宮廷のネタ①
宮廷からネタです。ただし宮廷といっても建築物の宮廷ではなく、王に仕える組織としての宮廷です。
ほら、主人公を勢力争いに巻き込む迷惑な……高貴な人々。
王族がいて貴族の”宰相”や”騎士団長”が部下をひきいて派閥争いをしている……そんなイメージでしょうか?
まだ曖昧過ぎてネタが掘り出せない。具体的な人数などから表したいところですが、宮廷の規模は百人以下から五万人以上と地域時代により様々ですし……大雑把に分割してみましょう。
・働く宮廷:王の政務を補佐をする(宰相、丞相、大臣、尚書、法官、徴税官、外交官、儀典官)
・生活の宮廷:王族の世話をする(執事、侍従、乳母、馬係、猟官、宮廷画家、財務官、宝物官)
・戦う宮廷:護衛や戦争をする(近衛隊、陸軍官、海軍官)
最初の”働く宮廷”は王が国を治めるための仕事場としての宮廷ですね。
二番目の”生活の宮廷”は、王族の私生活の宮廷です。
最後の”戦う宮廷”は物理的に宮廷を守り、更に攻撃の準備をするための宮廷になります。
もっと細かな区分は後ほど。役職も少し書いていますが地域時代により全然違うので参考ぐらいに考えて欲しいです。
今回、軽く調べただけですが個人的に宮廷は、”王のための宮廷”と”国のための宮廷”の二種類に分けられると思っています。
王家の力が強い場合は”王のための宮廷”が主体であり、貴族や国民の力が強い場合は”国のための宮廷”が主体になる。ポイントは議会でしょうか?
王と少数の相談役で決めていた政治が、諸侯の台頭で多人数の意見を聞くようになると宮廷は国のために動き始める気がしました。
例えば初期の欧州宮廷は、国王の移動に合わせて移動するような小規模なものでしたが、中国王朝の宮廷は三省六部という巨大な官僚組織が動かしていました。
どちらが優れているとかではなく現代の私達の政治体制も含めて状況に適応しているのでしょう。
○働く宮廷
王様が国を治めるための政務を補佐する人々。現代日本での各大臣と役人です。
トップは宰相や丞相(親族だと摂政)であり王の後継人である分家の当主(例えば叔父)・母・執事(マジです)など信用できる身近な人々が王の指名により役職についていました。中には自分の愛人を宰相にする王様も(公式寵姫で有能な方がいたらしいです)。
王が直接政務をとる場合は親政と呼ばれ、宰相は置かれないこともあります(政敵になる可能性がありますからね)。
宰相がいない場合、補佐のトップは複数いる各部門の長達です。部門長の呼び名は、大臣・長官・長・相・令・卿と地域時代や組織により変わります(軍務大臣、徴税長官、儀典長、尚書令、外務卿などなど)。
なろうで主流の中世欧州風の世界なら各部門の長は”大臣”か”長官”がしっくり来るかな? 重要部門は”大臣”でそうでない部門は”長官”とか……だが卿も捨てがたい。しかし徴税卿とかイメージに合わな――大蔵卿になるのか。まあ、各部門の長の名称は作者好みということで。
さてぼちぼち各部門――具体的な仕事内容に移りましょうか。
・賢人会議
最初期の宮廷において唯一、王の決定に介入できる職場。聖職者の代表、有力諸侯、王の親族、側近(各部門の長)などが外交、立法、徴税について王に意見しました。諸侯議会や枢密院などの原形でもあります。
ぶっちゃけ王のブレーキ役。王は子孫に領地を多く残すため戦争をしたがります。ですが軍資金のために諸侯から税を取り立て続けると叛乱一直線です。そんな内戦状態をさけるために『戦争とかやめろ王様』『いやいや法律守らんと王様』『毎年臨時徴税とか馬鹿か王様』と王を諭すのがお仕事。
王制の末期には全権を取り上げるのですが、取り上げたら取り上げたで今度は議会が戦争をしたがるのは秘密(汗)。
賢人会議のネタ:『オレは戦争をするぞー!!』王がまた戦争を始めようとしている。だが王の暴走を止めるべき賢人会議にも主戦派がいて……主人公が戦争を望むかどうかで賢人会議メンバーへの工作が始まります。
工作のほうは、数百年前に国に貢献して賢人へ列せられた世捨て人の魔術士(現在アンデッド)を票数確保のため引っ張り出すとか? うっかり長命な異種族を賢人にすると大変そうです。人間の王様より何百歳も年上のエルフやドラゴンがいる賢人会議とか面白いかも。
・尚書
王の秘書官――尚書官とも。意味は『尊ぶべき書』。王の命令・王と諸侯の契約書・賢人会議の議事録などの重要書類を作成保管する仕事です。その職務上、国璽――国を象徴する印鑑で国王の証ともいえる――を管理していた。
識字率が高くない時代において読み書きは貴族や神官の特権です。民が使う言葉とは別の国際共通語で書類を書くような国もありました。国璽という重要アイテムを押さえてることもあり司法部門や宗教部門と権力の駆け引きが存在したようです(吸収されてしまうことも……カナシミ)。
尚書のネタ:王の急死で王位継承を巡り内乱が発生した。知恵に優れた第一王子と武勇に秀でた第二王子。二者は国璽を奪いあう。最終的に戦で勝敗がつくにしても国璽を得た側が多くの味方を得るのは確実だ。
国璽を持つ尚書長官は、笑みを浮かべどちらにつけばより大きな利益を得られるか吟味することでしょう。己の更なる栄達を夢見ながら(なんか悪役)。主人公たちが国璽を奪うか守るかは依頼主次第ですね。
他にも巻き込まれる展開なら、井戸に捨てられている国璽を拾っても……
・司法
法官と呼ばれる方々。王と賢人会議が創り、尚書が成文化した法律を運用するのが仕事です。
そもそも王権の初期、法律は無い時代は神官が慣習から裁いてました。王に裁判権が移っても君主=裁判官であり法もなにもありません。
そして王と諸侯が交わした契約も頻繁に破られ戦争で解決し、また契約して戦争して…………そんな不毛な争いの後に報復合戦防止のルールができます。
慣習と罰則――これらの蓄積が法律となります。かなり後になってやっと王から司法業務を委託された役人達――法官、判事、弁護士、書記、首切役人などが司法をにないます。
ついでですが王の創った法律は、王の領地でしか運用されません。
諸侯の領地ではそれぞれの領地を支配する領主が王から”裁判権”を認められていたからです。各々の領地ごとに法律があり独自に運用されていました。
”裁判権”は領主にとって大事な権利です。自らの領地を己で統治し平和と秩序が維持できないと面子が立ちません。舐められると領地が隣接する君主に攻められる、盗賊が入り込む、行商人が来ないなど不利益を被ります。
また”裁判権”は領主に収益をもたらします。裁判で有罪になると罪人は領主に罰金・保釈金・罰則軽減の賄賂を支払うことになるからです。ゆえに無実の罪人も量産されました。
司法のネタ:魔法に神の奇跡に過去視までなんでもありの異世界裁判を想像してみましょう。嘘を見抜くことができるなら偽証は不可能です。神の力があれば殺人事件の犠牲者も蘇生できるかも。過去を見通す能力者は犯罪者にとって最悪の捜査官となります。
もっともいくら便利な力があっても抜け道は必ず存在します。魔法ならそれを阻害するカウンター魔法。神の力が邪魔なら神官を誘拐。過去視には『能力が偽り』だと噂を流して信用度を落としてしましましょう。真実を暴かれて困る悪人達に主人公はどう挑む?
・徴税
徴税官、税を集めるのが仕事です。平民が最もお世話になり、同時に最も嫌う役人でしょう(王の代理人なんですけどねー彼ら)。職務上、王の領地を回る必要があるため人数も多く最終的に王の資産管理など、財務関係の権限を掌握することになります(本来、財務部門は王の私的な部門ですが、一部分離して国の財産管理へと独立変化する)。
税とは賦役・貢納も含みます。また都市・農村・諸侯では税の種類も異なりました。
都市では城門にて持ち込まれる品物や街に入ること自体に課税しました(関税)。品物の価値に対して何割かの貨幣もしくは品物の一部を払わせるわけですね。農作物に工芸品、交易品などなど流通量がそのまま利益になります。高過ぎる関税は、流通を麻痺させます。
農村の税は、雄牛の使用料、農機具の使用料、風車の使用料、橋の使用料、結婚税、死亡税、相続税など税だらけです。生活することがそのまま課税対象といえます。支払いは、城の建築の労働力の提供、家畜や農作物の物納、貨幣による納税などです。こちらも高過ぎると反乱or逃亡される。
諸侯が支払う税は、ずばり戦争における戦力の提供。毎年一定期間、約束した数の軍勢を率いて従軍することが求められました。もっとも戦争が大規模&長期化すると上記の方法では戦争が維持できなくなります。結果、従軍の変わりに現金で税を支払うようになりました。また戦争好きな王は、何年も連続で追加の戦争税――諸侯の年収の一割――を軍資金として提供させました。やり過ぎると反乱ルートなのはお約束。
王は財政が逼迫すると新しい税を乱発します。商品売買に一割の税金を課したら市場取引が麻痺したということもありました(なお当該地域は独立というか内乱発生)。一割も税金取るとか馬鹿な国ですよね。
徴税のネタ:異世界なのですから現実にはありえない税があってもおかしくありませんよね?
『髭税』『犬税』『窓税』『扉税』『空気税』『臆病税』『カエル税』『渋滞税』『肥満税』『独身税』どれも異世界らしいユニークな税でしょう? …………すみません全部実在した税です。事実は創作より奇なりです。
さて、異世界ならでは税をいくつかまずは魔法使いに『杖税』(持っている杖の本数に応じて課税)、魔獣使いには『魔獣税』(ドラゴンを所有してたら莫大な課税が~)。
少し捻って……勇者を自称するものが増え、壷や樽を壊しタンスをあさる傍若無人が! それら自称勇者を抑制するために導入される『勇者税』。勇者を名乗ると徴税官と強制エンカウント&所持金の五割を取り上げられる(魔王より 恐れられるは 徴税官――字余り)。
・聖職者
宮廷内の宗教施設(宮廷礼拝堂や祭壇)管理と宗教的祭事(王冠の授与や生贄の儀式)運営をするお仕事です。宮廷司祭・神官・巫女・司教・助祭などが働いています。
王権の最初期では、神官が神託により王を選定したりもしていました。神官とはすなわち部族の長老であり、実際のところ長老達の合議から王に相応しい者が選ばれたのでしょう。
文字が神官だけの特権だった時代においては尚書を兼任したり賢人会議・徴税・宝物管理・外交などの全てをこなしていました(王の仕事は”戦争”と”宴”だけ状態)。
宮廷司祭の給金は宗教組織が支払うので、王が出費を抑えるため宮廷司祭に尚書部門の長などを兼任させる場合もありました(宗教組織も権限が増えるので渡りに船です)。
結果、宮廷司祭が宰相に任命されるなんてことも……とある小貴族の三男は司祭から始まり、司祭→司教→宮廷司祭→国務卿→枢機卿まで出世、遂に宰相へ至りました。俗世も宗教界も国内外も敵対勢力をあらゆる手段で打ち倒したのです。
王位の簒奪も可能だったと思うのですが、彼は最期まで王と国に忠誠を誓い天に召されました(後世の創作物では何故か悪役として有名だったり)。
聖職者のネタ:ハイファンタジーにおける司祭や神官は現実以上の権限を持つことになるでしょう。なぜなら奇跡も神術もあるんですから。寧ろ神様による直接統治とかできるなら実質最高権力者です(宮廷どこいった!)。神様いるなら人間を管理する中間種族とか創造してもいいですね(天使や小神)。
神が直接介入しない世界でも彼らは大きな力を持つでしょう。何かしらの魔術や異能があるなら。利用できる力は『神の恩寵』と支援し、敵対者の力は『悪魔の業』と弾圧すればいいのですから……
上記で出た国璽以上の宝を管理しているかもしれません。文字通り神から与えられた祭具とか。神の奇跡を再現できる祭具……個人的にありですね。
・儀典
公式行事の準備進行がお仕事です。ぶっちゃけると宴会係。
彼らは宴――王の力を見せ付ける重要な行事の指揮官です。宴の日程に客への招待状、会場と人員確保……当日以外のお仕事も非常に多いです。
当日は客の接待、案内(上座下座を間違えてはいけません)、宮廷楽団との調整、パン係、洗盤係り(客が指を洗うためのぬるま湯を運びます。フォークなど無い時代のお仕事)酒樽係に酒瓶係、カップ係(毒見役です)、乾杯の音頭(宮廷楽団が盛り上げる中で)、配膳係(乾杯の後に運ぶ眉目秀麗な使用人がします)、肉切り係(肉料理は宴のイベント扱いです)、裏でも肉焼き係にお菓子係、ソース係、儀仗兵……
以上の業務を王の使用人達――宮廷料理人(メニューと客の人数)、宮廷楽団(宴の進行に合わせた音楽選定と順序)、宮廷司祭(祈りの言葉)などの宮廷各部門と相談調整し実行するとてもハードなお仕事です。
儀典のネタ:異世界らしい宴とその最中に起こるアクシデント。問題解決に奔走する儀典官というのが面白そうですね。
異世界ならば異種族との交流もあるでしょう。食べてはいけないとされる食物を調べたり、禁止されている文化風習が無いか確認したりと大変です。
菜食主義のエルフに肉を出したり、ミノタウロスに子牛の丸焼きとか…………異世界から召喚された勇者の宴に至っては知りようがないですね。
他にも眉目秀麗な配膳係が足りなくて美人のヒロイン達(主人公のハーレム)をスカウトしたり、そこで異国の貴族がヒロインに一目惚れしたり……
・交渉
外交官、行使、大使、外務卿、非合法諜報員も含みますが交渉官ですね。王の利益を求めて国内国外を問わず多くの王侯貴族との交渉をします。
王は国内の諸侯が反乱を企んでいないか、敵国の内部に不和はないか、情報を集め隙があるなら領土や権利を入手するため動きます。しかし全ての地に王が赴くことは不可能。王は一人であり、体は一つしかないのですから。
そこで王の代理人の出番です。彼ら領地を持たない宮中の側近やお気に入りの貴族は王の使者として各地に赴きます。重要な案件なら王族や宮中伯クラスの外務大臣、秘密裏なら騎士レベルの諜報員というわけです。
ここで重要なのは王にとって国内の諸侯も他国の君主も等しく潜在な敵であり味方だということです。表向きは公明で誠実に、裏では悪辣で非情にと動く必要があります。
国内では領地を持ち力を蓄える諸侯から権利を奪ったり、王の代行者として直轄地と宮中を行き来しします。ただし代官の任につく場合……賄賂は貰うし、地主と婚姻関係を結んでやりたい放題したため新たな法律が創られました。
国外では表向き宮廷外交の花です。相手国の宴に参加し交流を深めます。裏では秘密諜報官が王の側近や愛人になっているかもしれません。とある騎士は王の密命を受け、敵対国家に女装で密入国し女王に接触、同盟を成立させたなんていう話も。
交渉のネタ:異種族との専任交渉官は当然必須。人間相手の交渉とは根本的に異なるでしょう。異種族の言葉を話せる人材は、速攻でスカウトされることでしょう。
逆に『自国の言葉を話せない蛮族とは交渉しない』とか踏ん反り返る交渉官がいて問題が発生するというのもありか?
異世界に勇者召喚された主人公たちの世話(監視)も王族が直接行わないなら交渉官の仕事かな? まあ、王女様が一般的なようですが……教養と身分もあってハニートラップ要員としても使えるからおかしくはないか。そこらへんは勇者の価値によりけり?
おっと、忘れてはいけないのが冒険者ギルドとの交渉です。多国間世界規模組織の冒険者ギルドは、現代で言えば国連みたいなもの。その利権を確保するため各国が大臣クラス以下多数の役人を内部に送り込んでいることは確実でしょう。
・働く宮廷のネタ
異世界(ハイファンタジ-)ならではの部門を作りましょう。
ずばり宮廷魔術士団です!! 魔法・ギフト・異能・スキル・アビリティ……呼び方はいろいろあるでしょうが有益な力があるなら囲い込むのが基本です。筆頭宮廷魔術士とか名前だけで滾るのは私だけではないはず。
更にそんな異世界なら国内の人材を調査・登用・管理する組織は必須――教育部門もできるかもしれません(教育部門が発足するのは近代以降――人材の必要に迫られてが基本なので)。
他にも国の事情に合わせた部門が存在しているかもしれません。例えば天災が多い国なら治水土木部門とかでしょう。史実でも水害が多い国(中国や日本)の宮廷には治水土木専門の部門が置かれています。逆に水害が無い国では精々が王が趣味で雇用する職人集団規模です。
モンスターがいる世界なら幻獣騎士団とか特別な部門もありそうでですが……軍事関係は”戦う宮廷”で。
長くなりましたので生活の宮廷と戦う宮廷はまた後日(いつ書くかは私も知らない)。