紋章のネタ
紋章のネタです。
派手な模様と色合いの菱形や丸を中心にして、左右に獅子、上に王冠とか書かれるアレ。
作中で敵情報を伝えるのに旗の紋章を使ったら気になりまして……無計画な作者。
紋章とは個人、家系、団体を特定識別する図案や意匠つまり目印。
厳密に言いますと代々受け継がれたとか条件があるようですが……あくまで作品のネタ用なので使えそうな知識や情報を摘み食いしネタに変換します。
具体的には、作品の雰囲気作りと上記の情報伝達のための利用。
ほら、『左翼に新手! 旗印は……黒地に王冠を被った三つ首黄金竜! ”三界覇者”ギドラ王国のメカデスカイザー三世です!』とか戦場で叫ばせたいじゃないですか(ゴ○ラ新作アニメだそうで)。
①紋章の目的
既に書いてますが個人や家系の識別。
更に基点を調べると――ずばり最大の目的は敵味方識別。
何も知らずに敵の識別に利用した作者は無罪(推測)。
紋章は英語でコート・オブ・アームズ(Coat of Ames)。
コートはサーコート、騎士様が鎧の上から羽織るあれです。
アームズは武器つまりは戦闘用具やそれを振るう騎士を意味する(戦闘要員をアームズマンとか呼びますし)。
日本風に言うならば侍の陣羽織とかが近いでしょうか。
兜や鎧で武装した騎士は、個人識別が困難。
故にサーコートに個人識別の紋章を記した訳です。
実はもっと遡ると紋章は盾に書かれていました。
こちらは盾紋章――エスカッション(Escutcheon)と呼ばれます。
しかし中世初期は盾を使用していたのが、鎧の進化とともに徐々に盾は小型化。最終的に戦場から消滅してしまう。
日本では兜飾りや旗印の家紋が紋章に近いでしょうが凄く大型化奇抜化している。
目立つことを優先したのでしょうが……いや、明らかに戦闘の邪魔なでかさですアレは。
視界不良の鉄兜の格子越しに敵味方識別するためにはそこまでしなければならなかったということか。
*西洋の紋章と日本の家紋は似て非なるものです。西洋の紋章は個人寄りで情報量が多い。
尚、エスカッションは紋章の中に書かれる楯図案を指す場合もあるのでご注意(この場合は、男性や騎士を意味する。というか男性や騎士しか盾=戦闘職を意味する紋章は使わない)。
女性は菱形、聖職者は卵型など地域や時代によるがエスカッションが区別されている。
靴を書いただけの靴屋の紋章や鋸と槌を交差させた大工の紋章などもあり案外適当。
もちろん武装以外にも紋章は使われる。
むしろ私達にとってはこちらのほうを紋章として認識している。
・貨幣:硬貨の表に発行した王の顔で裏に紋章とかポピュラーです。紋章は盾紋章の部分だけ利用。
唐突に、自己顕示欲の強い王様が金貨に自分の顔を刻みたいから金山持ってる隣国を攻めよう、とかやらかすネタを思いつきました。凄くくだらない理由で戦争起こる例としても面白いかも。
・建築装飾:団体のエンブレムとかですね。庶民の紋章は看板かも。赤十字とか。
・旗:軍旗などが代表でしょう。旗色を鮮明にするなんて言葉も。
初期は、本陣で荷馬車の上に船の帆柱を立ててそこに自らの紋章を揚げたりしたそうです。本陣の位置を明確にし友軍の士気は上がったでしょうね(将がそこにいると証明できる)。
尚、紋章無しの軍旗だとローマ帝国の軍団などが個々の軍旗を掲げています。
・指輪:封蝋などに押される印璽。あれ個人識別の紋章の名残です。男性は指輪に彫るようですが、女性は腕輪や胸飾りと区別されていた模様。
○ネタ
魔法やスキルなど異能により個人戦力が大きな(それこそ一騎当千もありゆる)異世界ファンタジーでは現実以上に個人が目立つ利点が大きい。
強い個人が一目で判れば友軍の士気も上がりますし、本人にしても戦功が認められやすい。
身代金の概念があるならいきなり殺される可能性も減るでしょう(戦争で儲ける手段として身代金はメジャー)。
まあ、敵に狙われる不利益もありますが……何より格好いい。
武器のネタでも似たようなこと書いてますがキャラの個性重要です。
異世界ですしドラゴンとか仲間にしたら紋章入りの腹掛けなんてどうでしょう? 味方だと分かりますしね。
いっそ紋章を魔法で表現するのも。光の魔法で照らす、炎を紋章の形に噴出させる……そのまま攻撃魔法として使ったりすれば士気も増し増しです。
②紋章の構成要素
作中で描写する際に紋章をもっとそれっぽく書けないかな? などと調べたのが運の尽き……さすが紋章学などがあるわけです。
複雑&難解極まる。
なのでそれっぽく書くためだけの摘み食いだけしました。
紋章は、楯紋章を中心に据えて上下左右に様々な図案意匠を配置することでなりたっています。
・モットー:紋章の上下に書かれる言葉。座右の銘や家訓に誓いなど洒落た紋章だと冗句なんてことも。『ぶっころすぞごらああああああああああ』なんていうモットーもあったそうです(意訳)。
・クレスト:エスカッションの上に掛かれるヘルメット――被りものの飾り部分。初期は下記のエスカッション部分の意匠をそのまま飾りにした(クローバーや獅子など)。個性的なものでは詩人がセイレーンやマーメイドなどを配置している。
・ヘルメット:エスカッションの上に乗る意匠で紋章の持ち主の被るものを意味する。つまり王なら王冠、騎士なら兜、聖職者なら教会帽子など実際に使用する装着するものを書いている。下記のクレストとは違い実用品が意匠化されたもの。
ちなみにこのヘルメットの左右正面の向きと面頬を上げてる下げてるかなども爵位により異なるそうです。
・マント:ヘルメットから垂れている。ボロボロだと決闘や従軍などの戦闘経験あり、戦闘経験なしだと無地(女性や聖職者用)。
・クラウン:これは地位を示す意匠。ヘルメットとエスカッションの間に書かれる。王などは豪華な王冠が書かれ爵位が下がるとしょぼくなる。実際に所有している王冠を書くわけではなく爵位というか社会的地位を意味するためのもの。貴族じゃ無いなら不要かな。
議会などが支配する独立都市なら冠の代わりに城壁の意匠が鎮座する。他にも学園なら杖持つ賢者など。
・エスカッション:紋章の中央に書かれる凧型盾(丸や四角もある)の意匠。
もっとも重要な部分。そして一番複雑。
分割方法も縦、斜め、十字、三分割、毛皮模様、波線など無数にあり分割した部分に書かれる意匠も獅子だの鷲だの百合だの多数。
幾何学模様も多く意味が不明なものが殆んど。中には自身の名前に似た動物――エレファルドなら象をエスカッションの中に書いたものもある。
個人識別できれば――金成瓢箪なら羽柴秀吉みたいな――よいので目立つエスカッションが乱立したのだろう。
それでも『地の部分は金銀の金属色どちらか一色と、青赤紫黒緑など原色から一色を組み合わせる』など最低限のルールはあった模様(戦場での識別を重視か?)
後世になると両親の家の意匠を取り込むことで複雑化が進み父方母方合わせて十六家の分の意匠(楯)が一つの楯に刻まれるなどが起こる。更に紋章とは個人のものなので兄弟が多いと長男、次男、三男それぞれ別の紋章が必要になり……
他にも”獅子”の紋章と”剣”の紋章を持つ家が婚姻を結んで、”剣を持つ獅子”の紋章になるなど分割法以外の合体などがあった。
また教会内部での役職紋章や宮廷内での役職紋章、更に死別した妻の楯紋章などを自らの紋章の端に小さく加えることもあった。
・サポート:上記のエスカッションを左右から支える図案。動物や聖人、有名な騎士など出身の土地由来が多そう。守護獣とされる竜や獅子鷲など幻獣もあり。
・コンパートメント:エスカッションの下に置かれる土台。風景や建造物などこれも出身地ゆかりの物。
いろいろあったがつまり紋章を観れば、性別、戦場経験の有無、爵位、所属地域、モットー、職業、第何子などもろもろが分かる仕組みだ。
もちろん上に出した構成要素以外もあるし省略される紋章も多い。
凄いのになるとクレストもエスカッションもサポーターもコンパートメントも天馬なんていう紋章もある(手抜きなのかこだわりなのか……執念すら感じました)。
まあ、あくまで作品の中で利用するためのネタ(大体全部を文章で書いたら大変ですしね)。
例えば『金地赤獅子の盾に王冠の紋章』と描写すれば登場人物に『やばい! あれは何某王の軍勢だ』と適当に言わせて読者にそれっぽく敵を解説することができるわけです。
盾の部分を卵型にすれば『どこそこ教会の軍だ』とか。
何十個かサンプルとして紋章満載の騎士の絵観ましたが原色で全身を覆ったド派手なの結構ありました。金色と黒、金色に青、金色に赤……凄く目立ったでしょうね。
*そういえば紋章が力を持つ世界を舞台にした水野良先生のグラン○レスト戦記がアニメされるそうで……いやー紋章がどんな風に描写されるか楽しみだな。いえ、ロード○島戦記やフォーチュンク○スト読んで育ったので。
上でも書きましたが長男以下何番目の男子を意味する図案があったり、両親の図案を組み合わせたりして盾紋章の内部は区切られドンドン情報量が増えていきます。
これが紋章学が難解になる最大の原因……あー時代を重ねた家とか国とかを表現したいならこれネタに使えますね。『あまりに意匠や図案が複雑過ぎてそれだけでどれだけ長い歴史を重ねてきたか見る者に分からせる』とか。紋章とは歴史である。
○ネタ
獅子ならイングランド、ワシならドイツ(ローマ皇帝)、フランスなら百合と楯紋章の図案にはある程度傾向があります。
異世界ならそれらしい紋章を捏造しても問題なし。
魔法や魔獣、神や魔法武器など存在する異世界ならば紋章のバリエーションはこの世界を楽々越えるでしょう。
文章で表現するに問題ない範囲で現実の紋章法則をつまみ食いするのもオススメです。
クレストやヘルメットは表現が面倒ですし簡略化し、モットーやサポーターなど文章化しやすいものをオリジナルルールの下、利用するのもよろしいかと。
オリジナルルールは例えば、楯の形と下地は国、モットーは座右の銘、サポーターは信仰する宗教の守護獣、小型楯の中の紋章は家と家内の立場など……
『黒地に銀の割れた髑髏、楯支えるは折れた塔、座右の銘は”出世したい”!! 魔王軍死霊軍団所属”要塞潰し”ジフ・ジーンです』
ルールに従いどこかの魔王軍に所属するネクロマンサーの紋章を捏造してみました。
中世ぐらいの文化レベルのファンタジー異世界だと、写真もなんもないので見ただけで相手が判らないので人物確認への対策にもなります。
③紋章の意匠の意味
繰り返しになりますが意匠にも有る程度方向性はある。
上に書いた獅子ならイングランド、ワシならドイツなどだ。
ここを押えておくと異世界の紋章捏造に利用できる。
港関連の家や町なら”錨”や”船”。
漁業が盛んなら”魚”や”網”を土台にしてもいい。
川と街道が交差する地域関係なら”橋”や”川と道”。
戦いで栄誉を掴んだなら”剣を掲げる腕”。
先祖が英雄なら紋章の左右に配されるサポーターを”英雄と伴侶”など。
隣国を威嚇するために”敵国の象徴や国民を串刺しにした”意匠なんかも(物騒ですが実際多い)。
紋章の楯の下地(金属色と原色)の塗り分け方も所属する(もしくは祖先が所属していた)国や勢力を示すもの。
空中都市が領地なら”翼の生えた大地”もいいだろう。
魔術士の家系なら”杖”は必須、炎の魔術で偉業を成したなら祖先がいるなら”火”の意匠を楯に刻むべきか。
更に同じ意匠でも、動物なら”顔の向き”や”姿勢”、図案も角度によって個人を識別する。
四つんばいで左向きの獅子と立ち上がって正面を見ている獅子では別ものなのだ。
口をあけてる、寝ている、首が二本有る、二本脚で立つ、二匹が向かい合う、双尾、尻尾を編んでいる、後ろを振り返っている、赤目、青爪、黒舌、剣を掲げる、杓杖、宝玉、王冠、首輪……などなど同じ獅子でも十や二十では足りないバリエーション。
遊○王のブルーアイズではないが”鎖に縛られた双頭の赤目獅子”などという香ばしい紋章もリアルに存在しうる。あ、”金毛白面九尾の狐”なんかも異世界なら紋章としてありだろう。由来? ワーフォックス(狐人)の紋章でいかがか。
同じく”錨”などでも色や角度によって表す個人、家、都市が変わる。
・ネタ
五百年前対亜人戦争で活躍したヒューマン王国のエルフキラー伯爵家。しかし時代は移り変わり亜人差別撤廃されエルフ王国との友好条約が締結されることに。
そんなある日、王城に呼び出されたエルフキラー家当主ソレハイヤーは国王より『お前のとこの紋章いろいろ拙いから変更しろ』と命令される。
なんと五百年続くエルフキラー家の紋章は、”エルフの串刺し”に始まり”エルフの弓を圧し折る拳”の意匠や”エルフの耳を切り取った”図案などエルフ王国に喧嘩売っているとしか受取られないものだったのだ。
王命とはいえ歴史有る紋章を捨てることは屈辱であり祖先の偉業を否定することに繋がる。しかし逆らえば最悪家が取り潰される可能性も。
『それはいやだー!』と叫んだソレハイヤーは、どうすれば紋章を変えずに済むか知恵を巡らせることに。
友好条約を破談に持ち込む? これはエルフではなく耳が長い人間と抗弁する? 王家に反旗を翻し独立か? いやいや国王を暗殺して亜人差別主義者の王弟を国王にすれば……?
と色々書いてきましたが『自分のキャラにオリジナルの紋章を持たせたいな』とか思っていただければ幸いである。
皆様に良き異世界創作があらんことを。