海軍 人力船のネタ
以前個人的ネタ集として軍の編成について纏めたがその海軍編。
真面目に海軍史とか考えるものではなく創作時、海軍を登場させる場合の叩き台用。
『十万の軍隊を乗せたガレー船』や『戦列艦VS魔王軍』に心躍る性質なのだ。
まずはそんななんちゃって海軍妄想のため軍船・軍艦について箇条書きにする(戦術とか海戦などはまたいつか)。
今回は海軍史で活躍した軍船・軍艦を大雑把に以下の三つ、
・人力船――ロングシップ、ガレー船など
・帆船――ガレオン船、戦列艦など
・動力船――装甲艦、戦艦など
に分けネタにしていきたい(西洋に偏ってるのはファタジーなら西洋だろうという個人的偏見)。
また人力・帆・動力と分けておいてなんですが現実には明確に区切られた訳ではなく、緩やかに共存及び変化しています(人力と帆を併用したり、帆と動力を使い分けたり)。
早くもネタモトが……通常は帆走で緊急時(戦闘や嵐)は魔法などの不思議力で動く船とかどうでしょう?
○人力船
船の乗員が櫂で漕いで推進力を得る人力船。
代表的な軍船は、ガレー船だろう(個人的に映画ベ○・ハーの海戦シーンが印象深い)。
さて人力船の特徴だが、人力ゆえ無風微風でも瞬間的に帆船以上の速度が出せまた進む方向も選べる。
欠点は漕ぎ手は人間であり体力は有限。よって人力船といいつつ通常時は帆を併用して漕ぎ手の体力を温存するなどしなければならない。
では有名どころから。
・ロングシップ(longship:長い船)別名ドラゴンシップ
時代:石器時代~十三世紀
主な地域:欧州北部沿岸から地中海までの広域
使用者:ヴァイキング
使用目的:交易、商売、探検、植民そして略奪
形状:長く細く優美、船幅は艇長の五分の一程度、喫水は浅い
材質:木製、一隻に百本ほどのオーク木が使われたとも
全長:最小13m~最大30m
速度:平均5~10ノット 最大15ノット(好条件であれば一時間で30~35km進めたらしい)
乗員:最小級25人、最大級100人
動力:バドル(幅広く短い櫂)による人力、後期には帆走との併用
建造期間:不明。しかし複雑な構造ではない及び伝説で600隻揃えたなどのあるため量産性は高いと思われる
戦闘方法:基本は対地襲撃、海上では接舷しての移乗戦術
”長い船”――最古にして原点の船です。各地でクナールやらカーヴやらフェーリングやらいろんな名前で類似の船がありますが有名なロングシップを選びました。
細くなるのは水の抵抗を減らすため、船幅を押えるため前後に伸びる、船が進歩していく過程で当然選ばれるべき形状。欧州どころか世界各地でこの形状の船があります。
この”長い船”の利点は現代でも変わりません。長く流麗な船体は機能美の到達点です。
べた褒めしてますが純粋な軍船ではない。
生活の足として交易に商売に探検にと活用した汎用船といえます。武力で奪う方が早い場合(相手が無防備、恫喝に応じない)に軍船というか略奪船になるわけです。時代的に力こそが正義、奪われるほうが悪いが常識。
純粋に軍事利用された例では、征服王ウィリアム一世が1066年にイギリス海峡――ノルマンディーからイングランド南部へ六百隻のロングシップで一万二千の軍を上陸させイングランドを制圧してます(一隻当たり二十名なので小型だったか遠征ゆえ食料を積んだのかも)。
またこの遠征、風が悪く二ヶ月ほど足止めされたそうです。幅170kmの海峡を渡るだけでも人力船では天候に左右されるのです。最悪天候次第では壊滅してた可能性も。
尚、小型のロングシップは川を遡ることも容易であり小さな村々を制圧するのに武装した戦闘員25名というのは余裕とまではいいませんが十分な兵力となります。
まだ海軍と陸軍が明確に分かれていない時代、陸戦指揮官=船長であり乗員(漕ぎ手兼兵士)25~100名という数は一人指揮可能な範囲――軍組織のネタでいう小隊~中隊規模――なのも理に適っている。
ネタ:小型のロングシップを担いだり引いたりして川から川へ陸上を移動するなどで奇襲を演出するのはいかがだろうか?
他にもヴァイキングは王が亡くなると財宝と共に亡骸を”長い船”に乗せ海に流したと伝説にあります。海を彷徨っている海賊王の宝船を探す冒険譚とか面白そうですね。え? そんな長い間木造船が浮いているわけが無い? いえいえ、朽ちず沈まない船ならば大丈夫。船自体が海神の加護を与えられた財宝なんですから。
・ガレー船(galley:船の意……つまりガレー船という呼び方はチゲ鍋などと同じ重言になる) 櫂船とも
時代:紀元前五世紀~十九世紀
主な地域:地中海、バルト海
使用者:地中海沿岸諸国――ギリシャの都市国家にペルシャ帝国にローマにマケドニアなどなど
使用目的:主に海戦
形状:”長い船”から漕ぎ手座を増やすための甲板ができ多階層構造
材質:木製
全長:最大54m(船幅8.2m)
速度:瞬間で7.5ノット、戦時4.5ノット(帆使わず)、帆走6ノット(ただし風による)
乗員:初期50名(兵士漕ぎ手兼任、片側25名ずつ)、最盛期420名(兵士120、漕ぎ手300)
動力:両舷に備え付けられたオール(戦闘時、時間にして30分――四半刻程度)と帆(有風時)の併用
建造期間:不明、しかしレパントの海戦(1571年)で壊滅したガレー船艦隊をオスマントルコ帝国は六ヶ月で再建している
戦闘方法:衝角で敵船体を破壊する衝角戦術と敵船に乗り移り制圧する移乗攻撃が主。遠距離攻撃は、弓・投石器・弩・火炎放射器・大砲など時代地域により幾つか搭載されたが主力ではなかった
本格的な軍船はこのガレー船からといえる(ロングシップを解説したのは個人的趣味)。
ガレー船は初期こそ”長い船”と大差ありませんでしたが凄まじく発展していきます。
櫂で動いてたのはロングシップと同じですが甲板――漕ぎ手を増やすため階層構造が生まれ機動力が増します。そして多階層は乗員の増加も可能にし移乗戦術時の兵力も増えました。
漕ぎ手と兵士を分け乗り込みまでの戦闘員の疲労を減らす工夫も生まれます。
海戦で人力船は帆船に対して圧倒的優位を確保しました。自由に動け側面を衝角で穿てるのはそれだけ大きな利点なのです。
船自体も強化されていきます。
喫水線下に穴を開け櫂を圧し折る衝角。
敵船への乗り込みを容易にする固定杭付の跳ね橋。
水で消えない炎を撒き散らす火炎放射器ギリシア火。
遠方の敵を貫く弩や投石器。
船ごと転覆を狙う突撃船首。
などなど大型化重武装化を突き進みます。
地中海を中心に五段櫂船なんて化け物(上中下三本の櫂を五人で漕ぐ、それが両舷にそれぞれ30組)まで生まれる。
三百人の漕ぎ手により生み出される機動力で衝角戦術を駆使し大量の兵員による移乗戦術は海戦の花形として君臨しました。
勿論、時には敗北もしました。
人力ゆえ戦闘速度を維持できる時間が限られていたためです。風向きや潮の流れを見誤り漕ぎ手を疲れさせると身動きが取れなくなります。
しかしそれは運用失敗による敗北、千年以上に渡りガレー船は海戦の主役を務めました。
……限界が訪れるまでは。
更なる大型化を望んで甲板を追加すると上下の櫂の干渉し、では船体を長くして対応しようとすれば今度は戦闘に重要な機動性が落ちる。
また大型のガレー船は、櫂を同時に動かせる訓練された漕ぎ手が必要。
甲板下の空間は、漕ぎ手で占められるため食料などは常時港で補給せねばならず大型のガレー船は戦う以外は港に張り付かねばならない。
ガレー船艦隊維持の手間は増大し運用の幅は狭まっていきました。
そしてガレー船が進化の限界に至ったところにある兵器が台頭してきます。
その名は大砲。
続きは次回、海軍 帆船編にて「海戦に革命が起こる!!」(ナレーション)
ネタ:ガレー船の表現(種別?)に三段櫂船、五段櫂船などがあるがそれだけだとインパクトがいま一つ足りない気がする。作中で出すなら『三百人級五段櫂船』や『百五十人級三段櫂船』など言葉を追加するのもありか。
戦闘時は帆を畳むが、時には帆柱を折ってしまうという無茶をしたらしい。不退転の決意を示す行動として指揮官にやらせてもいいだろう。
側面をとれない場合、海戦はお互いガレー船が横一列に並んで正面からぶつかるガチンコ勝負になる。戦闘は衝突した艦首で発生し舳先を奪ったほうが相手の船に移乗できる。つまり勇者同士の一騎打ちなんて展開も……水の上ですが燃えません?