猫になればなるほど厳しいものになって行くんだよー」


そこで一拍おいて、再び話し始める。


「その中でも金・銀・白・黒の猫には特別な力があって、


他を寄せ付けない力にまで成長させることができるんだにゃ。


それだけじゃなくて力を継承することだってできる。ここまでで質問話あるかい?」


「私からいい?」


「どうぞ」


「じゃあまず一つ目。猫って何匹いるの?継承って?」


「いい質問だ!

猫は色の数だけいると言われてるよー。


でも正確なことは分かってないんにゃんねー。


でも僕が知ってる限りだと五十〜六十はいたよ。


継承っていうのは、その猫を持っている人の血縁ならどんなに遠い顔を知らない人でもその力をそのまんま受け継がせることができるんだ。


継承しないで猫使いが死ぬと、その蓄えられた力はリセットされるよ」


白猫は一気に説明して、少し息を切らしはじめている。


「継承は分かったけど、猫の数のことなんだけど、過去形ってことは今はもうそんなにいないの?」


「鋭いにゃ。その通り。今はせいぜい二十〜三十ぐらいかにゃ」


「何でそんなに減っちゃったの?」


「・・・戦争だよ。」


その冷たく言い放たれた言葉に湊たち二人は鳥肌がたった。


「いつの時代も、どの世界もそうさ。国が揉めれば戦争が起こる。その戦争も最初は小さなことから始まって、二匹のバカな猫が偏った考えを持ったせいで悪化したんだ。」


薫はその言葉を聞いて感が働いた。


「そう!分かった。もうそれ以上は言わなくていいわ。どうせ行かないんだし!ほら、湊。明日も早いんだから寝たほうがいいんじゃない。白猫、さあ帰って!」


「どうしたんだよ急に。薫は何でそんなに焦ってるの?」


「僕がその二匹のうちの一匹。白い毛に返り血がついた様子から白い悪魔とか殺戮の白牙とか言われていたよ。」


今まで笑っていた顔がピエロの仮面をかぶった悪魔に見えてきた。その道化の顔の下には血にまみれた顔があるのではないかと思った。


「何でそんなことしたの?それだけの力があるんだったら均衡を保つことだってできたんじゃないのかな?」


「その考え方もあったさ。でも僕ら二匹は違った。再起不能にすれば恐怖で支配できると思った。」


そう言いながら小さく震える右手を左手で抑えようと力を込める。その正常な姿に安心して緊張した空気が溶けていく。


「・・・・・まっ、今は違うけどねー、モットーはラブアンドピース」


「何だ!心配したじゃん!殺戮を楽しむ悪魔かと思ったよ!」


薫が場の空気を和ませようと明るく振る舞う。


「そ、そうだね。薫が焦ってる姿に一番動揺したよ。僕は」


はははははと笑いあって、少し落ち着いた頃、再び話を戻す。


「じゃあ二つ目の質問。私たちが・・・いえ、湊が異世界に行った時の湊側のメリットと、何で連れて行きたいか教えてくれない?」


「よく分かってるね。僕が用があるのは湊くんだけなんだよ。でも、彼がいくなら君も必然的にいくことになるだろうけどね。」


「なぜ?」


「簡単だよ。君が湊くんにとって大切な存在であるからだよ。記憶を共有してるから知ってるんだ。」


「そうなの!?湊!」


「ま、まあそうだけど・・・おい白猫!何でそんな恥ずかしいこと言っちゃうんだよ!」


「みなと〜〜〜〜〜!大好き〜〜〜!!!」


「分かったから!離れて、ちょ、痛い痛い、痛いって言ってるでしょ!」


抱きつく薫にチョップをする。


「いてて、それで白猫ちゃん。私のさっきの質問は?」


「ああ、そうだね、君たちのメリットは特に無いかな。強いて言うなら魔法が使えるようになる事ぐらいかな。理由としては前回の規模を遥かに上回る戦争の事前の防止と一匹殺してほしい猫がいる」


「「丁重にお断りさせて頂きます!」」


「ですよね〜」


白猫は分かっていたように受け流す。


「何でわざわざそんな危険な世界に行かなきゃならないんだよ。」


「そうだそうだ〜!」


「そう言われると思って、僕から提案があるにゃ」

「んー?何?」


「異世界に行ってくれるなら、何か一つだけ願いを叶えてあげるよ!」


「湊を私だけのものにしたい!」

「ちょっと薫!?何口走ってんの!?」

薫は暴走するとたまに変なことを言い出す。絶対いつか後悔する。


「ごめんね、人の感情とかは操作できないんだ。後願いを増やすとかもダメだよ?んー、例えばバストアップとかだったらどうなの?」


「いりません〜!私Cあるのでいりません〜!水着が美しいんです〜!」


「え?薫、大きくなったね・・・」


「でしょー!触ってみる〜?・・・ってなるかーい!」


「「ナイスノリツッコミ」」


「そう言うのいいので早く進めてくださいセクハラ猫」


「僕だけ!?湊くんは良くて僕だけ!?」


必死に抗議するも、だんだんとゴミを見る目になっていくので諦める。


「そっかー。じゃあ湊くんのやりたいことってないの?」


「僕がメインでいくのにはじめにその話を僕に振らないこと自体が間違いだよ・・・」


正論を言った後しばらく考えるが、


「んー、今の所薫との高校生活が一番楽しみだから無いかな?」


「みなと・・・愛してる!!!」


「わわっ、ちょ、傷が痛いからやめて」


そう言って元の席に座らせる。


「ふむふむ、じゃあ尚更異世界に行った方がいいんじゃ無いんですか?傷なんて直せますよ?」


「何言ってんの白猫ちゃん。湊は私と青春したいんだからしっしっ!帰って!帰りなさいよ!あ、いい考えが浮かんだんだけど、家賃として治してから帰ってね。立つ鳥跡を濁さずってね」


「はぁ、治すことはいいんですが、そんな大きな怪我だと、本調子の出る向こうの世界じゃ無いと治せないんだよね」


「大怪我って、柔道ができなくなるってそんなに大きな怪我なの?」


「ジュウドウ?と言うのは知りませんけど、少なくとも僕の眼力では歩くことも大変なんじゃ」


「白猫くん!それ以上は!」


その瞬間、二人と一匹いるはずの病室は静かになる。湊はあちゃー、という顔をして白猫を見る。


「あれ?何かまずかったですか?」

と耳打ちでヒソヒソと話す。まだ『にゃ』って言ってごまかして欲しかったにゃ。


「そのことはまだ薫には言ってないんだよ、できればリハビリで治してバレないようにしたかった。元に戻る確率は五分五分だったけどね」


「にゃんと!それはまずいですにゃ、薫さん心壊れちゃわないですかにゃ?」


「大丈夫だと信じたい。白猫にもわかって欲しいんだけどね、こう、ふざけてるように見えるけど根は優しくて、寂しがりやで、


正義感強いくせにビビリで傷つきやすくて単純で、それでいて泣き虫でそれ以上に友達思いな子なんだよね。」


「ご主人様は薫さんが大好きなんですね」


「好きだよ、友達として。でも今はそれどころじゃないね」


さっきの白猫の発言から動きが止まっている薫。部屋に二人と一匹いるのに、誰もいないように感じる静けさが心配になって恐る恐る顔を見る。


そこには泣いても怒ってもいない、純粋な恐怖に怯える子鹿のように震える薫がいた。


さっきまで巻きつけていた腕をほどき、正面に向き直って座って手を握っていた。その手は異常なぐらい冷たかった。


「ねえ、湊。今猫が言ったこと本当なの?歩くこともしんどいの?」


僕はこの顔を知っている。


泣いている光によくしていた顔だ。


本当に心配で仕方がないって書いてある顔だ。この顔が向けられるのは初めてで少し嬉しかった。


軽くにこりと笑って手をほどき、頭をぽんぽんしてあげる。


「大丈夫だよ、そんなことないから」


また嘘を重ねてしまった。余計に言いづらくなってしまった。そう言って左手で首筋を触る。


「・・・く」


「ん?もう一回言って?」


薫は顔を下に向けてプルプルと震えている。


「異世界に行くの!私の、私のせいで湊が歩けなくなるなんてダメだよ!異世界に行くから!だから湊を治して!」


「ちょっと?薫大丈夫?少し落ち着いて・・・」


「私は十分落ち着いてる!私知ってるんだよ!湊が嘘をつくときは首筋を触ることを!いつも湊が嘘をつくのは私を傷つけない為っていうことも知ってる!・・・本当はどうなの?」


ここまできたら、ホントのことを言わざるを得ないな。


「今は・・・まだ歩くことも辛い状況。リハビリしてるけど立ってるだけで疲れるんだよね…」


張り詰めた空気が漂う。すると、薫は白猫に向かう。


「白猫!湊と私を異世界につれて行きなさい」



「ご主人様に許可を取ってくださーい。僕の領分じゃないにゃ。でも改めてもう一度確認するね。僕はご主人様のみに目的がある。あえて酷い言い方をすると薫さんはいわゆるおまけ、付属品のような感じにゃ」


–––––––付属品。分かっていたが心にくる。唇の端をキュッと噛む。猫は一拍置いてからまた話始める。


「でもご主人様にとってなくてはならない存在だと言うこともまた事実ねー。ご主人の記憶を共有して、ご主人様にとってどれだけ大切なのかは理解しているつもりにゃ。だから、異世界に行くということを条件に何でも一つだけご主人様の言うことを聞く。説得頑張ってにゃ!」


上げて落とすやり方で、薫は泣きそうになっていた。


「ありがとう」


そう言って一度深呼吸をして高ぶる気持ちを抑えようとする。しかし、自分のせいで湊が今こんな状況になっていると改めて認識すると頭が真っ白になり、過呼吸気味になる。それでもなんとか自分を保ち、薫は真剣な眼差しで湊の目を見る。


「湊、私ね」


「ダメだよ。僕のことで薫を巻き込みたくない!」


「湊、聞いて!私はどうしても湊に元の体に戻って欲しい。そうじゃないと私・・・。全部自分の都合だってことは分かってる。でも、私は何よりも湊が大切なの!湊がいたから今の私がいるの!だから、だからお願い・・・湊」


最後まで言い切る頃には涙を流し、声も涙のせいでつまるような声で祈るように手を組んでひたいに当てていた。湊はその手を取り、真っ直ぐに目を見て話し始める。


「・・・あのね薫。

僕も今の僕があるのは薫のおかげなんだ。小学一年の時、薫は忘れてるかもだけど、僕はずっと友達がいなかったんだ。幼稚園の時から。」


薫は目を下にそらしながら話を聞いている。


「給食の時も形だけは班になっていたけれど、実際には全然輪に入れていなかった。休憩時間も声をかけようと思っても勇気が出ない。結局、校庭の端にしゃがんで地面を眺める日々だった。」


ようやく顔を上げた薫はさっき以上に涙を流しながら「ぞゔだっだのね」と言いって鼻をかむ。


さっきと同じくシーツで。今度は怒らず、手元に来た頭を撫でる。


「そんな時に声をかけてくれたのが薫だったんだ。ねえ、一緒に遊ぼ?って。元気と光も嫌な顔せず僕を受け入れてくれた。明日が楽しみだと思えるようになった。


だからあの日、僕が暴走していじめっ子を投げなければ、今みたいにバラバラにならなかったのかもしれないと、転校してまた一人になった時に何度も何度も後悔した。


今も後悔してる。中学に上がって薫を見たとき僕は泣きそうになったんだ。まあ薫は泣いてたけど。」


うるさいうるさいとポカポカしてくる。


「あの時から、もう一人になるのが怖いんだ。せっかく会えた薫とまた離れ離れになるのが怖かったんだ。」


「高校違うとこ行こうたしたくせに」


「じ、自立しようと思ったの!」


「あっそー」


「だからね、薫がどんなに嫌がっても僕は隣にいようとするし、極力薫のために何かをして上げたいと思ってる。だから、こんな僕を大切に思ってくれる人のお願いながら、聞こうと思う。」


長い長い前置きをして結論を最後に持ってくる。どれだけ長い前置きをするんだと思われるかも知れない。でも、言葉にして伝えなきゃいけないこともあると思う。


「だからね、薫がどうしてもって言うなら異世界ぐらい行こうと思うよ」


「み、み、み〜な〜ど〜!うわぁぁぁーーーー!!!」


「いい、いい話だ!うわぁぁぁぁぁーーーー!!!」


「なんで白猫まで泣いてんだよ!恥ずかしいからやめて!それに条件がある!」


「条件?それは僕にかい?薫さんにかい?」


「二人ともに。僕は柔道しか取り柄がなくて、他人任せになることがある」


今度は二人とも真剣になる。

「だからそんな時は助けて欲しいな。」


「「もちろん!」」


「あともう一つ。もし二人ともが危険になったら白猫、君は命をかけて薫を守ってね」


「了解ですにゃ!」


「湊!それは・・・」


「薫!君は頭がいいのにばかなところがある!」


「ば、ばかじゃないし!」


「いーや、ばかだ。だから、周りを頼ることも覚えて、一人で突っ走るんじゃなくて、視野を広く、命第一でいこうね」


「わかってるって!」


その後看護師に早く帰れと言われた薫は明日また来て出発することになった。


☆★☆★☆★☆★☆★


「着替え持った?水とカップ麺持った?バスタオルはある?歯ブラシと変えの歯ブラシも持ってね。あ、からの財布とかあった方が楽かも」


再び湊の病室に来て、キャリーバックの中身を確認していた。湊の荷物は全部薫が用意した。ちなみに怪しまれないよう制服だ。


「こんなにしっかり準備して異世界に行く人なんて初めてだよ。あ、そういえばご主人様、僕の名前を早く決めてください。じゃないと異世界いけませんよ」


「あー!湊ごめん、シャンプー忘れた。時代背景が中世な感じならシャンプーなさそうだしな、湊、貸してね。」


「ああ、それくらいならいいよ。ちゃんと四人の写真もよし。じゃあ出発して、アサリ」


「ちょっと待って、湊。今アサリって言った?」


「ありがとう薫さん。僕もその名前はちょっと」


「もっと高級感あふれるハマグリにして!」


「そういう問題じゃないでしょ!二人ともちょっと違うんだよ!」


「断然アサリでしょ。百歩譲ってホタテ。」


「違うよ湊。千歩譲ってホタテバター醤油」


「待って、めちゃめちゃ美味そう。食べたくなって来た」


「自分で言ってて天才だと思った。とゆうことでホタテバター醤油、略してホバショ。よろしく」


「君たちふざけてるよね!ふざけてるよね!!?変えられないんだよ!変えられないんだよ!!真剣に考えて!」


「薫待って、やっぱりおかしいよ。」


「ご主人様!やっと気づいて」


「ホバショってなんか捕獲されそうじゃん。ここはタバショーにしよ」


「君たちいい加減にしてよ!」


名前で散々もめて一時間。結局名前はフライングピック、略してフラピーとなった。空飛ぶ爪という意味。貝類どこいった!?


「あーあ、ホワイトタイガーいいと思ったのになー」

「薫さん、僕は猫ですけど、」


「えー?トラもネコ科じゃん。あと、さん付けやめて。薫でいいよ。」


「ああ、僕もご主人様じゃなくて湊でよろしく。敬語もやめて。」


「わかったにゃー、湊、薫。これからよろしくにゃー」


そういってプラピー(ふらP)と手を繋ぐと部屋が光に包まれた。


「ようこそ僕の世界へ。歓迎するよ・・・と言いたいところだけど、とりあえず逃げて」


次から本格的に行きます

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