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髪長姫は今日も髪を垂らす

これは同タイトルの短編の連載版です。一話目は短編と同じです。



 そこは、広大すぎる果て無し森。

 そこは、果て無し森の中を蠢き動く湖。

 そこは、動く湖の真ん中ののっぽの塔。

 そこは――果て無し森というダンジョン。

 果て無し森のダンジョンは、ある程度の強さがなければ、探索許可の降りない強者向けの複合型ダンジョン。

 どこまでも広がり続ける果て無し森を攻略するには、まず冒険者ランクでいえばAランクをこえる強さでなくてはならない。

 そんな果て無し森の中には、蠢き動く湖という名を持つモンスターがいる。蠢き動く湖は、大きな大きなジェル状の側面に、頭頂が液体と化した大きな大きなスライムだ。

 蠢き動く湖は、果て無し森ののっぽの塔を守る番犬ならぬ番スライム。こののっぽの塔には、果て無し森のラスボスが住んでいるという。

 古くからあり、いつからあるかわからない果て無し森。だから、みんなみんなダンジョンの主――ラスボスの真の正体を知らない。誰も彼もが、ラスボスのいる塔に到着する前に、塔の番犬ならぬ番スライムである蠢き動く湖の餌食になるのだから。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



「ここが、果て無し森」


 今日もそのダンジョンでは、今日もこのダンジョンを制覇せんとする無謀者が、いつものように訪れて、


「ぎゃあ」


 今日も、無謀者のひとりである彼は、蠢き動く湖まで到達することなく、他の数多の無謀者と同じように、ダンジョンを後に――


「こにゃちくしょおお!」


 ――しなかった。

 そんな無謀なる勇気ある命知らずの名前は、レアン・ディートリッヒ。

 彼のステータスをさらっと覗いてみよう。


<<<(( ̄_|


 レアン・ストドレアン・ディートリッヒ

 種族:人間

 ジョブ:魔法使い

 レベル:80

 冒険者:ランクB

 素早さ:マックス、良くできました。

 賢さ:D……成人男性平均以下、努力しましょう。

 ちから:S……怪力自慢をして喧嘩を売られても勝てるでしょう。

 素早さ:マックス、良くできました。

 体力:C……ヘタレでドジでしょう。自分の足に躓かないように気を付けることに頑張りましょう。

 魔力:無尽蔵、人としておかしいでしょう。垂れ流していて勿体無いでしょう。

 運:今日のあなたは対モンスター遭遇率が良すぎるかも? でしょう。

 技力:E……スキルや魔法を放てばあら不思議、あり得ないコントロールで敵はおろか、味方であるパーティーでさえ巻き込むでしょう。ソロ向きでしょう。

<<<Σ(@Д@)



 見ての通り、レアン・ストドレアン・ディートリッヒという人間は偏りのある冒険者であり、他の冒険者たちの安全の為にも、ソロでしか活動できない(してほしくない)何ともいいがたい、何とも残念臭が漂う冒険者でもある。是非ともお近づきになりたくないものだ。

 そんなレアン・ストドレアン・ディートリッヒは、冒険者歴五年という、実は冒険者の世界ではひよこに毛が生えた程度でもあった。

 しかし、一気に五年で冒険者ランクBまでかけのぼった実力者だ。たとえ、他人を捲き込む技力の低さでも。

 そんな彼の得物は杖。彼は魔法使いだから、もちろん当たり前に、得物は杖。魔法の杖である。

 ダンジョンを進む彼の周囲に、自走型の樹木モンスターが多数現れた。彼は囲まれたのだ、自身の背丈よりも大きい巨木のモンスターに。

 だから、彼は杖を構えた。

 あるモンスターは、枝を鞭のようにしならせ、彼を攻撃せんと迫る。あるモンスターは、枝につけた爆発する実を投げ、彼を離れた場所から攻撃する。


「集え、火よ」


 ――例え、


「木々に襲い纏わせろ、緋の衣を!」


 ――魔法が爆発的な圧力で暴発し、中級魔法ではあり得ない破壊力を見せはじめても、


「おらあああああ!」


 彼は杖で殴る。

 そう、殴る。例え、自身の放った攻撃魔法が成果をあげていても。

 魔法の炎に燃えて逃げ惑うモンスターを、追いかけて殴る。もちろん、殴るだけの行為だ。ちょっぴり魔法で杖の耐久性をあげたり、ちょっぴり魔法で体力やちからを底あげまくったりするけれど。


「ぎゃあああ!」

「待て、逃げるなこにゃちくしょおお!」


 ――不届き者でもある彼は、迫り来たモンスターを、今日も逆に襲い返して殴る。

 ぶぅん、杖がうなる。

 ばこん、杖がヒット。

 ぎゃあ、彼が血塗れ。

 そして今日も彼は返り血を浴びる。

 杖で魔法を放てば暴発し、ワンランク上の魔法の威力に跳ねあがる。彼はそんな魔法を連発し、殴る。ときに反撃に遭い、血塗れになり、殴る。無駄にある魔力でヒールを連発して、彼は前へ進む。

 彼は何でここまでして、このダンジョンを進むのか。彼は何でここまでして、何回も何回も――すでに百度目――挑戦し、ランクを五年で一気にあげるほどまでに、何でここまでして挑戦し続けるのか。

 その理由を胸に秘め、今日も彼は……今日こそラスボスのもとにたどり着くために、前を進む。


「ひぎゃ!」

「邪魔だ、こにゃちくしょおお!」


 魔法ぶっぱなす→殴るの、何かを間違えている気がしないでもない戦闘法で。



★★★★★★★★★★



 そんな彼を鳥並みの有り得ない視力で視るものがひとり。

 ダンジョンのラスボスたる髪長姫は、今日も彼を見る。


「馬鹿?」


 今日も髪を垂らし、今日も彼を見つけて、今日も馬鹿だと溜め息を大量生産する。


「あれが、あたしの垂らした髪を登ってこれるのかしら……いいえ、登れるちからはあるけど、登れる日は来るのかしら?」


 いつの間にかいた、無謀者。いつの間にか強くなり、戦闘の数をこなしていく無謀者。いつの間にか、彼の衣服を赤く染めるのは、彼が流す血ではなく返り血になっていた。

 ――彼はいつの間にか強くなった。それでも、越えられない壁は存在するもの。彼は果たして蠢き動く湖をこえることができるのか。このダンジョンに、彼女を守るためだけに存在する魔女の見張りを。


「“いつか”は、いつ来るのかしらね?

“誰か”は、いつ来るのかしらね?」


 ――遠い昔、女たらしの王がいた。

 遠い昔、女たらしの王は呪いをうけた。魔女を振ったから。魔女は正妃の腹の子を呪った。魔女はアホの王を愛していたから、王を呪わず、迷わずに王の子を呪った。だから正確には、王の子がとばっちりで呪いをうけた。

 ――その子の髪を掴んで会いに来るまで、ダンジョンにて不老のまま髪がひたすら伸び続ける呪い。ただし、人間に限る。

 アホの父王のせいで、髪長姫は今日もダンジョンにて、呪いを解いてくれる相手を待つ。

 今日も、明日も。待ち続けて五百年と三百四十五日。いつのまにかダンジョンのラスボスといわれて、髪長姫は今日も待つ。

 ――だれでもいいから、さっさと来やがれとつぶやいて。


「はあ」


 今日も髪長姫は髪を垂らす。髪で蠢き動く湖に寄生した魚型モンスターを釣って、髪を振り回して空飛ぶ鳥型モンスターを捕獲して――髪長姫は今日も自由に動く髪で漁と猟をして、サバイバルしながら待つ。


「あ、髪で捕まえたらいいのか」


 彼女の髪を掴む誰かを、捕まえにいけばいい。

 今日初めて、髪長姫はラスボス的発想で外へ出た。



 ――彼女のお伽話が始まるのはすぐそこ。

 実は魔女の息子であり、一目見て惚れた彼女を欲しがる彼が「欲しいのなら力づくで手に入れろ」と母からいわれ、力づくで彼女のもとへ到達するのも、もう少し後の話。


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