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第4話 図書館

 学校の近くから、こちらもひと駅、それですぐに図書館につくことができる。

 平たい建物に、レンガやタイル張りの床が入口まで続き、分厚い絨毯に守られた室内と、暖かい電灯の光景。

 それから、いたるところに並べられた、本、本、本の山。

 木枠のきれいな棚に整然と並べられている。

 そしてどこか懐かしいようなほのかな黴の臭い。

 ここには来るたびに、ほんわかした空気が漂い、土日なんかによると、一日中のんびりと過ごすことができる。


 ここはなぜか、人気がいつもない割には、書籍は充実している。

 今度はフロア内のスペースを一部博物館のようなゾーンにするようで、妙に気合いが入っている。


 それに先駆けて、スペースの一画にはクジラの小展示をやるようだ。

 けど残念ながらまだ、開催はされていなかった。

 展示はしばらく先で、僕の勘違いのようだ。


 そんなわけで僕らは図書館までやってきた。


 あかりはまだ着いていないのだろうか、ほとんど人気のない玄関をくぐると、クラスメートの和志が出てくるのにばったり遭遇した。


 なんだ、青か。


 いつも通りに落ち着く低音の声

 和志は僕のやっているバンドのリーダーだ

 昔、家族でオーストラリアに旅行に行き、ホエールウォッチングをしたことがあるらしい。僕がその時のことを尋ね、クジラと会話できないかなって聞いたときにも。


「確かに行ったことはあるな、でもクジラって声でコミュニケーションするのか?

意思を音で表現するんじゃなくて全身で何か動いて表現するような感じだったぜ」

 和志はいつも通り淡々と、こんな変な質問にも答えてくれた。


 他のメンバーにはボカロのことは言えなかったけど、こいつだけには少し話したことがある。その時は肯定するわけでも否定するわけでもなく、そういうのもあるのか、と言っただけだった。

 和志は、いつも冷静だ。いつも同じリズムを、一定に刻み続けるかのように、どんな物事も淡々と処理してしまう。


 帰り際に和志は、なあ青とさらりと声をかけてきた。

 たまには部活にも顔を出せよ、最近付き合い悪いぞと。僕の方を見もせずに言った。大事な用ならしょうがないけどな、と一言言い残して。

 あかりと遊んでばかりのことも、和志にはばれてしまっているのかもしれない。


 図書館の中でしばらく待っていると、あかりはすぐに現れた。


「おまたせ!」

 いつも通りの明るい声。

 ほとんど誰もいない図書館の中を、あちこちさまよった。

 動物?専門書?クジラ、クジラ。

 あれかなあ?背伸びしてあかりが上にある本を取ろうとする。

 無意味にピョンピョンはねているのを見かねて、上にある本を取ってあげる。


 そんなことを繰り返しながら、特にいい情報はなかったけれど、取り敢えずは随分とクジラに詳しくなれた。


 あかりはもっぱら、イルカやシャチの絵を見て可愛いねえ、可愛いねえとつぶやいているだけではあったけれど。


 クジラの分類は思っていたより単純なようだ。

 ハクジラとヒゲクジラって言うのに大きく分けられていて、歯があるか鬚があるかの違いらしい。


 ハクジラ類にはマッコウクジラ、シャチとかでかいのもいるけれど、比較的小型で

一方ヒゲクジラ類には、シロナガスクジラとかザトウクジラのようにほとんどが大型のようだ。

 細かい種類までは分からないけど、原っぱの飛んでいるやつは、こっちのヒゲクジラに近い気がした。


 クジラが噴水みたいな蒸気を上げたり、ダイナミックに水面から飛び跳ね、大空を仰いだりするのはなぜだろう?


 時折、大地震の予兆のごとく浜辺に狂ったかのように打ち上げられる大量のクジラ

外国の小さな島には107頭ものクジラが打ち上げられたこともあるらしい。


 僕の住んでいる町から、少し離れた海沿いの場所でも外国に震災が起こる予兆のように多数のクジラの死骸がみつかったとのこと。何か関係があるのだろうか。


 クジラはどうして、まだ幽霊のままなのだろう?

 なにかを思い残したまま死んでいったのだろうか?


「クジラがしゃべってくれれば、すぐに分かるのにね」

 あかりが無邪気にそう言った。

「そうだけど、そんなにはうまくいかないよ」

「そうだけど、そうだけど、そんなことはないだろう・・・・・・」

「犬とか猫がしゃべる機械なら、前にあったよね」

「ああバゥリンガルとかミャァウリンガルとか、犬や猫の声を解析するやつだろ

たしかスマホ版も最近出ていたなあ・・・」

 クジラのことばかり考えるのに疲れて、僕は自分のスマホで、アプリを探してみた。


 検索してみると犬用、バゥリンガルのアプリはすぐに見つかった。

 クジラバージョンもあればよかったのだけど、さすがにそんな物はなかった。


 とりあえずアプリはダウンロードして、その辺の犬の鳴き声を、変換して遊びながら僕らは図書館を後にした。静かな午後の空気がそこら中に満ちている。


 帰り際に、獰猛で今にも飛びかかってきそうな犬がいた。

 さかんに吠えて、僕らを威嚇してくるようだったけど、スマホを向けて声を録音し てみると。僕のスマホの画面には

「お手てつないでほしいな」とボタンを押すことで可愛い文字が流れ、なんだか和んだ。

 バゥリンガルアプリは犬の声を録音して瞬時に解析、文字に変換してくれる。

 犬の反応が気になるのか、横からあかりがさかんに僕のスマホを覗き込んでくる。


 収穫はあまりなかったけれど、あかりは犬の言葉が分かって、なんだかちょっと嬉しそうだった。

 クジラのことについて進展があまりなく、ちょっと元気がなかったから。僕も喜ぶ姿を見てなんだかほっとした。けどあのクジラを早く何とかしてあげたい。


 適当に犬とじゃれあいながら、ダウンロードついでにアプリの仕組みも説明されていたので、僕はそれをつらつらと読んでみた。なんとなく僕がいつも作曲に使っているソフトと仕組みが似ている気がする。


 これはもしかしたら・・・・・・!!


「あかり!!もしかしたら、あのクジラの言いたいことが分かるかもしれない!!」

ないものは作ればいい

「ほんと!?!」

 あかりが目を輝かせた。

「クジラ救出大作戦2号だね!!」

 がんばるよ・・・・・・


その晩家に帰ると、僕は大量に色々調べ物をして構想を練った。


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