国力のネタ
当然のことですがギルドのネタ②ではありえません。国力のネタです。
国力ってファンタジーで関係あるのかという疑問もあるでしょう。しかしあります! 具体的にいうと戦争とか戦争とか戦争とか。何も考えずに数百万の軍勢とか登場させた作者は、『ありえねーどんな超国家だよ』とコメントを貰うことになります、ハハハ(ごまかし笑い)。
さてそんな戦争描写でうっかりツッコミを貰わない国力の目安ですが……
・国土と地形
・主食
・兵制
これを押さえておけば国力の目安を出すことができ、トンデモ軍隊だと指摘を受けることもない! なかったはず!
○国土と地形
大きいことはいいことだという言葉がありますがこれは正しいです。土地が広ければ人がたくさん住めるし税収も上がる。川・森・山があればその恵み。海に面していれば魚介類を獲れるし交易もできることでしょう。
では広い国なら無尽蔵に国力があるかといえば答えは”いいえ”です。
例えばいくら国土が広くても、ほとんどが灼熱の砂漠ならば実りは僅かです。逆に雪と氷に閉ざされた冬の国も国力は乏しいでしょう。更にいうなら鉱物資源が無い山岳地帯の国家も同様です。重要なのは過ごし易く安定した生活ができること……
答えは”農作地”です。
はっきり書きましょう。大国と呼ばれる国々の国土は、半分ぐらいが農作地です。アメリカ四割、ドイツ五割、フランス五割、イギリス七割……これ国土に対する農作地の割合です(あくまで現代ですが)。当然ファンタジー世界はトラクターなんてないでしょうが、大国を描写するなら広大な穀倉地帯を抱えていることを描写すればそれっぽく見せることができる。
食料が沢山あれば大勢の人を養うことができます。余剰の食料を保存して飢饉に備えることも可能になります。それでも余れば外国に売りつけて儲けましょう。
○主食
大国には穀倉地帯があると書きましたが――――あれは嘘だ!
例えば日本は国土面積に対して農作地は一割なのだ!
しかし中世日本は世界でも有数の軍事大国でした。
1600~700年ごろの各国の軍隊ですが……フランス35万人、ロシア22万人、プロイセン4万人、スペイン3万人らしいです(伝聞)。まあ、穀倉地帯持ってる国が兵力多いのが分かりますね。
で日本は……とある関ヶ原で両軍合わせて20万人(汗)。戦国時代真っ只中という条件を考えてもありえないほど大兵力です。だって関ヶ原以外の九州や東北でも戦っていて20万ですからね(総数は30万とかいきそう)。
なぜ農作地がしょぼい日本がこんなに軍隊を抱えていたのか。当時の日本の人口は諸説ありますが1200万人ほどらしいです。これは当時のロシア1700万人、フランス1900万人、プロイセン(ドイツ)200万人に比べてもさほど劣っていない。農作地が狭いのに多くの人口を養っていた。結果、軍隊が多い……じゃあなんで狭い耕作地で多くの人口をささえられたのかという疑問が出てきます。
答えは”米”です。
中世ヨーロッパ風ファンタジーでよく主食になる小麦ですが、中世ヨーロッパで小麦を一粒蒔いてどれくらい収穫できるかご存知でしょうか。信じられないかもしれませんが、三粒です(多くて四粒)。
つまり小麦を1撒いても3倍しか収穫できないのです。翌年の種籾として三分の一使うこと、税として三分の一を収めることを考えれば撒いて食べることができるのは三分の一です。
対して中世日本の米の収穫倍率は驚愕の30倍です。
小麦に対して米がどれだけ効率的か判っていただけるでしょう。つまり農作地が狭くても収穫率が高い作物を主食にしている国は、多くの人口を養い国力を維持できるのです。
なお中世各国の国民人口に対する軍隊を見ると、国民人口を100としたら大体1~2の間です。つまり百万の軍隊がいるとするなら一億人の国民がいる。収穫倍率3倍で一億人の人口を維持するにはどれだけの面積が必要か。
えー中世だから有名な加賀百万石あたりをネタ元にすると、米で百万人を養うには加賀藩が丸ごと必要で、更に米と小麦の収穫倍率は10倍差。麦で養う場合は米の十分の一の十万人。一億を十万で割ると――千。加賀藩(農耕に適した優良な土地)並みの土地が千個あれば、中世ファンタジー国家は、小麦で一億人の国民を養い百万の兵隊を保有できる。約フランス三個分でもOK……EUとかそのレベルですね。
追記:中世における小麦の収穫率は、肥料・治水・品種・農耕馬・鉄製農耕具の有無が大きく影響しています。そこらへんが改善された現代では、20~25倍まで上昇します。政治が安定し経験が蓄積され、富が農村部に循環されれば国力は上がるということですね。いくつかの条件(例えば肥料や鉄製農具の普及)を満たした国家は、国力において隣国を引き離すことになるでしょう(収穫倍率10倍とかまでいくそうです)。
○兵制
大国は人口を養える国と書いたが――――あれは嘘だ!
例えばモンゴル帝国は、農業してない遊牧民で最初の人口は70万人である!
しかしモンゴル帝国は、世界史上有数の大国でした。
戦争に勝ちまくったのだから当然ですが何故勝てたのでしょう。モンゴル帝国の人口はたったの70万人です。
国民100に対して軍隊1の中世ヨーロッパ理論だとたったの7000人しか軍隊がいないことになりますが……モンゴル帝国は、初期の時点で10万人のしかも騎兵を運用していました。騎士のネタでも書きましたが馬に乗った兵というのは、戦場において非常に有利です。
ではなぜ人口70万のモンゴル帝国が10万もの騎馬軍団を有したのか……
答えは”兵制”です。
遊牧民にとって馬は、生活と密接に関係していました。現代言えば自動車みたいなものでしょうか? さらに遊牧民内では、一族の存続をかけた戦いが常に行われており成人男子は、すなわち戦士でありました。
国民の7~8人に一人が戦闘のプロフェッショナルとかどんな戦闘民族でしょう。現代だと親族を探せば戦車や戦闘機操縦できる人が一人はいる状況です。
中世初期において国民の一割以上が戦闘要員でしかも騎兵……無敵とは言いませんがとてつもなく強力です。なお日本の有名な騎馬隊である武田の騎馬軍団は諸説ありますが4000~6000騎といわれています。ざっと二十倍のモンゴル帝国恐るべし。
とまあ農作地が無くても収穫倍率が悪くても精強な軍隊がいれば大国たりうるのです。
とある島国なんて国民皆兵で国民の五分の一近くを兵隊にしてます。人口7000万人の内1200万人を他国に派兵したり無茶をしました(なお敗北)。収穫倍率30以上のリアルチート主食と国民の九割が読み書き算盤できるという土地柄が原因ですね(近代戦はある程度の知識必須)。
長々と書きましたが大国であるならばそれに相応しい人口と農作地を有している。そうでないのならば兵制が特殊であるとか個人単位での戦闘力が非常に優れているなど理由が必要。例として日本やイギリスなどは島国なため侵攻されにくく更に海上貿易で国力を高めることができました。
追記:人口の話が多く出ましたが中世ヨーロッパでは人口一万を超える都市は少数です。五万を超える大都市にいたっては指で数えられる程度でした。都市の大半は1万人以下でプロイセン(ドイツ)などは八割(2400ほど)の都市(というか村落?)が人口200~500人程度でした。プロイセン人口200万人のほとんどはそんな村落に分散して暮らしていたのです。移動手段が徒歩(よくて馬車)ゆえに農作に適した土地の近くに村ができ、新たな農作地を広げたるならそこに開拓村ができる。他にも街道沿いの宿場町なども一日に徒歩で移動できる距離ごとに造られる。村々の間隔と人口は、交通手段により制限されていたのです。