剃れるんです
某大手髭剃りメーカーの開発室は今日も大忙しだ。自社の手動式カミソリの開発も熱気と共にゆらめく蜃気楼の如くその気迫が伝わってくると言う物
「おい!大変だ!」
慌てて新聞をぶちまける上司
『どうしたんすか?クーラー買い換える予算でも降りたんすか?』
「ばかやろう!それどころじゃねえ!これをみろ!」
『ええと、何々・・』
『新規オープンにつきお一人様ワンドリンク付きで初回揉み放題3000円』
『やばいっすね!これやばいっすね!』
『すぐ行きましょう!!』
「いや、キャバクラの記事じゃねえ!…行きたいけど」
「問題はその下だ。広告が打ってあるだろ!」
「あとな、揉み放題じゃなくて飲み放題な。…揉めるなら揉むけど」
『…あっ!!ちくしょー!』
『先を越されたか!!』
部下が目にしたのはライバル社であるC社の新製品だった。5枚刃がウリになっている
「確かに大変だろ・・」
『ぐっ…』
なにせ現在開発中のカミソリが4枚刃なのだ。あとだしジャンケンで負けたようなものである
「9枚刃だ。社長に9枚刃の開発許可を貰うのだ」
『ええ?6枚刃あたりでよくないっすか?』
『刃ってそんなに必要なんすか?』
「ばかやろう!」
「刃の数っていうのはな。男のロマンなんだよ。多いほうが良いに決まっている」
「他社もスキを窺っているんだし、ちまちま枚数を増やしていったら今回の二の舞になるだろう?」
『そっすね!9枚刃のプロジェクトでいきましょう!』
『C社のやつらをギャフンと言わせてやりましょう!!』
―15日後―
『ギャフン!!』
「やべえ!C社が12枚刃出してきた!」
『ぐぬう…。おいつかねぇっすよ!!』
「キミ、解っているな?今よりも多く、もっと早く」
『100枚刃!100枚刃ならどこも追いつけないっすよね!』
「その通り!」
「誰よりも早く、誰よりも多く!100歩前へ!!」
「千里の道も万歩から!!(くわっ)」
開発は順調そのものに進んだが、人の肌で試し剃りをすると割と夏のホラーな感じになってしまうとの事で、社員達は社長室のカーペットで試験を試みた。
赤いカーペットは羊の毛を刈るが如く順調な仕上がりをみせ、今後の社運を左右する重大な局面において貴重な 礎となった
「おーおー剃れる剃れる」
『いいっすね!これいいっすね!』
「見ろ!ツルツルだ!」
『いいっすね!とってもいいっすね!』
『自分、少し興奮してきました!』
『ズボン脱いでもいいっすか?』
「ああ、勿論良いとも!」
「開発室の人間なんてのはだな、ネクタイだけ着用してればオーケーなんだよ!(偏見)」
ネクタイだけ着用した上司が社長の椅子にどっかりと座りながら太い葉巻を 燻らす
『そーっすよね!』
『マジそーっすよね!』
『ぶっ!…これやっべ!!』
剃り終ったカーペットの毛を花瓶に差し替える部下
「あっははは!!」
「カリフラワーみたいだな!」
社長の机をバンバンと叩く
『どうっすか?』
『これどうっすか、先輩?』
部下はフサフサになった花瓶を下腹部に装着し、花をくわえてポーズをキメた
「だぁーっははは!!」
「ひーっ!ひーっ!苦しい」
机の上に乗っかり転げながら悶絶する上司。色々な物が散乱し、あるいは叩き割れ、アットホームで明るい職場です
『フィット感パネェっす』
『やっべ!!毛がまっ赤っ赤なんすけどマジで』
『インモー!インモー!!』
「うわっ!こっちくんな!!」
『モー!!!』
「うっははは!!」
ひげそり用のカミソリを作っているメーカーは4枚刃辺りからだんだん気持ちよくなってきた。5枚刃辺りで半分イきかけたが、6枚刃でなんとか耐えた。
ズボンにシミがついてしまったが、だだ漏れよりはいくらかマシなものとなったのは言うまでも無いだろう。
加熱する日本のカミソリ業界。何枚刃までエスカレート…もとい、ランクアップしいくのかは、彼ら若い世代の力にかかっている。




