軍組織のネタ
軍組織のネタです。
これは作者が『小隊ってどれぐらいだっけ?』『中世の欧州の軍事組織って近代の軍事組織と比較するとどんな規模になるんだろう?』というのを一々調べるのが面倒になり纏めた独自解釈資料です。
あくまで概念や役割を中心にしているので実兵力とは結びつきません。
架空のファンタジー世界の軍編成ぐらいでお受け取りください。
……よしこれで何を書いても大丈夫だ。
○軍組織の階級
・下士官:一兵卒からの昇進者。曹長とか軍曹とか伍長とか。叩き上げの熟練兵。
中世感覚でいえば幾度か戦争に従事したことのある古参兵。
騎士の従卒、従者、供回りなど、農民兵や徴募兵ではない存在もここに入るか?
・尉官:高度な軍事教育を受けた士官スタートライン。少尉とか中尉とか大尉とか。最前線で下士官や兵を率いる士官。
中世感覚でいえば見習い騎士や従騎士~戦を経験した騎士などだろうか。
・佐官:尉官と将官の間。尉官からしたら最前線の指揮官。将官からしたら直接その補佐助力をする士官。
中世で考えればベテランの騎士や騎士団の団長や若手有力貴族が任じられる立場だろう。
前者はまんま最前線の指揮官だし、後者はいずれ将軍になるため将軍の補佐について経験を積んでいると考えればよい。
・将官:軍の総司令官。王から直接任命される。大将、中将、少将といるが元々は大将軍がいてその元に数名の将軍がいた程度。
将軍だけではないが階級が複雑化していったのは、近代の国家総力戦に対応するため軍組織が肥大化していったためである。
小ネタ:農民出身の古参兵ゲンスイ。彼は兵役を終える二十五歳を目前にして負け戦でとある騎士の命を救う。なんとその騎士は大貴族の一人で褒章として一代限りの騎士に叙勲されてしまった。
『いや、俺は退役したいんだ』とは言えず泣く泣く古参兵(ベテラン下士官)から新米士官になってしまったゲンスイ。貴族出身の若造騎士たち(十五~二十歳)からの嫌がらせを受けつつも十年間に及ぶ戦歴を活かし昇進を重ねていく……
案外、面白い話がかけそうなネタ?
あ、助けた騎士の娘さんとのロマンスとかいいかも。
他に故郷に残してきた幼馴染とか。
○軍組織の単位
08小隊とか独立遊撃隊とか近代軍組織で出てくる部隊の単位とその人数を大雑把に解説します。
・小隊:platoonで意味は集団、団体。人数は10人以上~100人以下ぐらい。重要なのは指揮官が士官、つまり軍事教育を受けた職業軍人が率いる単位。
無謀な突撃しか知らない新米士官=無能な少尉殿が小隊長を勤めて、熟練者の下士官=鬼軍曹を困らせるあれです。
中尉が指揮官ならばある程度戦闘を経験した小隊と表現できる。有能な若手士官ともいえる。
・分隊:squadで意味は団、分隊。人数は10人前後。小隊を分割して、下士官が分隊長に任じられる。
小隊を分割、半分を新米士官が率いて半分をベテラン下士官が率いるなどの運用が考えられる。どちらかが近接火器を装備して、もう片方が中距離火器で支援するなどの編成もあり。
個人の指揮官が一人一人の名前を把握して細かく指示を出せるのは上記の分隊、小隊までだろう。
サッカーやラグビーなどのスポーツや小学校の団体行動を思い出していただければ10~30人を把握し連携して動くことの困難さを理解してもらえると思う。
追記:中世初期の村々を制圧するには武装した軍隊三十六名で十分とされた模様。単独の指揮官が管理できる範囲で農民を制圧できる人数ということだろう。
・中隊:companyで意味は、会社や同じ仕事の集団。人数は100人~200人。二つ以上の小隊で構成される単位。一人の指揮官が大雑把にでも指揮できる限界。これ以上は目も声も届かなくなる。
そして中隊は同じ兵科で統一される。歩兵中隊なら歩兵のみ。騎兵中隊なら騎兵のみなど。
後述する大隊以上になると歩兵三個中隊+騎兵一個中隊など同じ単位内でも兵科自体が異なる編成になることもある。
指揮官は中尉か大尉。若手士官の佐官候補というか前線指揮官のエリートコース組。
また兵卒上がりの叩き上げ下士官が奇跡的昇進――特別に高等軍事教育を受けて再任官後、退役前にたどりつけるかギリギリのレベル。
・大隊:battalionで意味は、大隊……まんまですな。人数は五百人前後で二つ以上六個未満の中隊により構成される。増強大隊や独立大隊などは千人近くの場合も。
もっとも有名なのはあの”最後の大隊”ラストバタリオンだろう。
指揮官は少佐か中佐。
各中隊を指揮する尉官を幹部に、前線で主人公が暴れるならこの単位が限界といえる。
あ、これ一応創作のためのメモですから主人公が無双できる限界は大事。
ほら、最近アニメになってる幼○戦記のあの方(中身サラリーマン)も大隊率いて暴れてますし。
増強大隊や独立大隊を除く通常の大隊は連隊の一部として動きます。というか小隊も中隊も大隊も連隊の下でないと継続戦闘能力を維持できません。補給大事。
・連隊:regimeで意味は、支配や行政管区。人数は千五百人から三千人。三個以上の大隊で組織される単位。
連隊はこれまでの軍組織単位と異なり駐屯地や兵営など固有の拠点を有する。
というか小隊から大隊までは連隊に所属することで拠点にいるというべきか。
これにより兵站や給与、時代によっては徴兵までしていた。
単独で完結可能な継続的軍事行動が取れる最小の軍事単位である。
例えば大隊以下では炊事や書記などはいても専用の輜重隊などは有していない。
連隊旗なども単独軍事行動可能な独立性を示すためのものではないかと考えている。
指揮官は大佐。彼らは時代地域によっては将軍を除く最高軍事階級であった。
個人的な意見だが徴税権などを保有してた騎士団も一部の例外を除いて最大でこの規模だろう。
*その例外であるドイツ騎士団は、タンネンベルクの戦いで三万人近くの兵力を動員している(ただしこのドイツ騎士団はドイツ騎士団領邦を有する実質的に国家である)。
ここまでが中世風ファンタジー世界で個人の主人公があれやこれやと内部で動ける限界だと思う。
これ以後の軍単位は、なんというか領主とか爵位持ちの貴族様でも個人で維持不可能な規模。近代戦の国家総力戦から生まれてきたものが多い。
もし登場しても鉄道や機械化部隊が出てくる第一次第二次大戦をモチーフにした戦略ゲームのような作品だろう。
追記:中世欧州の領主は二千~三千人の軍を起こすのにも苦労したらしい。自弁で賄うにしても食糧が無くなった瞬間軍は瓦解するからだ。
追記:連隊規模の兵力を募兵(徴兵ではなく希望者を募る場合)した場合、準備金目当てに同じ人物が何度も募兵に応えたり準備金だけ持ち逃げしたりと募兵した人数の一割二割は最初から消える(存在しない)ことがあった。ついでに戦場への移動中の脱走で更に一割二割減ることも。実際に戦うまでに兵力が半減なんて笑い話もある。
・旅団:Brigade(争いを意味する)二個連隊(場合によっては一個連隊……それって連隊じゃね?と思うのは私だけだろうか)。千五百名から六千名からなる。大佐から少将が指揮官。
連隊が拠点持ちならこちらは遠征するのに十分な輜重部隊を含む遠征規模単位といえる。
豆知識だがよく訓練された精強な軍隊の進軍速度は平地で一日24キロメートルほどらしい。
しかし実際はこの速度で移動するには、
・徹底的に行軍訓練を施された軍
・十分な幅の均された道
・人数の上限
などが必要なのだ。
例えば装備一式背負った兵士一万人が一列で歩くと二人で一メートルとして、千人だと五百メートルの、一万人だと五千メートルの長さとなる。時間にして全員が行軍状態になるのに二、三時間はかかるだろう。
これに移動中の昼食休憩や目的地での野営準備なども加わる。特に後者は日が落ちる前にしなければならない。
うん、貧弱な道路状況で一万とかの軍勢動かすと一日で隣村にすらたどり着けません。
連隊が個人で維持できる軍隊の限界とか書いたが、対するにこちらの旅団は貧弱な道路状況で動ける限界と言える。
これ以上は道路造ってから進撃というか道路や鉄道を引きながら進軍する軍隊。
下記の師団でも書くが旅団やら師団やら軍団は軍組織の拡大に伴って生まれる。それまで一人の指揮官が歩兵や騎兵へ直接伝令飛ばして一々動かしていたのでは間に合わない段階へ争いが進んだというか戦域が広がってしまったのだ。早い話が自己判断が出来る部下に歩兵と騎兵の一括運用権を投げたとも。
蛇足:え? 『豊○秀吉が四万の軍隊を一日七十キロメートル行軍させてる?』ははは、そんな異世界転生召喚チート軍隊なんて……いたよ???!!!
・師団:Division意味は分割。複数の旅団や連隊含む最小戦略単位。よく十個師団とか三個師団とか言うあれである。二個から四個連隊及び輜重部隊を含む一万人から二万人の規模。
指揮官は、師団長で大佐から中将まで。
この師団という概念は欧州で軍隊が大規模化した結果、柔軟性というか運用性が低下し生まれた(中国では昔からあった。ただし古代中国の”旅”は五百人で”師”は二千五百人)。
十万超えるような軍隊(というか軍団)をそれまでの旅団で分けると旅団長が百人も必要になる。百人の旅団長を将軍一人で指揮するのは無線も無い時代現実的でない。混乱するだけだけだ。
という訳で師団という編成を創ったのだ(まあ、兵の数に対する士官不足や等の別原因もある)。
なお創ったのは(正式採用したのは)ナポレオン……さすが英雄は違う。
追記①:旅団が道なき道を進み、下記の軍団が整備された街道を進むなら師団は道があれば進める軍隊である。
追記②:大隊が一種兵の軍隊、連隊は自己完結した軍隊、旅団が遠征可能な軍隊とするならば師団は何でもできる軍隊である。
師団には、歩兵連隊で構成された旅団や砲兵部隊に騎兵連隊などなどあらゆる兵科の部隊が師団内に存在している。他の師団に協力を仰がなくても単独であらゆる局面に対応出来てしまうのだ。
追記②の補足:何でも出来る軍隊=師団と書いといてなんだが例外もある。独立混成旅団なるミニ師団みたいな旅団が存在するからだ。この独立混成旅団は、通常の歩兵旅団に他の兵科(騎兵や砲兵など)を配属した旅団である。
いや、師団って道があれば進めるし補給も出来てどんな状況でも対処してくれて安心なのだが……小回りが効かないのだ(何せ一万人以上)。弱い敵に差し向けるには師団だと過大なので旅団で済ませたいけど歩兵だけじゃ不安――そんなところに便利な独立混成旅団(多くて五、六千人)。当社比50%オフと大人気だったりする。
・軍団:複数の師団を含む。指揮官が軍司令官。中将。二万人から十万人。ここらへんからは軍隊の規模が膨れ上がった近代以降に出てきた概念(旅団や師団は名前だけなら一応中国王朝にあった)。
よく整備された街道で進軍できる限界点。
ファンタジーで王様が全軍を指揮して決戦云々をするのもここらが限界。
これ以上の軍勢を移動させるならどうやっても移動や補給が滞る。となると軍勢を分けて別ルートで移動しなければならなくなり別働隊=別の軍団となるわけだ。
・方面軍:複数の軍団を含む。方面軍司令官で大将が指揮官。五万人から~数十万人まで。
・総軍:複数の方面軍を統括一つの戦域を統括する。なおあの関東軍はこの総軍である。五十万人以上~権限でかし。
麦が主食の中世風ファンタジー世界で師団以上の軍単位は国民皆兵制などの市民軍や国民軍が導入されないと出番は無いでしょうね。
まず国家の人口がそこまで至らない。国力のネタでも書きましたが、普通の中世国家の軍人の数は全国民の1~2%が精々です。
大規模な戦いでも片方が二万から三万で両軍合わせて十万超えるのは稀……といいますかほぼ無い。
まあ、古代の男子は全員戦えるとか、母体になる国民が多いとかだと軍が百万人とかいっちゃいますが。
小ネタ:先天的に”怪力”や”熱線”などの天賦の才=ギフトが与えられる異世界。
戦争では百人力のギフト持ちはバタリオン級やカンパニー級と呼称されたった一人の戦闘部隊として扱われる。
階級も最初から佐官=ベテラン騎士と同等(あーこれ鋼の錬○術師であったな)。
……補給が最小限で済む一万人力の個人って存在そのものが軍隊の敵です(理由は後述の補給をお読みいただければ)。
追記③
軍隊の編成がイメージしにくいなら小中学校などで考えれば良い。
各クラスで30~40人で一個小隊
一学年四クラスから六クラスとして最小120~最大240人ほどで一個中隊
学校全体で最小360(30人が4クラス三学年)から最大規模で1440(40人が6クラス六学年)で一個大隊
連隊なら小中高一貫校と考え十二学年で1440~2880人以上……上で書いている数字とは微妙に違うが組織として見てもらいたい。
『神聖な学び舎を軍隊に例えるな』と有識者のツッコミがきそうだが理由はある。
どっかの連隊拠点に『迅速に徒歩で集結可能な範囲』の戦える男子十代後半から三十代前半(つまり二十年代分)集めりゃ同じく学校に『短時間で徒歩で通う生徒』の男女七歳から十八歳(つまり約十年代分)と似てくるのは当然なのだ。
短期間でどこかの拠点に集まる場合、近代の人口密度でも集結可能な兵力は上限があるというリアル。
人口100人以下の村々から数名ずつ兵士を集めて町で合流し更に大きな街で集結、とかやってた中世の大らかなことよ、軍の編成に数ヶ月かかるのも頷ける(集まるだけでもハードルが高い)。
ねっ? 連隊規模以上は中央集権国家が総力戦しないと維持できないのも分かるでしょ? 兵力集結の壁、指揮官不足の壁、移動能力の壁といろいろあります(他人事)。
○軍組織の補給
軍隊における実際に戦える兵士の割合は兵制や本拠地から戦場までの距離及び道路状況により変わります。
それは補給の手間が原因。
・防衛及び迎撃
本拠地での防衛戦や徒歩数日の距離での迎撃戦であれば兵士に『三日分の食料を持参せよ』と命ずれば補給の手間が大きく減ります。
実質、軍の総数=戦闘部隊の人数となるでしょう(まあ、本当は陣を作ったりする人足がいたりするんですけどね)。
自身の勢力圏内での戦いは補給の負担が少ないです(周囲から掻き集めやすい)。
・遠征
問題はこちら。
百万の軍勢による大遠征……圧倒的兵力による完全勝利。軍を率いる者にとって理想といえますがまず不可能です。
例えば一万人の遠征軍勢を維持するだけでも最低でも同数以上つまり一万人の支援要員がいるといわれています。
支援要員多過ぎと思うでしょう? 本当にこれぐらい必要なんです。
戦闘部隊一万人分の食料だけで毎日荷馬車十台、軍馬の飼葉はまた別。輸送部隊の食糧も必要。
これ凄く恐ろしいことなんです。
以下は極端な理論。
食料のある地点から戦場までが一日の距離ならば、戦闘部隊の食料一日分と補給部隊一日分の食料が必要になります。
食料のある地点から戦場までが二日ならば、戦闘部隊の食料二日分と補給部隊二日分と一日分の四倍必要になります。
これが三日となれば戦闘部隊の食料三日分と補給部隊の食料三日分で一日分の六倍……補給部隊は戦闘部隊と自身の腹を満たすために負担がどんどんふくれあがります。
しかもこれ片道分しか考えていません。継続的に本拠地と戦場を補給部隊が往復するような状況で戦場まで十日かかるなら戦闘部隊に一日分の食料を運ぶために、補給部隊の往復二十日分の食料と荷馬の飼葉が必要になります。
百万の軍隊? 大遠征? 海上輸送や鉄道輸送がなければまず瓦解します。
ファンタジーな世界で数万以上の軍隊動かしたいなら瞬間移動で莫大な食料運べる大魔法使いが必要でしょう。
現地調達とかは、万単位の軍勢だと村を幾つ滅ぼしても一日分にもならないです。
陸上戦だけ考えるならば街道整備と荷馬車の組織的運用などをしても十万の軍隊(半分補給部隊)が遠征軍としては限界だったと思います。
追記:では無理してまともな道もないのに師団や軍団(数万から十万)を投入すると……戦わずに壊滅します。
実例を上げますと某国が三個師団九万人以上で山岳河川地帯突破を計画し、補給できずに一万ほどをのこして全滅しました。ちなみに死者の半数以上は餓死と病死。つまり食料と医薬品不足による実質自滅。
あ、海岸沿いに移動して大船団が補給してくれたら百万の軍を夢見れるかも。
小ネタ:ヨワイ王国に、ツヨイ帝国から百万の軍勢が攻めてきた。兵力差は百倍。しかしヨワイ王国は諦めません。徹底的な焦土戦術、補給路へのゲリラ戦術、海賊をけしかけて海上輸送も妨害してやりましょう。
「我らは敵の胃袋を攻めるのだ」を合言葉に矢の一本も放つことなく自国を勝利に導け。