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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

柘榴の足枷

作者: 樫居 匡

雰囲気で同性愛表現が含まれます。あくまで雰囲気ですが、苦手な方はご遠慮下さい。


馬鹿みたい。飾り気の無い言葉と、ぷか、と吐き出された紫煙に眉を顰めた。煙草は嫌いだって言ったのに。馬鹿みたい。反芻して咀嚼する、それに味はなかった。馬鹿みたい。咄嗟に返せるほどの技量はなくて、ただ両の足をぶら、と宙に浮かせる。貧相な語彙の中からぼんやりと言葉を探す私も、私こそ、それはもう馬鹿みたいに映るのだろう。溜息が無意識に転がり落ちた。それを拾うことも出来ずに、透き通るグラスの中の不健康な色合いの液体を見つめる。甘い甜いお酒。その清々しいまでの原色は、余りにも私に似つかわしくない。くる、と微かに円を描くようにグラスを揺らせば、浮かんでいた私の輪郭も解けていった。ゆらゆら、ぐるぐる。いっそ酔ってしまいそうだ。否、酔ってしまえたら楽なのだろう。ゆらゆら、ぐるぐる。ついでのように否定の言葉を吐けば、また紫煙が吐き出された。ぼろ、と燻って崩れ落ちるその灰を尻目に、液体を飲み込んだ。

「…馬鹿じゃないの」

心外だなぁ。それもまた流し込む。数十cmの距離で、彼女の赤い爪がグラスを傾けた。この色も原色。痛いほどの赤。どことなく妖艶なその仕草にそっぽを向いた。あまりにも違いすぎる。私とは。手に持て余す劣等感と、奥底にふつふつと湧き出す黒い感情。見慣れた、見飽きた、この色には裏腹に安心感をも覚える。けれど、今はそれを見ないふりをする。一種の同属嫌悪。目に焼き付いた原色と、目を逸らした黒とが混ざりあって吐き気がする。かき消すように手元のグラスを呷って、後悔。反射のように涙が滲む。仄かな酔いの所為で枷を失った、押し寄せてくる余りにも理不尽で膨大な感情に眩暈すら感じる。押し殺した声は、届かない。届かない。誰にも、私にも。だって、遠すぎる。私にとって貴方は、貴方にとって私は。或いは、私にとっての私でさえも。それでも、と言葉にしようとした先は、見つからなかった。否、そこにある筈なのに、あると言い張るには頼り無さすぎたのだ。投げかけられた先刻の言葉がじくじくと痛むのだということを、その時にやっと気がついた。それはどうしようもない失策だ。突き放されたということを、嫌が応でも理解する。理解しなければならなかった。脳が思考を止めようとする、そんな私を投げやりに一瞥して、彼女は席を立った。引き止めない。引き止める資格もない。理由なら、掃いて捨てるほどあると云うのに。

からりと軽快な音を立てるベルとは見事なまでに反比例するそれを持て余す。残されたのは些か多い代金と燃え尽きた煙草、それとどうしようもない私だけだ。ぽっかりと空いてしまったその片隅で、見惚れるほど似合うそのヒールを撃ち抜いてしまいたい、そう思うくらいには、


…愛しいのに。



お久し振りです。樫居です。考査期間の現実逃避に、少し前に少し書いてあったものを引っ張り出して捏ねていたら出来ました。

今回は背伸びをして書きました。いろいろと部誌に提出するのが個人的に憚られた(短いし)ので、こちらで供養します。読んでくださった方、ありがとうございました。

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