メイドのネタ
勇者や魔王を超える”なろう小説”登場率を誇る職業――メイドさん。
貧乏男爵家令嬢から銀河帝国皇帝まで偉そうな主の傍らにはべり、ある時は登場人物の存在感を喰らい、またある時はヒロイン枠をちゃっかり押さえる働く女性。場合によっては主人公をやることもある、あのメイドです(おい、御主人様はどうした)。
メイドとは女性使用人で、裕福な立場の者が家事全般や身の回りの世話をやらせるために金銭で雇う家庭内労働者です。
・メイドさんのお仕事ネタ
なろうのメイドさんは、万能過ぎて奉公人・使用人・召使・下女・侍女・女中・家政婦・女官・レディズコンパニオン(女相談役とでも訳そうか)・家庭教師・護衛・暗殺者等、多くの職種の仕事を掛け持ちしていることが多いです……ここがネタです。
はっきり言いましょう。メイドさんは、こんなにいろいろしません(というかさせない)。
そもそもメイドさんは『裕福な人が自らの財力を誇るためのステータスとして雇用する女性使用人』なのです。奴隷制がある世界ならば『優秀な奴隷を沢山所有しているんだよ。ははははは』と高笑いするあの感じです。
その結果、当然のことですがメイドさんを一人、二人しか雇えないような貧乏な家でないのなら専業化が進むのです。沢山の女使用人がいるのに貴族の教師ができるような女性に洗濯や掃除をさせるでしょうか? 料理のタツジンが相談役? ありえません。
奴隷ではなく給金で雇っているのです。適材適所で仕事を割り振ることでしょう。なおメイドさんが家庭内労働者の主流になれたのは男性使用人を雇うと税金が掛かるようになったという理由がある(財力を誇りたいのか、節税したいのかどっちだなんだ御主人様)。
更に以下の仕事は女性使用人でも、メイドさんと少し違うでしょうか。
○女官:国家の統治機関が雇う女性の官吏です。基本的にメイドは家庭で雇うわけですからね。女性王族の世話とかなら王家が雇うことになるでしょう。国家機関が全て王家の財産で運営されているなら別ですが……なお国家組織や王家が雇用している女性への無礼狼藉は、その国の体面に泥を塗り喧嘩売ってることになります。盆暗貴族子弟の皆様ご注意を。
○レディズコンパニオン(女相談役):上流階級の女性に対してお話をしたり、社交界に同行をしたりするお仕事です。取り巻き(お友達)とでも言えばいいでしょうか。給金ではなく”お手当”を貰い、食事も住まいも用意されます。そして雇い主と同等か少しだけ地位や階級が低いのが重要。なお侍女と違い身の回りの世話すらしないです。ほら、悪役令嬢の左右に控えて追従する取り巻きAとかですよ(逆に悪役令嬢を諌めたりする場合も)。また中世欧州では未婚の女性が一人で男性と会ったりすることは『逢引は、よくないと思います!』とツッコミを入れられるため、付き添い人として女相談役みたいな職が必要だったようです(なお侍女などの使用人では不適格とされた)。
○女家庭教師:上流階級の令息令嬢に読み書き算盤を教える女性です。教え子が成長すると解雇される。ただし教え子が女性の場合、そのまま上記のレディズコンパニオンになる可能性もある。女家庭教師→女相談役への進化ですね。
○護衛&暗殺者:もしこれを仕事にしているメイドがいたらそれは本職が護衛&暗殺者であって、メイドは偽装かついでしょう。そもそも本気で護衛するなら鎧とか装備して、メイド服(あれ制服ですから)着るわけないですし。魔法などの特殊技能がある世界ならメイド服だけど鎧より頑丈とか、素手だけどドラゴン倒せるとか可能かもしれませんが……暗殺者と護衛の凄まじい攻防が延々と続く世界でしょうね。
更に更にここまで生き残ったメイドさんの仕事ですが大きく二つに分かれます。
・家事全般(掃除・洗濯・料理)をするメイド:家政婦、下女、女中(下女中)、召使・使用人・奉公人の中でも下の地位の者がやる。
・身の回りの世話をするメイド:侍女、乳母、女中(上女中)、召使・使用人・奉公人の中でも上の地位の者がやる。
家事全般系メイドさんと御世話系メイドさん、これこそメイド界における二大勢力です(力説)。
家事全般系メイドさんは家政婦ともいえるでしょう。家政婦長の指揮のもと家庭内労働を実質的に行うメイドです。
そして家政婦長の指揮から独立しているのが御世話系メイドさんです。具体的に侍女や乳母(女家庭教師や女相談役もメイドではないですが独立してますね)など、女主人や当主の家族の世話をするメイドです。
*家政婦長さんですが、女主人と当主を除けばほぼ家庭内最強のお立場です。ぶっちゃけメイドじゃなくて管理職。家事全般系メイドの雇用判断の権限もあり、執事などの男性使用人達と同等かそれ以上の力がある。別格として女料理人は独立部門として厨房を取り仕切ります。
まずは家事全般系メイドさん達からネタを探しましょう。
家事全般系メイドさんは、メイド序列的に下位に属します。言うなれば縁の下の力持ちです。基本的に仕える主人一家と接点を持ちません。これは避けているとかではなく物理的空間的業務的に接触する必要がないのです。名称とともに具体的な仕事内容も交えて確認しましょうか。
○チェンバーメイド(部屋メイド):寝室や客室など特に重要な部屋の清掃整頓維持が仕事です。家政婦長の指揮下にあり家事全般系メイドの中では上位です。比較的ベテラン枠ですね。新人を苛める悪役メイドから頼れる先輩まで利用の幅は大きいでしょう。
○ハウスメイド(屋敷メイド):お屋敷の清掃がお仕事です。専門職ではない汎用メイドですね。他の専門職メイドの仕事のお手伝いなどもさせられたようです。モブメイドですね。恐らくドジっこメイド枠はこちらかと。
○キッチンメイド(厨房メイド):厨房で料理の下ごしらえ、仕込み、火おこしなどを仕事としてます。料理人の指揮下にあります。見習い騎士にお料理を差し入れてくれる優しいメイドさんにどうぞ。
○スカラリーメイド(皿洗いメイド):厨房メイドの見習いですね。下っ端は皿洗いからのまんまあれ。多くのメイド主人公の通る道です。皿洗いメイド→厨房メイド→女料理人と進化するんです。
○スティルルームメイド(蒸留室メイド):お茶やお菓子(当時では高級品です)の貯蔵管理担当のメイド。厨房とは別枠でこちらは家政婦長の指揮下です。お菓子を作るなどパティシエ的仕事もします。次代の家政婦長候補でもあります。それだけ重要なお仕事というわけですね。メイド達の勢力争いにおいて、この役職に任命されるかされないかは大きな事件でしょう。ああ、見える……主人公メイドが任命され悪役メイド達が階段から突き落としたり毒を盛ったりして墓穴を掘るさまが。
○パーラーメイド(給仕メイド):給仕、来客への取次ぎなど接客業務。美人さんを優先的に配置します。受付対応ですが来客→パーラーメイド→執事(もしくは従者)→主人と直接主人に伝えるのではなく上位職へ伝えます。これは給仕でも同じで、本格的な晩餐などは厨房から料理を運び配膳は執事や従者がします。他には女主人のお茶会なども出番でしょう。訪れた男性に目をつけられて……な出会いの物語があるようなないような。
○ランドリーメイド(洗濯メイド):洗濯がお仕事です。ただひたすら洗濯するのみ。洗濯は重労働ですからね。全自動洗濯機なんて無い時代、専門職です。なお使用人と主人家族の洗物は担当者が別です。裏方の中でも更に裏方ですから物語に絡めるにはテクニックが必要でしょうね。
○デイリーメイド(酪農メイド):牛の乳搾りがお仕事。バターを作ったりもします。これも重労働ですね。パワフルなイメージ。肝っ玉母さんとか?
主人家族の優雅な生活を支えるためにコレだけの家事全般系メイドが存在するのです。なおこれでも有名どころだけです。
お次は御世話系メイドさんです。
○レディースメイド(侍女):女主人に常に付き従い、外出のおともから着替えの手伝いや宝飾品の管理などなどをします。女主人が直接動かなくていいように先んじて動いたりすることも。貴族の夫人や王妃様の側にいたりするメイドはこれです(護衛や暗殺者だったりするメイドでもあります)。見栄えも重要なので若く美しい女性が好まれます。女主人の地位によっては、侍女にもそれなりの階級出身であることが求められるでしょう。貴族令嬢が行儀見習いとして奉公に……とかのパターンですね。奉公中、王子様に見初められて物語が始まります。
○ナース(乳母):子供躾など担当します。乳児への授乳から始まり女家庭教師が読み書き算盤を教える以前の段階における情緒教育などですね。いわゆる”ばあや”です。主人公出生の秘密を握ってたりすることも。
○ナースメイド(子守メイド):乳母の指揮下で働くメイドさんです。補佐役であり子供の散歩など”ばあや”には向かない方面を担当します。外出が多くなるので誘拐とかの襲撃対象にいかがでしょうか?
……メイド数多過ぎ。なおメイド関連本を探すと日本人の業が分かります。『メイド情勢は複雑怪奇なり』と某国の首相が言ったとか言ってないとか。そんな迷える我らの救いになるメイドさんがいます。
○メイド・オブ・オール・ワーク(万能メイドもしくは雑用メイド):上記のメイドの仕事を一人で全てこなすメイドです。家事全般から身の回りの御世話まで……ここまで費やした4000文字の意味? いや、こちらの必殺技っぽいメイドさんは、裕福でない中流の家が『それでも我々は中流!』と一人だけ雇うメイドさんなのです。一人しかいないから一人で何でもできる万能メイド爆誕。なお英国でヴィクトリアな時代のメイドさんも五分の三がこのタイプのメイドさんらしいです。
そこまで見栄を張りたいのかご主人様……しかし上には上がある。
○ステップガール(メイドに似て非なるメイド):メイド・オブ・オール・ワークを雇用することすらできないご主人様が『それでも我々は中流?』と振舞うため、週に一回玄関を掃除してくれるメイド。メイドを雇っているようにご近所様に認識してもらい経済力があるとみなしてもらうのだ。来客があるときだけ雇うアルバイトなメイドとか面白いかもしれませんね。晩餐会の一日だけ百人ぐらいメイドがいるけどほかの日は零とか。
『見栄すら張れない人生ならやめてしまえ!』とは、某借金地獄なご主人様の名言(個人的判断)にありますが、ご主人様の執念を感じますね。
魔王とか討伐するなろうメイドはいったい何メイドなのか未だ分からない……奥が深過ぎるぞメイド界。
追記:男性使用人と女性使用人の給料格差について、場合によっては20倍ほど違いがあったそうです。まあ、執事と皿洗いとかならそれぐらいありそうですが、男尊女卑を感じますね。