チョコレート・シンデレラ 【I】 ──その恋には致死毒アリ!──
第二次世界大戦が起こらなかったもう一つの世界、そこには新城灰菜という十七歳の女の子が居ました。
彼女は裕福な侯爵家の生まれで、容姿にも優れ、蝶よ花よと可愛がられて育ちました。 …………しかし、16歳の時に両親が交通事故で亡くなると事態は急変する。
なんと、灰菜の後見人となった叔母が両親の残した遺産をネコババしてしまったのです! お陰でお嬢様から無一文に成り下がってしまった灰菜は、叔母とその娘に扱き使われながら生きる羽目になったのです。
────これはもう一つの『甘くて苦い灰かぶりの物語』。
今日、私はとある決心をした。
「ねえ、真帆君。 ……………あ、あのね、話があるの、昼休み屋上まで来てくれる?」
はあ、心臓がドキドキする。もし断られたらどうしよう……………。
「えっ!? ……………うんっ、良いよ、灰菜さん!」
藤川真帆、鼻が高くつり目なのでちょっぴり怖い顔だけど、実は優しい人。両親は服飾関係の会社をしてるんだけど、本人はパソコンやプログラムに興味が有るみたい。
─────今日でその関係も終わっちゃうかも知れないけど、真帆君は没落した私の数少ない友達なんです!
「それで灰菜さん話って何、皆の前じゃ言えないこと?」
屋上に着くと直ぐに真帆君は訊いてきた。あんな誘い方したら、普通そう思うよね。 …………どうしよう、胸が苦しくなってきた。
「顔真っ赤だよ、大丈夫? …………落ち着いて灰菜さん、僕は何が有っても君の味方だから」
そう言って、震える私の手を握ってくれた。真帆君は本当に優しくて、何時も私の味方に成ってくれる。
───だから、言うね。
「わ、私ね、実は……………幸仁様と好きなの!」
「うん、良いよ。これからはこいび…………………って、えええ!? 皇太子殿下が好き!?」
「…………うん」
───だから、真帆君に手伝って欲しいの
言いたい事を全て言いきった私は真帆君の返事を待つ。少しして、言った内容が飲み込めた彼は慎重に話始める。
「灰菜さん、わかってるの? 皇室は物凄く神聖視されてて近づくだけでも一苦労、まして恋人になるなんてまず無理だよ。それに皇太子殿下には婚約者が居たはずで………………」
───諦めなよ、灰菜さん
最後に真帆君は哀しげな顔でそう言った。きっと、叶わぬ恋をした私に同情してくれているんだろう。
─────だって、こんなの普通諦めるしかないもんね
「うん、そうだよね。友達の真帆君ならって思ったけど……………やっぱり無理だよね」
でも、私は…………諦めたくない。例え、相手が天上の方だったとしても、これが誰にも祝福されない略奪愛だったとしても私は幸人様と恋人に成りたい。
…………真帆君にまで否定されたのはショックだけど。
「…………………ああ、もう灰菜さんにそんな顔されたら放っけないよ」
───仕方ない、二人で一緒に頑張ろうか?
「真帆君、ありがとうっ! ……………あ、チャイムが鳴っちゃった。この続きは放課後しようね」
授業に遅れないよう急いで教室に向かいながら、私は思案する。
(真帆君が私に協力してくれるなら、『鬼に金棒』『水を得た魚』『シンデレラに魔法使い』、どんな困難にも負ける気がしない。)
……………幸仁様っ、私はどんな手を使ってでも必ず貴方を落とします。覚悟しててくださいっ!
湧き上がる嬉しさのままに駆け出して行った灰菜さんを、僕は動揺を隠しつつ見送る。
「………………まさか、灰菜さんに好きな人が居たなんて」
僕はずっと前から灰菜さんの事が好きだった。勿論絶世の美少女と言わんばかりのその容姿も素敵だけど、僕はその底抜けの明るさとどんな逆境でも諦めない強さに惹かれたんだ。
───以前の僕ならきっとここで諦めただろう
叶わぬ恋に囚われるのは不幸かも知れない、でも僕は皮肉にも彼女自身から諦めない勇気を貰ってしまっている。 …………だから、『秘密の恋の協力者』という立場を利用して必ずこっちに振り向かせてみせるっ!
「…………例え皇太子が相手でも彼女は渡さない」
TO BE CONTINUED…………