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目覚め

すみません。水曜日投稿と言いましたが、木曜日の間違いです。

凍てつくような冷気が頬に当たるのを感じる。

ゆっくりと眼を開けたその先には、見知らぬ天井が映る。

病室…ではなさそうだ。天井は石で覆われている。石で…石…石⁉︎

え?なんで石?ていうかここどこなの?

なんかのドッキリか⁉︎うん、そうだ。そうに違いない。だって、未知の生物(多数)と共に厳重な鍵付きの檻に監禁、なんていう今の現状を認めたくないしな。


「眼、覚めたか?」

「あぁ、覚めた…よ…………⁉︎」


ちょ、マジか。喋れるのかよ。お前ら。

とても失礼だが知能低そう…とかいう先入観持ってました。さーせん!

図体はそれほど大きくなく、人間の小学生ぐらい。それに似合わぬ長い腕を持ち、頭には尖った二本の角がある。

なんか、アレだな。THE.魔物って感じ。


「ところで…どうやってここに入ったんだ?」


魔物のリーダーと思しき、他の個体よりも、少しガッシリした体格をした奴が俺に質問してくる。

確かに疑問だろう。鍵のかかった檻に、なんの痕跡も無く、俺が浸入しているのだから。


「いや、気づいた時にはここにいた。俺も何でこんな場所にいるのか分からない」

「そうか…災難だな。お前」


何故か哀れみの視線を向けられる。

確かに、眼が覚めたら檻の中っていうのは酷すぎる。


それよりも、まずは現状把握だ。


「いくつか質問していいっすか?」

「ああ、答えられる範囲ならな。俺は小鬼種ガガキのヒュウマ。こいつらは俺の仲間たちだ」


お前は?と問われ、俺も名乗る。


「俺は上柴透。宜しく」


俺が名乗ると突然、魔物達が騒つく。ヒュウマも驚きの表情を浮かべ、気になる単語を発した。


「お前、もしかして転生者か?」

「転生者?」


ヒュウマの説明を聞き、少し驚いた。どうやら俺は、元の日本の現代世界とは異なる世界にいるらしい。要するに、俺は異世界転生を成し遂げてしまった。

多分、原因はあの交通事故。俺には明確に自分が死んだ記憶がある為、『死後転生』と呼ばれる転生方法でこの世界に来たんじゃないか?というのがヒュウマの推理。


そして、ヒュウマの話はココからが恐ろしかった。

この世界には苗字が無い。ということは苗字を名乗る奴は、真っ先に転生者だと分かる。

世界規模でいうと、転生者というのは珍しくないが、俺が今いるこの地域は転生者がとても珍しいらしい。

そんな場所で、『自分は転生者だよ』と名乗る大バカ者。そいつの末路は…。


「聞かれてるのが俺達でよかったな。お偉いさんに聞かれてりゃ、今頃、闇商人に売り飛ばされてたぞ」


その言葉を聞き、背筋が冷たくなる。

ボロが出る前に偽名を考えないと。いや、もうボロ出てるけどね。

しばらく会話を続け、お互いに打ち解けてきた。俺たちの会話に遠慮が無くなり始める。


「それにしても、元人間なのにおかしな図体してんな」


言われて自分の体を確認する。今、俺は小鬼種ガガキの体をしているのだが、何が珍しいんだろう。


「転生者は元人間なら、人間の体で生まれてくるのが普通なんだよ」

「じゃあ、俺はかなり特殊ってことか?」

「ああ。もしかすると前例の無い出来事だったりするかもな」


マジか。死んだところから、この檻で目覚めるまでの記憶が抜け落ちている為、肝心の転生の瞬間を覚えて無いのが悔やまれる。

というか、このヒュウマって奴、他の小鬼種ガガキとは明らかに違う。コイツだけ知能が異様に高い。他の小鬼種ガガキが知らないことも普通に知ってるし、思わず疑ってしまう。


本当に小鬼種ガガキなのかと。

そんな疑問はおくびに出さず、会話を続ける。


「へー、じゃあこの世界にも人間はいるんだな」

「ああ、でも転生者の人間よりも、元からこの世界に住んでた人間の方が圧倒的に多い」


とりあえず、ちょっと安心感が湧いた。

人間がいるというのが心強い。

人間の存在を確認した所で、一つの疑問が湧いた。

俺は本当に魔物なのかという疑問である。


飼い主とイヌの散歩を想像してみてほしい。

あなたはその散歩を見てから、俺が「どちらが人間でしょう?」と質問すると、あなたは間違うこと無く、人間とイヌの区別がつくはずだ。

この世界に転生してから、俺は生物に通う魔力を検知できるようになっている。

ヒュウマ曰く、魔物は人間と比べ、とても濃い魔力を有している為、人間と魔物の区別はとても簡単らしい。

そこで俺の魔力を自分自身で検知してみるが、おかしなことが起こっているのに気付いた。


俺と同じ魔物の小鬼種ガガキ達と比べると、俺の魔力が異様に小さい。

それでも、人間と比べれば大きいらしいのだが、魔物と呼ぶには圧倒的に魔力が足りなさすぎる。

イヌと人間の区別。それを俺に当てはめると、俺は今現在、人間と魔物の中途半端な境目にいる。


まあ、多分魔物だろう。

転生者といえども現在の姿が魔物の小鬼種なんだから、俺は魔物だ。


お互いに質問を交わし、他の小鬼種も混ざり弾む会話。楽しいなぁ…と思うがさっきから俺は意図的にある質問を行うことを避けていた。

ズバリ、現在俺達が何故檻の中にいるのか?

これは質問出来ない。というかしたく無い。

返答が本当に怖い。いや、まさかそんなことはないだろう。前世で散々それを経験させられたんだから、二度目は懲り懲りだ。


盛りあがるお喋りはどんどん音量が上がり、喋る奴もじゃんじゃん増える。

それ故に、カツカツと冷たい廊下を打ち付ける足音に、俺達は気付けなかった。


「随分元気ですね。102号室の皆さん」


切れ長な目をさらに細め、温度のない微笑を携えながら、その男は挑発的な声音を放ちつつ、こちらを睨みつける。


「貴方方の就寝時間はとっくに過ぎてますが…こんな夜中にまで会話を楽しむ気力があるのならば、明日はこの時間まで強制労働に従事させても良いということですね?」


強制労働。その単語でみんなの顔が引き攣る。何人かの小鬼種は、射るような視線を向け続けている。


「違いますか?156番」


156番。そう呼ばれ、何故かヒュウマが顔を上げた。


「すぐに寝ます。……本当にすみませんでした」


正座をした状態から、顔を床に擦り付けるように。彼はこうべを垂れた。

目の前で起こった、ヒュウマの土下座に俺は言葉を失う。

反論も、抗弁も、批判も、何も出てこなかった。掠れた息が口の端から漏れ出る。

それ程に彼の土下座は、まるで日常の挨拶かのように染み付いた動作だった。


ただ、現実の生ある動作の中で、それだけが異端だった。



「そうです。それでよいのです。今回の事は不問と致しましょう。そうですね…まあ156番、貴方だけ、という意味ですが…」


その言葉を聞き、周りの小鬼種、いや全員がヒュウマと全く同じ動作をとる。

俺は、ただ、呆然と立ち尽くしていた。

ほんとにコレは現実なのかと。頭の中でグルグルと何かが回り続ける。

行き着く先に残ったのは、圧倒的嫌悪感と激しい怒り。

何様なんだよ、コイツ。

檻に向かって歩みを一歩進める。

反抗的態度を大っぴらに示し、ワザと大きな足音を立てながら。

その俺と、目の前で踏ん反り返る、切れ長な目と視線が合う。


ほぼ、相手も俺も、同時に何かを言おうと口を開けた時だった。

突如、足を誰かに掬われた。

慌てて、視線を足元に移すと、ヒュウマの手が俺の足に巻きついている。

尻から転けた俺の頭をヒュウマは引っ掴み、地面に叩きつけた。


「この様に、みんな反省しております。どうかもう一度ご検討を」


一瞬の出来事が俺の頭を冷やしていく。

切れ長目は、開きかけていた口を、ようやく動かした。


「分かりました。全員お咎め無しということで。156番、無能な貴方には、もはやため息しかでません。汚いお友達にキチンとした教育を宜しくお願いします」


最後に俺に一瞥を食らわし、奴は元来た道を引き返していった。

全員が、長い安堵の息を吐きその場に座る。


それにしてもアイツ…姿形はほぼ人間なのに、魔力の量は俺達なんかより断然多いし、頭に先端の丸まった角は生えてるし…。

ああいう、人間によく似た魔物もいるんだと、また一つ、この世界の知識を深める。


「アイツは何者なんだ?めちゃくちゃ偉そうだったけど…」

「ここのフロアの看守だよ。龍人族のジャックだ」

「龍人族?魔物なのか?」

「れっきとした魔物だ。龍のような力を持つ人間によく似た魔物、と思えばいい」


龍のような力を持つ…か…。見た目はそんな風に見えなかったけれど、魔力の量は尋常じゃなかった。

今も、奴が…ジャックという看守が立っていた場所には、漏れ出た魔力の一編が漂っている。

その漏れ出た魔力の一編だけで、俺達、小鬼種全員の魔力を足しても足りないぐらいの、巨大な魔力を放っている。


俺達じゃ絶対に敵わない相手だ。


「つーか、お前、看守相手にあんな態度とんな。俺達まで連帯責任になったらどうすんだ」


さっきから、強制労働だの連帯責任だのイヤーな単語が出まくってる。

もう…聞くしかないか…。現状の俺の立場を理解しよう。もう、だいたい分かってるけど…。


「態度って…俺の今の立場も分からないんだから、仕方ないだろ。ヒュウマ、教えてくれ。俺の今のありのままの現状を」

「お前の…ていうか、俺達、小鬼種の現状だな…」


沈鬱な表情を見せるヒュウマに、仲間の小鬼種が声を掛けていく。


「ヒュウマさん、つらいだけっすよ?」

「口に出すんですか?言わなくても明日になれば、この転生者は理解すると思いますよ?」


それらの声を聴き、一度は口を摘むんだヒュウマだったが思い切って息を吸い、堰を切ったように喋る。


「俺達、小鬼種は五年前、西の森で龍人族との戦いに敗れ捕虜になり、龍人族の国、ツンベア王国の奴隷になってるんだよ」


遂に、姿を現した俺の現実。

いや、それよりもこいつらの現実も悲惨だな。


「五年前?ということは既に奴隷生活が始まって五年経つってことか?」

「そういうことだな。ここには5000匹近い小鬼種が囚われて、奴隷としての労働に従事している」


五年か…大したことねぇな。俺の奴隷生活は小中高、633の12年!だし。

問題はその数だ。5000もの数の小鬼種がここにいて、それら全てが奴隷か…。

なるほど。確かに俺が紛れ込んでも、看守が気づかぬ訳だ。取るに足らない弱小生物の数など気にすることもないだろう。


「分かったら寝ろ。明日も早いぞ。新人にあの労働は堪えるしな」


ヒュウマの忠告を聴き、冷たい檻の床に横たわる。

周りの小鬼種も同じように、横たわり、数刻もせず寝息を立て始める。


爛々と冴えた眼で、俺は檻の出入り口を睨みつける。

異世界に来てまで奴隷生活などゴメンだ。

あの看守に、今日俺が紛れ込んだ事に気付けなかったのを絶対後悔させてやる。

この、固く冷たい鉄格子の外の世界。

必ず、それを俺の目で見てやる。

誰の支配にも屈しない、自由をこの世界で必ず掴む。


絶対に自由になってやる!







名  上柴 透

役職 奴隷

種  小鬼種ガガキ

所属 ツンベア王国強制労働従事者

能力ギフト 無し

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