表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エージェント山田君シリーズ

エージェント山田君 そのに!

作者: 柚科葉槻

「最後の最後で追いつかれるなんて、どうやらあたしも焼きが回ったようね」

 みなさんこんにちは、もしくは初めまして。二年二組に在籍しております佐藤です。

 今、私の前でクラスメイトの高橋さんが

「ちょっとさとさと、ちゃんと“親友の”って入れてよね!」

 ・・・・・・今、私の前でクラスメイトで親友の高橋さんが叫びました。

 私たちの前にはあるお方がいます。太く強靱な四肢に、ジャングルに紛れるのに最適な柄の体を持ったお方です。

「アンタに襲われるなんて冗談じゃないわ!!」

 私たち二人は食肉目ネコ科の哺乳類、動物園輸送中のトラさんと対峙中です。


**


 薫風香る五月。その月の二日、我が私立桐ヶ丘高等学校では市内の体育館を借りて“理事長杯争奪スポーツ大会”が開催されます。

 市民体育館は駅から学校方向へ坂を上り、さらに三十分ほど歩いた先にあります。

 この日は現地集合ということで、朝の清々しい空気を感じながら歩いていきます。

「やっほ~さとさと、おっはよう!」

 朝からハイテンションで高橋さんが私の背中を叩きました。バレー部でアタッカーをしている彼女の平手打ちは強力です。

「今日の大会どのクラスが優勝するかな? やっぱ去年みたいに一く、んん! あれは山田と……田中!」

 前を歩く山田君と田中君に気付いた高橋さんが言いました。さすが運動部、天然かわざとか大きな声で言っていたため、前方の二人その他が何事だと私たち二人に振り返りました。

 山田君は私たち、というか私に気付くと目にも留まらぬスピードで引き返してきました。まるでご主人様を見つけた大型犬のようです。彼の人なつっこそうな容姿から普通はゴールデンレトリバー辺りを想像するでしょうが、私は違います。彼のある一面を知っている私にはドーベルマンのように見えます。

 そんな山田君に対して田中君は少し照れたような表情でやってきます。そんな彼を見て隣の高橋さんは悶えてます。田中君は学校一の不良ですが、それに悶える高橋さんは女帝でしょうか。

 実は田中君と高橋さん、つい最近付き合い始めたんです。何でも春休み中ヤンキーにカツアゲされているおじさんを助けようとし数で(・・)負けそうになっていたところを、たまたま通りかかった田中君が助けてくれたということ。それから高橋さんの猛烈なアタックが始まり、先日陥落(おと)したのだといいます。

 この一件を聞いてから田中君の印象は大幅に上向き修正です。何ですかそのテンプレ不良属性は。

 ケンカは売られた分を買うだけだとか。見た目が硬派系不良の最前線ですのでよく売られるそうです。

 さてこのあつあつカップルからは少し距離を取りましょう。気温が一気に七月中旬並になり、暑いのですよ。まったく。

「時間的に余裕はないよお二人さん。話なら歩きながらね」

 さりげなく山田君が二人に声をかけました。確かにもう出発しなければ朝の点呼に遅れてしまいそうです。

 言われてはっとした二人は並んで歩き始めました。ちゃっかり手を繋いでみたり。ごちそうさまです。

 そして何故、山田君はちゃっかり私の極至近距離(となり)にいるのでしょうか。

「え、あの二人の邪魔なんてしたくないし、一人は寂しいし。ああ、近い? ごめんね」

 謝りながらも離れる気配はありません。むしろさらに近くなった気がします。無駄ににこやかなのは確信犯ですね。

 ため息を吐き、前、は見づらいので斜め前を見ました。

 今日も爽やかに○×組改め柄巻組組員の893さんたちは、街の清掃活動に精を出しています。


『“アンダーエンジェル”の名は伊達じゃない! またもや彼女のシュートが決まりました! すでに時間は残り三分を切っています。解説の藤堂さん、これはどう見ますか?』

『そうですねぇ。試合の流れは完全に二組が握っていますね。かなりの点差もありますし、巻き返すのはほぼ無理でしょうね』

 そんな放送席の会話を聞きながら、コート外から投げ高く上がった相手のパスを見ていました。取る気はありません。取れる気がしませんし。

 今行われているのはスポーツ大会二種目、クラス対抗バスケットボールです。体育館を三分割し学年ごとに行っています。一試合十五分、男女混合、バスケ部は一人までオーケー、ただし相手チームに初めから二点入る、という形式です。

 この学年うまいくらいにバスケ部レギュラーが各クラスに散らばっていて、唯一バスケ部のいない我が二組は圧倒的不利なんですよね。誰もが初戦敗退を予想していました。かくいう私もそれを見越してバスケにエントリーしました。全員強制参加の二人三脚リレーは別として、体育成績が下から数えた方が速い私にそのほかの競技は辛いのです。

 ほかのメンバーも特にバスケが得意という訳ではなく、皆とりあえず出ておこっかという雰囲気でした。

 その結果――――去年の同大会は学年優勝でした。またそのあと時間が余ったので他学年と余興(エキジビション)をしましたが、どちらも勝ってしまいました。

 学校全体開いた口が塞がりません。

 前説が長くなりましたが、ここら辺で二年二組バスケチーム、なんだか無駄に強いメンバーたちを紹介します。

 先ほど投げられた相手チームの高いパスを驚くべき跳躍力でカットしたのは“空の申し子(エリアルランナー)”の異名を持つ高橋さん。バレーで鍛えた跳躍力でこのようなパスカットはもちろん、ゲーム開始時のジャンプボール奪取、男顔負けのダンクシュートなどをしています。

「よぉうっし! また決まった!」

 また点が入ったようです。会場の沸き方が半端ないです。

 もう戦力を失っている相手チームですが、今度はなんとかパスを繋げました。

 ですがそのパスをもらった人の先にいるのは“反則じゃね?(レッドジョーカー)”田中君。百八十を超える身長、無駄な筋肉がなくガタイの良い身体、そして見た者を恐怖に陥れる鋭き眼光に、ボールを持っている男子生徒は思わず田中君にボールを渡しました。土下座せんばかりの勢いです。

「ほらよ」

 ボールをもらった田中君は近くにいた味方に投げ渡しました。“領域外の狙撃手(オーバーゾーン)”山田君です。

「さんきゅ~。はい佐藤さんッ」

 !!

 彼の持ち味はコートの端から端まで一気に届く高速パスです。その体感速度はメジャーリーグの剛腕投手の速球のよう。対戦したことはもちろんありません。

 とりあえず滅茶苦茶速いです。今まで誰もこのパスをカット出来た人はおりません。私が初めてパスをもらった時は、そのあまりの速さに全ての力を出し某狩りゲーの緊急回避をしたくらいです。火事場の糞力です。

 それからは反省したらしく、よくわからない回転をかけパス先の人の前で急ブレーキがかかるようになっています。

 そのパスを受け取った私、“ゴール下の点師(アンダーエンジェル)”です。名前の通り、常にゴール下にスタンバイし、パスで来たボールをゴールに入れるだけです。あのゴールを囲っている白い線にボールを当てれば大抵入るので、運動が苦手でもなんとか出来るんです。ただの動きたくないダメ人間です。すみません。

 もちろん今回も入れました。相手チームさんには悪いですが、ボールが来たのなら入れないといけないので。

 もう焼けくその相手チームさん。コート外から投げたパスの軌道は大きくぶれ、その先には誰もいません。

「――ボール(きみ)がここに来ることはわかっていたよ」

 いいえ、いました。二組最後のメンバーです。異名は“コートの管理者(ハウスキーパー)”森君です。

 森君の特技は観察。相手の動き視線を観察し、どう動くかを推測。そこから味方がどう動けばいいのかを導き出し、味方に指示します。いわば司令塔なんですが、その的中率はほぼ百パーセントであり、コート上の人間は皆彼の掌の上で弄ばれているのではないかという信仰まで出ています。そこから異名が来たみたいですね。

 森君がスリーポイントシュートを放ちました。ボールは一ミリの狂いもなくゴールへ吸い込まれます。と同時に鳴る試合終了の合図。止めの一撃(ブザービート)が決まり、会場はこれまでにない熱狂の仕方です。

『試合終了です! 得点は49対7、またまた二年二組の学年優勝が決まりました!!』

 この超人バスケは怖いです。


 バスケの試合が終わったところで私たちはやっと昼食に入れました。時間は十三時を回ったところで、お腹は盛大に鳴っています。

「外行こうよ外! もう出る種目ないし、ここ空気こもってて暑苦しいし」

 高橋さんに言われて市民体育館の外に出てきました。この市民体育館は外の設備として、テニスコートや陸上競技場、グラウンドなどがあります。植物も多く広場のようなところも数多くあるため市民の憩いの場にもなっています。

 私たちは体育館前の噴水広場を抜け、自然豊かなアスレチックエリアに入りました。普段なら幼い子供たちが遊んでいたりするのですが、今の時間帯はお昼寝をしに家に戻っているのでしょうか、人一人も見当たりません。

 適当なベンチに座り、お弁当を広げました。今日は食べやすいようにとおにぎりがメインです。具が鮭だとかたらこだとテンションが上がりますね。私だけですか?

「――んでさ、やっぱ田中は優しいの! 当たり前のように荷物持ってくれるし」

 のろけ乙です。どれだけ田中君をテンプレにすれは気が済みますか。

「最近暴漢(アホ)に襲われやすいんだけど、田中はすぐに来てくれるのよ。強くて優しいって最高じゃない?」

  もともと高橋さんは元気はつらつ系美少女でナンパされやすいのですが、最近は暴漢(アホ)まで来ると。まあ暴漢(アホ)に襲われやすいのは田中君のせいだと思いますがね。勝てない相手の大切な人(書いてるこっちが恥ずかしい)を人質にするのは常套手段です。十中八九負けフラグですが。

「それでさ、アンタと山田はどこまで行ったの?」

 恋は盲目とはよく言ったものです。大抵のことはプラスに考えられますから。

「ふふふ、誤魔化したって無駄よさとさと。このことについては周知の事実! どこまで行ったのか話しなさい!」

 どういうことだ! あいつか。山田(あいつ)が勝手なこと言いふらしてるのか。……失礼、口調が乱れました。

「え、違うパターン? 山田、一年のときからずっとアンタにアタックしてるし、最近前より仲良くなってるからてっきりアンタらも付き合い始めたんかと」

 違いますが。最近彼が良く寄って来るようになっただけです。席替えで席が前後になったこともありますし、よく一緒にいる高橋さんと私、田中君と山田君という組み合わせのうち、あなたと田中君が付き合い始めてこの二つのグループが結合したからより話す機会が増えただけです。

 それに先月のアレの記憶が一人だけ残ってます。向こうの私情で言いふらしたら消されるかもしれない情報を私は持っています。二人だけの秘密的な物は良くも悪くも作用するのですよ。

「んー、あまりにもクールに流されて山田が可哀そうだわ。よし、決めた! あたしは全力で山田を応援するわ! 田中にも言って二人で応援するわ!」

 外堀を埋められている気がするのは私だけですか。

 そこからまた高橋さんののろけが始まりました。恋バナは聞いてる分には楽しいです。のろけでも構いません。でも自分のことは論外です。何があろうと絶対に話したくありません。

 午後のひと時はとても穏やかでした。先ほどまでの超人バスケのコートに立っていたことが他人事のようです。

 お弁当を食べ終わりそろそろ戻ろうかとどちらからともなく声をかけた時、その穏やかな空気は打ち破られました。

『――只今動物園に輸送中のトラが脱走し、市内を徘徊中です。屋外にいる方はすぐに頑丈な建物へと避難して下さい。繰り返します。只今動物園へ輸送中のトラが脱走し、市内を徘徊中です。屋外にいる方は――』

 市役所からの市内放送が入りました。そういえばローカルテレビで近隣の市にある動物園にオスのトラが婿入りするとか言ってましたね。この市は高速道路のインターチェンジを持っているので、遠くから来る予定のトラはこの市を通るのですが、それが逃げ出したようですね。速度が落ちたから逃げ出せたのでしょう。

「さとさと冷静過ぎじゃない」

 冷静じゃありませんよ。今すぐ逃げたいです。一瞬目の端映った黄色い物を確認したくなく、別の話をしただけです。

「はぁ、黄色い物?」

 高橋さんは私が見ている方向に視線を動かしました。あ、固まりました。高橋さんは気付いてしまったようです。

 私たちの視線の先でうろつくのは黄色と黒のラインがオシャレなお方、つまりトラ。

「に、逃げるわよさとさと」

 声を落とした高橋さんが言います。あのトラはまだ私たちに気付いていません。絶好の逃げるチャンスです。

 私は頷き、私たちは静かにその場を離れ始めました。地面は腐葉土なので音はあまり立ちませんが、相手は獣。微かな音でも気付くかもしれません。

 動きながら市民体育館への道のりを頭の中で確認しました。トラが体育館への最短ルートを遮るようにうろついているので、その道は通れません。

 今いる場所から市民体育館へと戻るルートはあと二つ。しかしそのうち一つはトラの視界に確実に入ってしまします。大きく迂回する残りのルートの方がいいでしょう。

「そうね。それにそのルートなら途中にトラから籠城出来るぐらいの場所もあるでしょう。とりあえず行きましょう」

 すでにトラからは数百メートルは離れたようです。振り向くと木々の隙間から小さくシャレた柄が見えます。これなら逃げ切れるでしょうか。

 そのとき後ろから風が吹きました。一瞬で吹き抜けた風はトラまで届いたようで、ゆっくりとトラはこちらを見ました。

 目が合いました。トラは笑ったようです。私も笑ってしまします。

「走るわよッ!!」

 高橋さんの合図で一斉に走り出します。もちろんトラもです。

 足の速い高橋さんになんとかついて行きます。運動が苦手な私のために少しは緩めてくれてはいるでしょうが、十分辛いです。一方トラは垣根などに苦戦しているようで、そこまで速くはありません。垣根は思ったより頑丈な造りのようです。

 何か電子音が響きました。前を行く高橋さんが走りながらスマートフォンを取り出し耳に当てます。

「もしもし。えっと山田!? 何、青空広場まで行けって!? ……わかったわ。何とか行く!」

 山田君から連絡が来たようです。山田君は田中君たちと一緒に市民体育館内で昼食を取っていましたから、トラの位置情報などを先生たちから漏れ聞いて連絡してくれたのでしょう。でもそれなら田中君に掛けさせれば良くないですか。

「田中は殺気立って話しかけづらいから山田があたしに掛けて来たみたいだけど。とにかく青空広場まで行くわよ。そこまで行けば大丈夫らしいから。さとさと、全力出してね!」

 これが全力ですけど。

 文句を言いたいですが、今は走ることに集中します。

 青空広場はその名の通り青空の見える芝生の広場です。今いる位置からはそんなに遠くはありません。私が全力で走ってギリギリの距離ですね。

「見えた! もう少しよ!」

 全く疲れた様子のない高橋さんが言いました。さすがとしか言いようがないですね。

 高橋さんの言うように前方が開いています。木の生い茂る中にいたので太陽の光が非常にまぶしいです。

 その太陽の光が降り注ぐ場所、青空広場に入り目が慣れれば、そこに作業服で網などを持った人がいることに気付きました。彼らはあのトラを逃がした動物園関係者でしょうか。

「やったわさとさと。逃げ切っ――」

「君たち避けて!!」

 作業服の一人が声を張り上げました。

 何をと思う前に、ものすごい反射神経で動いた高橋さんに押し倒され、芝生の上を転がりました。

 私たちがいた場所に大きな物体が着地します。振動が地面に響き、私の目に黄色と黒の模様が焼きつきました。

 そして冒頭の高橋さんの台詞です。声は通っていますが震えているのがわかります。

 人間、最大の危機の時は案外思考が落ち着いているようです。くだらないことを言っているのは現実逃避かもしれません。

 黄色と黒、トラは静かに振り向き追い詰めた獲物を見つめました。その瞳は私たちを餌としか認識していません。

 目の前にある大きく開いた口と鋭い牙。あまりにも非日常なそれは、私の思考を拘束していきます。

 目をつぶりたくても許されない。近付くそれを、私はじっと見つめていました。

 スルーモーションで動いていた時間が元へと戻るのはほん一瞬でした。

 トラは何かに撃ち抜かれました。

 何も言うことなくトラはただ地面に倒れます。

「……な、何? どうしたの?」

 隣にいた高橋さんが混乱して呟きます。それもそうでしょう。ほんの少し前まで私たちを捕食しようと襲ってきた相手が、今は眠ったように倒れているのですから。

「大丈夫かい君たち? 怪我は」

 呆然としている私たちに作業服のおじさんが話しかけてきました。大丈夫だと頷けば、おじさんは安心したようでした。

「あの。あのトラは大丈夫なんですか? 死んだりだとかは」

「はは、大丈夫だよ。誰かが麻酔銃を撃ってくれたようでただ眠っているだけさ。すまないね。私たちのミスで君たちを怖い目に遭わせて」

「そうなんですか。大丈夫です。怪我もありませんでしたし」

 おじさんと話すのは高橋さんに任せて、私はある方向を見ました。その方向はトラが倒れたのとは反対側、つまり誰かが麻酔銃を撃ってきた方です。

 見えるのは市民体育館。私は誰かがそこから撃ったのだと確信していました。

 誰かなど一人しか考えられませんけど。

 私たちはおじさんに連れられ市民体育館へと戻って来ました。

 まず初めに田中君が走ってきます。相当心配していたようで、顔が真っ赤です。さらにまだ殺気立っています。田中君を見て高橋さんの空元気は途切れたようで、力なく田中君に寄り添います。田中君は今度は照れで赤くなっり、殺気も消え去りました。そんな二人の様子を、心配して集まって来てくれた二組の皆さんはニヤニヤ顔で見守っています。若干血涙を流している人もいるみたいですが。

 おじさんは担任である武田先生ほか幾人かの先生に事の次第を話しているようです。私もクラスメイトに囲まれ話をしました。途中から復活した高橋さんも混ざり、話はかなり盛られて行きました。

 山田君が逃げ先を教えてくれたことについて、皆さんは「さすが山田だ」「すぐ連絡しようとできる判断がすごい」と褒め称えます。

「いやいや、俺は森君が言ったこと伝えただけだし」

「でもなんで高橋に掛けたんだ? お前なら佐藤に掛けそうだけど」

「メアドは知ってるけど、電話番号は知らないからさ。緊急時はやっぱり電話じゃないと」

 その発言で、私はみんなに山田君との公開連絡先交換会を強要されました。外堀、完全に埋められてますよね。

 そのあとスポーツ大会は滞りなく終了しました。総合優勝は三年三組でした。彼のクラスは文武両道な生徒がたくさん集まっているといいます。

 駅までの帰り道、山田君と一緒になりました。高橋さんが田中君といい感じでしたので置いて来たら、同じ考えか作戦かの山田君と合流してしまったのです。

 たわいのない会話で場を過ごそうと思っていましたが、やはり気になることを聞いて見ようと思い直しました。例えば今日誰かが麻酔銃を使ってトラを眠らせたらしいですが、誰がその撃ったのでしょうか、とか。直球過ぎますが、話すのは得意ではないのであえて聞きます。さすがに向こうも直球で返すとは思いませんし。

「もらった麻酔弾があったんだよ。使わないと思ってたけど入れといてよかったな」

 ホームランで返されました。

「ちなみに使っている銃は『H&K PSG-1』ね。支給品だけど」

 どうやら私はどんどん引き返せない方へ誘導されているようです。もう自分からは何も聞かないと強く決心したのは当たり前のことです。

 その後山田君は私の家の最寄駅まで送ってくれました。

 それを他クラスの人間に見られ、良くない噂が広がって行くのも山田君の策略でしょうか。

 山田君、恐るべし。

銃の描写とかは素人なのでご了承下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ