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髪長姫の心中




 ――遠い遠い昔、ざっと五百と二年近く前、女たらしの王がいた。

 あっちのお姫さま、こっちの貴族令嬢、そっちの人妻、それはそれはいろんな女性を手取り足取り――いや、手あたり次第手を出しまくったとか。

 そして、自業自得なことに、ついに女たらしの王は呪いをうけた。

 彼を呪ったのは、魔女。

 バカな王は、魔女を振った。だから呪われた。責任とれ、バカ王。

 魔女は正妃の腹の子を呪った。魔女はアホの王を愛していたから、王を呪わず、迷わずに王の子を呪った。だから正確には、王の子がとばっちりで呪いをうけた。

 正妃が産んだ王の子は女の子だった。第一王女だった。

 しかし――その子の髪を掴んで会いに来るまで、ダンジョンにて不老のまま髪がひたすら伸び続ける呪いをかけられた第一王女は、十五で成人したまま不老になり、迫害をおそれ果ての森にこもった。

 以降、果ての森は『果てなしの森のダンジョン』となり、呪いは解かれることがないまま、五百年が経過した。

 ――第一王女は、アホの父王のせいで、今日もダンジョンにて、呪いを解いてくれる相手を待っている。

 今日も、明日も。待ち続けて五百年と三百四十五日。彼女はすでに五百と十五歳を迎えた。もはや故国はとうに滅び、大国に併呑され歴史のなかに消えていった。

 果てなしの森も、五百年もの長い時間の合間に、いつしかダンジョンと化した。そして、彼女はいつのまにやらラスボスといわれてていた。誰がラスボスだ、と彼女は呆れたが――まあいいやと思う。

 それだけの長い時間が過ぎのだ。それでも、髪長姫は今日も待つ。自分の故国がなくなり、自分を知る人がいなくなり、自分を知るのはただ番スライムだけであっても。

 魔女だって、忘れているではないか……魔女が残した番スライムが、途方もないくらいに成長しても、放置したまま。スライムが突然変異並みにここまで成長したのなら、通常なら回収するだろうに……覚えていたなら。

 だって、ここはもはやダンジョン。番スライムがいなくても、呪いを解くものから彼女を会えないように妨げる輩はいないのだから。

 最早、このダンジョンを訪れるのは、ラスボスを倒す目的の冒険者だけ。誰も、呪いをうけたお姫様を救いにはこようとしない――誰も、覚えていないのだから。

 なのに、なのに。

 彼女が初めて彼を見たのは、いつだったか。

 五百年あまり、果てなしの森にはたくさんの人が来た。それが皆、冒険者だった。

 ――だれでもいいから、さっさと来やがれ。

 そう、思っていた。

 けれども、今まで訪れていた冒険者とは全く違う彼を見て、少し観察してみようと思った。

 探索許可が降りないだろう弱さで彼はダンジョンへやって来た。もちろん、探索許可が降りないくらいに彼は弱かったから、不法(?)侵入だった。

 不法(?)侵入するたびに、彼はめきめき強くなっていった。しかも普通に正規手段――ギルドに許可得ないといけない。果てなしの森は、普通の一般民が訪れるには危険極まりない場所であるから――ダンジョンを訪れなかった彼は、普通ではあり得ない戦法をとった。

 まるでゴキ○リのように素早く動き、中級魔法を放てば何故か威力が何ランクも上の魔法になり、そして魔法はそこそこに殴打しまくる。


 ――あんた、魔法使いよね、何で殴るの、馬鹿なの?


 髪長姫は、いつのまにか釘つけになっていた。お馬鹿な彼から目が離せなかった。

 自分を呪いから解放することが目的ではない彼。おそらく高確率で、ラスボスを倒すことが目的であろう彼。


 ――でも、あいつなら。


 今日も、金の髪を振り回し、大空を飛ぶ獲物に向かって伸びゆく毛先をドリルにして、矢のように飛ばして、油がのって美味い鳥型のモンスターの体を射抜き仕留めながら――ちらっ、と髪長姫はそう考えた。


 ――あいつなら、目的が違っても、呪いを解かせてもいいかな。


 毛先でフライパンを巧みに操り、別の毛先で釣り餌もなしに魚型のモンスターを釣り上げ、別の毛先で包丁を操り、別の毛先で皿を用意しながら、髪長姫は考えた。


 ――でも、いつになったら来るんだ?


 毛先でモンスターの捕獲ならびに解体〜調理までの全工程を終えた髪長姫は、さみしい食卓を見た。

 長い、長すぎる五百年に及ぶ独り暮らし。することといえば、ごはんの材料を髪で狩って、捕ること。髪で調理してみたり、髪でブランコしてみたり、髪でモンスターとバトルしたり、髪で………すべて、ひとり。隣には誰もいない。今も、いない。

 髪長姫は、ふと考え付く。


 ――これからも、ひとりで?


 髪長姫は、強い。髪長姫は、ひとりでも生きていける。でも、ひとりで?


 ――寂しくない?


 冒険者たちは、いつもイチャイチャしている。自分よりずっと弱く、自分よりずっと若い彼らには、隣にたつ存在がいるではないか。

 でも、髪長姫には……いない。おそらく、髪長姫みずからアクションをおこさない限り、ずっと髪長姫は、ひとりぼっち。


 ――それは嫌だ。


 髪長姫は、考えた。熟考してみた。


「あ、髪で捕まえたらいいのか」


 彼女の髪を掴む誰かを、捕まえにいけばいい。

 ――鱗が落ちた瞬間であった。

 今日初めて、髪長姫はラスボス的発想で外へ出た。




きっと、髪長姫のステータスはこんな感じ。



髪長姫//状態:状態異常“呪い”保持。呪いにより、不老不死。呪いが解けるまで呪いは続く。

 レベル:マックス

 素早さ:マックス

 ちから:肉体的ちからはA、髪のちからは神さま並み

 体力:マックス。髪の体力は神さま並み

 魔力:髪にすべて宿っています

 賢さ:マックス。苦労しました

 魅力:髪が素晴らしいでしょう。

 称号:髪技の達人//サバイバル(髪での)神様並み



……太刀打ちできるの、レアン?




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