レアン、果てなしの森にて
レアン・ストドレアン・ディートリッヒです。
ストドレアンはすっとこどとこいレアンをもじりました。
さあ、すっとこどとこいなレアンをご覧あれ。
レアン・ストドレアン・ディートリッヒの母は魔女だ。純情な、魔女だった。恋に恋する自称十代の無垢な乙女だった。確かに恋に恋する無垢さはあったが、十代では決してなかった。
ステータスでいえば、ちからと体力以外がすべて“マックス、良くできました。”である凄腕の魔女。偏りのない、ほぼパーフェクツな魔女――ただし、その経歴に難あり。
今ではいろんな意味合いですれて、ちゃっちゃと人間の騎士と恋仲になって、息子を産んだけれども。
そんな魔女、初恋の君の娘に、やけっぱちでかけちゃったー★ 的なノリでかけた呪いを忘れてしまっていたのだ。
過去の黒歴史を忘れてしまうくらい、それだけいまが幸せだった。
誰にだって、黒歴史はあるだろう。魔女の場合、それは『女たらしの馬鹿王にたらされた』である。
当時、魔女が正真正銘見た目イコール年齢のうら若き乙女だった頃、彼女は“当時の彼女的に”運命の出会いを果たした。その運命は恋とか愛とかの名前が頭につく運命だ。
けれども、今の魔女的には“あり得ない、頭がお花畑だった頃の封印してしまいたい”運命の話だ。
だから、今は完全に隙間なく蓋をして、鎖で雁字絡めにして、ちょっとした衝撃で開いてしまわないように、さらに布でぐるんぐるんに巻いて金庫に閉まった記憶。
――なのに、開いてしまった。
魔女の白昼のもとに曝されたくない黒歴史を、いとも簡単に開いてしまったのは、よりによって魔女の息子だった。せっかく得た幸せの一部である息子が、彼女の黒歴史を暴いたのだ。
魔女の幼い息子は、魔女の息子だというのに魔法の才は中の中だった。しかし魔女の息子故か、魔力が半端なかった。
魔女の息子は、ある日見つけたのだ。魔力のある幼児が通う魔法幼稚園の遠足で、果てなしの森の手前の魔法運動公園に遊びにいったときに。果てなしの森の方角から、毎日接している己の母の魔力の臭いの残り香が漂ってくるのを。
――息子は、ピンと来た。
魔女の息子なのに、魔法の才は飛び抜けていないけれど、魔女の息子だからこそ、彼は人として規格外の魔力保持者故に、直感でわかった、わかってしまった。
母の魔力の残り香が――だいたい五百年くらい前に呪いに使用された魔力で、その呪いはどんな呪いで、どんな相手にかけられて、五百年も昔の魔力の残滓がまだあるということが、どういうことをさすのか。
魔女の息子は、遠足から帰って母に突撃した。子供特有の質問攻撃、何で何で? で精神攻撃を仕掛けたのだ。とても今の残念っぷりからは想像できないカンの良さである。
――そして、母の魔女の黒歴史は暴かれた。
★★★★★★★★★
暴かれまくった母は、息子に叫んだ。顔を真っ赤にして。
「欲しいのなら、力づくで手に入れな!」
母の黒歴史を隅から隅まで暴き、母を「馬鹿息子ぉお!」と嘆かせた幼い魔女の息子は、決意した。
「強くなるんだ」
――強くなって、お姫さまを救い出すんだ、と。
魔女の息子は、塔にて救いの王子さま(何か違う)を待つ、まだ顔も見たことのないお姫さまに惚れたのでした。
囚われの姫君。王子を待つ姫君。呪いをかけられ、解放相手を待つ姫君。
――ああ、何てロマンチック!
と、幼いレアンは夢に見たのだ。もし、自分が助け出せたら? もし、自分が王子になれたら――砂糖を吐くぐらい甘ったるいイチャラブをして、互いが互いを欲してやまない両親みたいに、自分を必要としてくれるだろうか?
幼いレアンは妄想した。可愛らしい姫君(妄想)が、自分だけを求める。
――何て、何ていい未来。
この日、間違った方向に修練する魔女の息子の将来の残念さが決まった。
力づくで囚われの姫を手に入れるため――本当に意味を理解しているのか、怪しいところである――彼の間違った努力が始まる。
レアン・ストドレアン・ディートリッヒ
種族:人間(魔女の息子)
ジョブ:魔法使い見習い//母を脅す息子
レベル:5
素早さ:5
賢さ:彼女が関わると冴え渡るかもしれません
ちから:未知数……ちからは愛を救いませんが、救えると勘違いしています。父親が脳筋だからでしょう。
体力:5
魔力:無尽蔵、人としておかしいでしょう。垂れ流していて勿体無いでしょう。
技力:マイナス一億……壊滅的でしょう。ときには諦めも肝心です。