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一塊の勇気

警報で自宅待機になったので、いざ投稿~!

いろいろあり、今週の木曜日投稿はお休みします。






屋外の清掃作業。それは地獄のような作業だった。

厳重な鉄の扉を開けた先には、窓を隔てて見たあの美しい銀世界は消え失せ、代わりに激しい吹雪が俺達を待っていた。

俺たちの労働内容こと清掃作業とは、排泄物の清掃の事であった。小鬼種ガガキ、龍人族を合わせた、国民全員の排泄物の処理、それを僅か六十人でやる。

故に、ヒュウマも慎重だ。


「雪道の移動、気をつけろよ」


掻き出した排泄物を農場まで運ぶ作業は、険しい雪道の移動を含む。辛く、途方もない作業に追い討ちを掛けるのがこの吹雪。

それにしても、外に出たおかげで驚愕の事実を知ってしまった。


「この国って、城の中にあるんだな」


俺の一言にヒュウマが頷く。

国全体、とはいかないが王宮、住宅街、商店、奴隷棟など、重要施設はスッポリ巨大な城の中に入れられている。含まれてないのは農場や軍事用砦程度のもので、その規模は計り知れない。寒さから身を守るためなのか、偏った発展してるな。


「グラス、手伝ってくれ」


ヒュウマの声を聞き、向かうとそこには、御輿のように担いで物を運ぶアレがあった。正式名称知らないけど、労働をやってる感半端ないな。

四人で運ぶらしいが、ここには俺とヒュウマ合わせ二人しかいない。


「適当に二人連れてくる」


ヒュウマがそう言い、皆が作業を行っている所に向かおうとした瞬間、人を殴ったような、肉と肉を打つ、鈍く低い音が聞こえ辺りが閑散となる。

皆の視線の先には、横たわる、少し周りの奴らより背の低い、やせ細った小鬼種ガガキと切れ長な目を怒らせる看守のジャック。ジャックは、その小鬼種ガガキに拳を振り下ろしつつ、挑発的な声音を放つ。


「いけませんねぇ…。遠征労働者用の食料に口をつけるとは…自分本位が過ぎますよ?」

悶着が起こる周辺には、口の開いた袋があり、中には片手で数えられる程のイモが見え隠れし、その側には、囓られた後のあるイモが一つ転がっている。

「ごめんなさい…ごめんなさい…」


譫言うわごとの様にそう繰り返す小鬼種。しかし、ジャックは手を緩めず、その小鬼種の首を絞め上げ、あの冷たい声音を放つ。既に小鬼種の肌は青白くなりはじめていた。


「違法を働き摂る食も、死ねば必要無くなるでしょう?」


死んで償えと、彼は告げる。

ガッ…と辛そうな息が漏れ出た。流石にヤバイかもしれない。

助けたい。けど、どうやって?

頭にはヒュウマのあの言葉が響く。『俺達がお前を守る。だからお前はみんなを守れ』 

非力な俺達は縋りつく物が無く、結局、縋りつけたとしても、それは奴隷である俺達自身であり、それは小鬼種だ。


故に一塊の、この現状に立ち向かう勇気が産まれなかった。どこかで、俺が囁いた。俺にみんなは守れないし、みんなは俺を守らない。正確には守ることすらできない。

だって、目の前で同輩を締め上げる龍人族は、恐ろしく、雄大であった。そして、それを見る俺達は弱く、矮小で…。

でも、それでも。


ここで動けないから俺は、『上柴 透』は前世で奴隷になってしまったのではなかろうか。周りを恐れ、強者を恐れ、弱者を見下す、事無かれ主義の腑抜け。それを過去の自分として、抜け殻としての風化を行うのは、俺の『グラス』のこの場での一塊の勇気。

羨望と憧れの自由がその先の、大きな勇気の先にある様な気がした。


意を決し、一歩を踏み出すその刹那、一陣の風が吹く。

俺の側を、一匹の小鬼種が駆けていく。そいつはイモの入った袋を引っ掴むと、大きく振りかぶり、今にも投げ出しそうなモーションを行う。ジャックは首を絞めていた手を離し、その小鬼種の前に立ち塞がった。


「お待ちを。如何なさるおつもりで?」


手を横に広げ、制止の構えを取るジャック。袋を掴んでいた、中々ガタイのいい小鬼種は、立ち止まり怒気の籠もった野太い声を上げる。


「こんな争いが起こるぐらいなら、食料などいらない。今すぐ捨ててやる!」

「お待ちを。それが貴重なものだと分かっているでしょう」


小鬼種の持つ袋をジャックがひったくる。その僅かな間隙を縫い、ヒュウマが首を絞められていた小鬼種に駆け寄っていく。


弾かれるように、俺も足下に置いてあったバケツを手に走る。咄嗟に思いついた、浅はかな考えによる行動だが、やらぬよりマシなはずだ。

駆けていくヒュウマの走行路にワザと立ち塞がる。止まりきれなかったヒュウマが俺に激しくぶつかり、バランスを崩した俺は倒れ込む。その瞬間、バケツから手を離す。するとそれは、俺の期待通りジャックの元へと一直線に飛んでいった。中身は掻き出したばかりの排泄物。

完璧な事故を装えた。

バケツの中身が空中でぶちまけ、ジャックの服を汚す。

俺の一連の行動の中、ヒュウマは倒れた小鬼種を抱え、ジャックから距離を取っていた。好判断だろう。

怒りに震えるジャックの前に俺は立つ。すぐさま両膝を屈し、こうべを垂れる。

額と膝が雪で冷たくなる。檻の中でやったあの土下座の時よりも辛く厳しい。

それでも俺は、震える声を振り絞る。


「申し訳ございません。どうか…お許しを」


すると俺の横にもう一人の小鬼種が、俺と同じようにこうべを垂れる。先ほど、食料の入った袋を投げようとしたアイツだ。


「行き過ぎた真似でした。私も反省しております」


これらの声を聞いたジャックはしかし、未だ怒りに震えている。その証拠に彼の両手が固く握りしめられているのを、視界の端で俺は見た。

ジャックが息を吸い込み、何かを言いかけたが、それは雪風と共にやってきたもう一つの声に遮られる。

「私も反省しております。この四人のみで遠征労働に向かう条件で見逃してはくれないでしょうか」


ヒュウマの声を聞き、暫く逡巡を行うジャック。すると何かを思い出したかのように声を上げる。


「宜しいでしょう……。今すぐ出発するように」


言い終わる前に彼は排泄物で汚れた上着を脱ぎつつ、転移魔法を唱え消えてしまった。

俺の行動は役に立ったらしい。よっぽど着替えたかったのか、彼はこの労働場所に監視者すら残さず行ってしまった。でも、よくよく考えるとあの服は、俺の行動で濡れている箇所もあったから、当然かもしれない。この寒さの中、濡れた服を着たままは危険すぎると判断したのだろう。


みんなが安堵の息を吐いた。同輩が殺されるかもしれないという緊張からの解放。思わず俺はその場に尻もちをついてしまう。


「グラス、ありがとう。助かった」


俺と同じように座り込んだヒュウマが俺を褒める。


「流石転生者っすね。俺も助かりました」

左には袋を投げようとし、俺と共に土下座した、アイツがいた。親指を立て俺を行動を讃えてくれる。


「おう、お前も。ナイスファイト!」

俺も同じように親指を立て、二人で拳をぶつけ合う。お互いの勇気を称えあった。

「グラスさんって言うんすね!オレ、ユウって言います!戦闘には自信あるんで、気軽に頼ってください!」


さっきまでのあの小鬼種を守ろうとした気迫は何処へやら…。チャラついた物言いを行うユウという名の小鬼種。


俺の苦手なタイプの性格の筈なんだが、不思議と嫌悪感は湧かなかった。

オンとオフのメリハリがちゃんとした、仲間思いの勇気のある奴。その本質に極限状態の中が触れる事が出来たからだろうか。

ユウは暫くの間、俺を見つめていたが、思い出したかのように大きな声を上げた。


「ヒュウマさん!コウは無事っすか?」

「ああ。息もしてるし、意識もある」

「よかったぁ〜…」


長い安堵の息を吐き、地べたに寝転がって虚空を見つめるユウ。息を吐くように、一匹の小鬼種に声を掛けた。


「おい、コウ!ヒュウマさんとグラッさんにお礼言っとけ!」


待て待て待て待て…グラッさん、て俺の事か?あだ名決めるの早すぎじゃない?ていうかグラッさん、てグラスさん、よりメッチャ言いやすいな。

こういうチャラい奴のあだ名を付けるセンスって凄い。


「あ…ありがとう。ヒュウマお兄ちゃん、あと、グラ兄ちゃんと…お兄ちゃんも」


最後の方はボソボソとしていて、多分、ユウには聞こえてないはずだ。


なるほど…兄弟か。この二人は。


そりゃ、ユウも勇気を出すはずだ。弟が殺されかけたのだから。

しかも、弟のコウは、背丈や口調からまだまだ子供だと察せられる。何があっても真っ先に守らなくてはならない存在だな。

ユウはしかし、子供だからといってコウを甘やかさない。兄として、ゆっくりとコウを見据えるや否や、コウに説教を始めた。



「あんだけ食料に手ぇ出すな!って言ったろ!みんなに迷惑掛かってんじゃねえか」


ものすごい剣幕である。

いい兄貴だな、ユウ。ちゃんと悪い事をしたのに対しそれを怒ってあげて。

でも、それぐらいにしといた方がいいかもしれない。だって…。


「………………グスッ」


目一杯に雫を溜めた、コウ。今にも泣き出しそうだ。


「まあまあ、それぐらいにしとこう」

「そ、そうそう!みんな無事だったし」


すかさず俺とヒュウマが助け舟を送る。

ヒュウマはコウの肩を抱き、目を見据えるとゆっくりとした物言いで話しかける。


「コウ。今度からはバレないようにやるんだよ」

「そうだ!バレないようにやれ!」


ヒュウマのバレないように、に首肯するユウ。そういう問題かなぁ…。


「うん!今度はバレないようにする!」


コウは元気に頷く。でも、悪い事をやった自覚はあるようで…。


「ごめんなさい。もう二度とやらない。守ってくれてありがとう!」


コウの宣言を聞き、ヒュウマもユウも、俺も小鬼種全員が頷く。


「いつか、俺たちの事も守れるぐらいに強くなれよ!」


ヒュウマがそう締めくくると、


「うん!」


元気な返事が返ってきた。

元の世界で弟がいた俺からすると、とても微笑ましい光景だ。


「よし、ユウ、コウ、グラス。遠征労働行くか」


イモの入った袋を背負い、ヒュウマが排泄物を入れた袋を括った棒を担ぐ。空いたスペースに俺とユウが入り、コウは一番軽そうな根元の部分。

深く冷たい雪に覆われた道なき道を、俺たちは地平線の先に向かって歩き出した。

待ち受ける吹雪は幾らか優しくなり、俺たちを包み込むようである。













私は何処で間違えたのか。

私は何を果たしたのか。

無意識に考えてしまう。いつも。いつも。


今、こうやって服を着替えたり、奴隷達の監視を行っていたりと、何かを考える余裕があるとき。

私はいつもあの日の、あの出来事が、『無かった』未来を妄想し、自身の今現在に失望し、そして羨望のあの日々を思い出す。



本当に偶然であった。


偶然町で私の剣術を王に見初められるや否や、ツンベア王国軍の第二軍の軍団長に任命された。

王の期待に応えるべく、東奔西走の毎日が始まった。北の国の軍を壊滅させ、氷雪龍アイスドラゴンを討伐し、東の森の小鬼種の国を破壊し奴隷としてこの国に連行した。

忙しいながらも日々が充実していた。

王に褒められ、私の出世欲も高まり始めた頃だった。

私には最大のライバルがいた。

私はそいつが嫌いだった。

考え方が、やり方が、戦略が、生い立ちが。

見ているだけで虫唾が走る奴そういう奴。

それが王国軍第一軍軍団長、ヨルド。

私が、『ツンベア王国軍第二軍団長ジャック』としてまだ現役だった頃。

アイツは私のいつも先を行き、連戦連勝を重ねていく。

初めは、尊敬出来る先輩のような相手であった。

しかし、初の共同作戦を行う時、私の羨望は泥沼に飲み込まれるような失墜を行い、その憧れは失望へと変わった。


数年程前のことだ。


南より攻めてきたき鬼人族の軍勢が我が国の領土を掠め取ろうと南下を始めた。


大規模な野戦が始まり、その折、第三軍が大きく突出してしまい、敵の陣中に取り残される事態が起こった。

不測の事態ではあったが、私にはある妙案があった。


「第三軍を囮に、左軍で敵を打ち破りましょう」


私の提案を聞き、ヨルドはしかめた顔をこちらに向ける。そして、失言を問い質すかのような物言いを私へ放った。


「囮にする?第三軍を見捨てるのか?」

「それしかないでしょう、勝利を第一に考えると」

「救えるはずの兵を犠牲にして勝利を掴みにいくと?」

「はい。戦は勝ちが全てでしょう?」


私の答えに、まるで敵と対峙した時のようなギラついた視線を向け、彼は怒鳴る。


「兵を犠牲にした勝利至上主義?笑わせるな!戦の第一は兵の命だ!」

「いいえ、戦に於いての第一は勝利です」

「ならん。第一軍は第三軍を救いにゆく。ジャック、お前は一人で奇襲なり急襲なりやっていろ。命を粗末に扱う者の援軍などいらん」


言い放つや否や、作戦会議の席を立ってしまうヨルド。


彼の、ヨルドの兵の命を第一に、というのは甘えだ。戦に死や犠牲は当然であり、犠牲無き勝利など絵空事でしかない。

故に私はヨルドを見限った。この男は、英雄でも何でもなくただの臆病者であると。

その臆病者に精一杯の嫌味を込めて、彼に言い放った。


「分かりました。第二軍はこれより突撃致します。今のこの好機を見逃すのは大バカ者がやることですので」


そして、私は彼と袂を分かち合った。

共同作戦は継続不能に陥った。私の第二軍の突撃は不完全燃焼に終わり、ヨルドの第一軍は中規模の犠牲を出した。

チグハグな我々の戦術に業を煮やした王は、すぐさま敵と停戦協定を結び、我々に撤退命令を下した。

以降、王国最強の第一軍、第二軍は共同作戦二度とを行わなくなった。


しかし、私はこの時の事を恨んでいた。


もしあの時私の戦略を実行に移していたならば、あの戦は勝てたかもしれないのだから。

それは私の功績であり、私の出世も成し得ていたかもしれない。

それを塞ぎ、私の邪魔をしたのは紛れもなく、あの臆病者のせいである。


故に私は復讐の機会を伺った。


数年経ち、東の森の中に下等生物の小鬼種ガガキが国を建国しているのを知った。

すぐさま出陣し、その国を滅ぼした。

一人、剣術を極めた鬼人族がいたが、その者を私自身の剣術と魔法で討ちとると、すぐさま戦は終結した。


戦果として、多くの小鬼種を捕虜として捕らえることが出来た。


普段の私ならば、ここで皆殺しに処すのであるが、全員を国へと連れ帰る事にした。

王は、強制連行された小鬼種達を見て喜んだ。

王はそれを、小鬼種を有益は労働力として扱い、まもなくその者達は奴隷となった。

この私が産んだ奴隷とその労働力は、我がツンベアに光の差す出来事であった。

故に私は国内での評判を上げ、出世を間近に控えるまでに至った。



そんな折である。


珍しく、ヨルドが私の砦を訪ねた。

私を一瞥すると、割れんばかりの怒声を上げる。


「何故、奴隷としてあの弱き者達を連れ帰った!今すぐ解放しろ!あの者達にも命があるんだぞ」

「貴方が言ったじゃありませんか」


私もあれ以来、ささくれはじめていた。


「戦で大事なのは命でしょう?」

「しかし、あれでは唯の生き地獄だ」

「ならば、今すぐ全員殺しましょうか?」

「違う、そうじゃ…」

「犠牲無き勝利などこの世には存在しない!ならば、貴方はこれまでの戦で犠牲無き勝利を実現したことがあるのか!」


一瞬ではあるが、ヨルドは口を噤んだ。

その間隙を突く、私の冷たい声音。


「戦においての第一は命なのでしょう?彼らの命は守られております…貴方の『絵空事』に付き合った結果が今の現状です」


喉の奥から私は、彼を穿つ最後の言葉の弓を放つ。


「彼等小鬼種が生かされているのは、紛れもなく貴方の発言故です。しかし、この奴隷という生き地獄を産み出したのも貴方の発言です」

「………!!」

「現状に満足出来ぬのであれば、不満の根源である彼等小鬼種を皆殺しにしましょうか?」


彼は何一つ語らなかった。

彼の声無き声が、全てを物語っていた。

彼から王の…いや、私の奴隷政策に対する否定はそれ以降ピッタリ聞かなくなった。

こうして、私は復讐を成し得た。

去り行く彼の背中はとてつも無く頼りのない物であった。


私の出世欲はこの一件以降、強くなっていった。彼の、ヨルドの地位すらも、私は欲した。

いつかこの国で、英雄と呼ばれる未来を夢想した。

そして、それは遠くない未来のように思えていた。

しかし、私の夢は叶うことなく、私自身が国の反逆者として失墜していくなど思っても無かった。





その日は少しイラついていた。


曇天は今にも雪を降らしそうで、僅かな月の光が、雲の切れ間から差し込む暗く寒い夜。

東の国境地帯に砦を設営する作戦の最中、折からの悪天候と敵の攻撃で、設営作業が難航していた。

そこに資金不足、資材不足が重なり、作戦の続行が難しくなりはじめていた。

気晴らしに酒でも飲もうと、一人で王都まで転移魔法を行い、そこで酒を飲み歩いていた。

それでも、イラつきは抑えられず、難航する作戦を忘れることが出来ない。


そんな折である。


酒屋の外に、粗末な衣服を身に纏った明らかに身分の低い少年が私の眼の前を横切った。

貴族の家出身である私からすると、これは耐え難い侮辱行為であった。

オマケに彼は私の前で突如転び、手に持っていた食糧らしきものを私にぶっ掛けた。

怒りはすぐさま沸点に達し、私は鞘から剣を抜き、反射的にその子を斬った

即死であった。右肩から左脇腹までを深く斬りおろし、紅い鮮血が夜の街を満たした。


普通なら身分の低い子供を、王国の英雄が殺したという、何の面白みも無い事件である筈だった。


私は死体の片付けを依頼し、すぐさま砦に戻り床に着いた。

その日の内に、その殺人を私は忘れてしまう程に、私にとってどうでもよい一件であった。

しかし、翌日、事態は思わぬ方向へと転がった。


「第二軍軍団長、ジャックだな?」


黒ずくめの衣装を身に纏った憲兵数人が私の自室に現れた。



「いかにも…何かご用が?」

「貴様に国家反逆罪及び王族殺害罪の疑いが掛かった。故に貴様を拘束する」

「反逆?殺害?根拠はおありで?」

「昨日、貴様は王都で子供を殺したであろう?あの方は現王の血を引いた紛れもない王族だ!」


何かの冗談にしかきこえなかった。

あの粗末な少年が王族?王の子?嘘も大概だ。そもそも、王に子供がいるなど聞いたこともない。

私はすぐさま、私と対立する誰かが私の失墜を狙い起こした嘘の報告だと疑った。


「確かに、昨晩、子供を殺しはしましたが、王に子供などおられませんよ?」

「あぁ。そうだな。その唯一の子が昨日殺されたのだから、王に現在、子供はいないな」


私の昨日起こした一件は複雑だった。


私の殺した子供は、王が身分の低い女に手を出し、産ませた隠し子であった。

すでに正室がいた王にとって、これは隠さなくてはならぬ王国の一大事であり、産まれたその子は、王都の隅でヒッソリと暮らしていた。

しかし、中々王と正室の間に子は産まれず、とうとう王は決意した。


あの隠し子を世継ぎにすると。


しかし、その矢先、その隠し子は私に殺されてしまったのだ。

故に、私は裁かれた。


外や世間での罪状は『国家反逆罪』。

国家の首席達には『王族殺人罪』。


王の怒りは深かったが、王にとって隠し子の存在を知られる訳にはいかず、私を死罪や国家追放罪にする訳にはいかなかった。


しかし、お咎めなしも格好がつかない、という事で、私の処分は決まった。


『王国第二軍軍団長の罷免』

『奴隷達の管理監視役として看守に任免』


王国の英雄になる筈だった私は、一夜にして裏切り者扱いを受けた。

王に遠ざけられ、私は自分の犯した罪の重さを悟った。

それ以来、私は、理由無き殺生を自分で律し、一方で当てつけのように理由があればすぐ殺すようになった。

先の奴隷の一件だってそうだ。

イモに手をつけた奴は殺す。

事故で排泄物をかけた奴は許す。


雪風吹き荒ぶ、看守塔。

寒く、冷たい窓枠に触れ外を眺める。

吹雪は幾らか弱まり、銀世界が白霧の切れ間から輝く。

私はその光景から自分を切り裂くべく、窓を閉じた。


後に残ったのは、一粒の雪の結晶と。

王印の施された手紙一通であった。












延々と果てしなく続く雪道の街道。


担ぐ排泄物神輿に積もる雪を払いつつ、俺達は農場目指して一歩一歩と進んでいく。

ふと、前方がキラキラと輝いた。

すると、吹雪の切れ間から銀色に輝く、美しい鎧が近づく。そいつは目の前に現れるや否や、俺達に話しかけてきた。


「小鬼種のヒュウマだな?」


頷くヒュウマに一通の手紙を渡す、銀鎧を纏った高身長の龍人族。


「お前に手紙だ。確かに渡したぞ」


言い終わるとすぐさまそいつは消えた。


「ねぇ、その手紙なぁに?」

「ヒュウマさん!それ、王印付きじゃないっすか!」


手紙を見てはしゃぐユウとコウ。


「王印?王からの手紙ってことか?」

「いや、多分王印の使用が許されてる奴からの手紙だろうな」


王本人では無い。そう断言するヒュウマ。

でもでもしかし、王印を使えるということは相当な身分に違い無い。そんな奴から手紙って凄いな。


「で、内容は?」


俺の問いに、ヒュウマは難しい顔をする。


「それは、後で小鬼種五千人が集まった時にしよう」

「は?」

「緊急会議だ!俺達の進退を決めよう!」


力強く放つ彼の声音は、吹雪に遮られすぐさまかき消された。

ただ、その言葉は俺の耳に深い余韻を残し、いつまでも反響し続けていた。





名  ヒュウマ

種族 小鬼種?

役職 ツンベア王国強制労働従事者、102室房内管理人

能力ギフト 確認無し






名  ヨルド

種族 龍人族

役職 第一軍軍団長

能力ギフト 基礎剣術 軍師適正 発展剣術

固有能力ユニークギフト 司令官





来週は間に合わせられるように頑張ります!

(今週はあきらめた)

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