タヌ太郎
「ボールいったモウ」
どうやら学校のやすみじかんにサッカーボールで遊んでいるようです。
タヌ太郎にボールがやってきました。
よし、次こそはゴールに入れるぞ!
ボールをけろうとしたとき、石につまづいてころんでしまいました。
起き上ったときには、ボールは相手のチームにわたっていました。
「みんなごめん。ぼくのせいでまた負けちゃって」
「気にするなワン」
「しっぱいすることは誰でもあるゾウ」
なかまたちは落ち込んでいるタヌ太郎を元気づけました。
家に帰ってもタヌ太郎の気持ちは晴れません。
ぼくのせいでみんなの足を引っぱってる。
ぼくがいない方がいいんじゃないか・・・
トボトボあいていると、歌声が聞こえてきました。
気になって歌のきこえる方へ近づいていくと、おおきな木のそばで誰かが歌っているようです。からだはとても大きく、みどり色のぼうしをかぶっています。
「なにをしているの?」
「ボクは歌をうたいながら、いろんなところ旅をしているんだよ」
「そうなんだ。いままでどんなところにいってきたの?」
山のなかでとりたちと歌いあったり、病気がちの女の子に歌をとどけたり、たくさんのことをおしえてくれた。
ボクが知らないことってたくさんあるんだな。
「どうしてたびびとになろうとおもったの?」
「ボクは歌もすきだけど、みんなとおしゃべりするのも大好きなんだ。さあ、日も落ちてきた。お母さんがするぞ」
いつのまにか空がみかんのような色にかわっていました。
「タヌ太郎、こんなじかんまで何してるの!」
家にかえると、おかあさんはカンカンにおこっています。
タヌ太郎のかえりがおそいので、心配していたのです。
「ごめんなさい」
フカフカふとんに入りながら、クマおじさんのことを思い出していました。
おじさんはすごくかがやいてた。
ボクもおじさんのように好きなことを楽しめるようになりたい。
でもどうやったら楽しめるようになるんだろう。
「サッカ―しようぜ」
「きょうは早くかえらなきゃいけないから」
ボクはともだちにうそをついた。
みんなのめいわくになりたくない。
もっといっぱいれんしゅうしなきゃ!
タヌ太郎は、家にかえるとサッカーボールをもって公園にむかっていきました。
そこにはきのうのクマおじさんが歌をうたいながらいすにすわっています。
「ともだちとあそばないのかい?」
おじさんが話しかけてきました。
「ボク、みんなの足ばっかり引っぱっちゃって」
タヌ太郎は目になみだをでて、ないてしまいました。
「はじめからうまくできる人なんていないさ」
「じゃあ、クマおじさんもはじめからうまかったわけじゃないの?」
「そうさ、みんなにからかわれたこともあったよ。でも、それでもおじさんは歌が好きなんだ。歌をうたってみんなを楽しませつづけること、それがボクの夢さ」
ボクだけじゃないんだ。
おじさんもボクのようになやんだことがあったんだ。
「おじさんは歌うことがいやにならなかったの?」
「ボクは歌うことをやめることができなかったんだ。毎日毎日れんしゅうして、日が暮れるまでうたってたよ。歌っているうちにもっと好きになってたんだ」
「ボクもいっぱいれんしゅうすれば、おじさんのようにうまくなれるかな」
「なれるさ、たいせつなことはあきらめないことだよ」
ボクあきらめない!
ぜったいうまくなってみせる!
それからタヌ太郎はがっこうが終わった後公園へいきました。
あめがふっても、かぜがふいても、タヌ太郎はまけずにれんしゅうしつづけました。
ぜったいうまくなるんだ!
がんばることなら、だれだってできる。
「みんなサッカ―しよう」
タヌ太郎ははじめてじぶんからさそいました。
いままでれんしゅうしてきたんだ
だんじょうぶ
タヌ太郎はじぶんからボールへ近づき、おもいっきりけりました。
すると、なんということでしょう。
ボールはキーパーの横をすり抜けゴールにはいっていきました。
「すごいゾウー!」
「タヌ、やったワン!」
やった!ぼくもがんばればできるんだ!
あきらめずがんばっていれば、できないこともできるんだ!
タヌ太郎はおじさんをさがしていました。
あの時おじさんとあっていなかったら、いまのボクはいない。サッカーボールをゴールにいれることもできなかった。
会って"ありがとう"って伝えたい。
はじめて会った場所にサッカーボールがころがっていました。
そこには「おめでとう」と書かれてあったのです。
小さい頃、うまくいかずに悩んだことがあります。
思い出しながら書きました。
読んで下さった方、ありがとうございます。