01:旅、始[前編]
奇妙な旅の始まり始まり・・・・
エスタラント王国。
現王であるグリーブは一人息子だったためとんでもない我儘王になった。
剣も握らず、馬にも乗らず、ただ女と酒に溺れていた。
そうして出来た一人娘の、シルヴィアは父の情けない姿を見て育ち、
男よりも強い女になった。
好き放題やり放題なグリーブの態度に憤慨した市民は下級貴族を味方につけ、クーデターを起こそうとしていた。
「宣戦布告をしてから、約一ヶ月が過ぎた。だが、まだ軍に動きはない。」
演説をしているのは、子爵であり反乱軍のリーダーである、ハンフリー・キャラハン。
彼は、市民の怒りに一番耳を傾け、冷静に物事を進めるまさに「救世主」であった。
「時は来た!軍が動かない今が好機!駄王、グリーブに我々の力を見せつけるのだ!」
わあと会場が沸く。
このハンフリーの自信が覆されるなどまだ知らなかった。
一方、クリファース城では今までにないくらい静かな時が流れていた。
「動き出したみたいだぜ。敵さん。」
「そうか。存外、あちらも短気だな。」
お前もなと、上将軍のガレス・ウィルキンソンは思う。
そして、話し相手は王女であり対反乱軍の総大将、シルヴィアだ。
「一ヶ月も前から、軍隊を森に潜伏させて相手が来るのを待つなんて・・・」
「私らしい。か?」
「ああ。そうだよ。」
城内が静かな理由。
それは、宣戦布告の手紙が届く前から彼女は反乱が起こるのを悟り、あらかじめすべての兵士を森に潜伏させていたから。なんとも、大雑把だとガレスは思った。
「反乱は時が経つにつれ膨張し、遂に破裂した。父様には、悪いが正直、起きてくれたほうが良いんだ。そうじゃなきゃ、変わらない。父様もこの国も。」
「・・・父親思いだよな。お前。」
「あんなんでも、血のつながったたった一人の肉親だ。私が、守らないと。」
月がバルコニーを照らし、心地よい風が吹いた。
夜が明け、
ハンフリー率いる反乱軍は呆然とクリファース城前で立ち尽くしていた。
「なんだ・・・これは・・!」
自分たちが向かってきていることは既に知っているはずだ。
それが、兵士どころか人っ子一人いない。
(ここまでとは・・・)
ハンフリーは王の落ちぶれた様子を思い浮かべ、ぞっとした。
こんな奴が王で本当にいいのかと。
「ハンフリーさん!何か来ます!」
城の右側から土ぼこりが見えた。
そして、左からも。
前、後ろと潜伏していた軍隊が。
「・・・!」
驚くのもつかの間。あっという間に、反乱軍は包囲された。
「くそっ!罠か!全軍、前進!」
ハンフリーが目指すのは、ただ一つ。
城に籠っている王だ。
「待てっこらっ!」
ガレスだった。城門を塞ぐ形で前に現れ、おもむろに剣を抜いた。
「よう。お前か?子爵で、反乱軍の若きリーダーってのは。」
「そういうお前は、元盗賊の成り上がりだろ?」
ガレスは、ぶちっと何かが切れた音がした。
「ほう。俺のこと、知ってんのかよ。」
「ああ。有名だよ。盗賊の分際で、上将軍にまで上り詰めたサイテーな奴だってな。」
「言ってくれんな。いいぜ。このガレス様が相手になってやる!」
その言葉を合図に2人は地面を蹴った。
そして、数時間が経った。
互いの兵士たちに疲れが見え始めていた。
ハンフリーとガレスは、互角の戦いを見せていた。
互いに息を切らしていたが、その勢いは止まらなかった。
が、
「もらった!」
「しまっ・・・!」
一瞬の隙を突いたガレスはハンフリーの剣をはじき、そのまま肩を斬った。
一方のハンフリーは、肩の痛みに耐えきれず傷を庇いながら膝をついた。
「・・・っ」
「はっ・・・終わりだな。せいぜい、あの世で見てるんだな。この国の行く末を!」
覚悟を決め、目を閉じたハンフリーにガレスが剣を翳した時、
「待った!」
一人の声がその剣を止めた。
その声は、天を突きぬけるほどの大きな迫力のある声だった。
「待て。ガレス。剣を仕舞え。」
「・・・ちっ」
渋々、ガレスは剣を鞘に戻した。
「あんたは・・・」
「私か?私は、
エスタラント王国第一王女 シルヴィア・セルマ・マルティネス・ライ・エスタラントだ。」
「お、王女?・・・マジ?」
「ああ。大マジさ。」
ハンフリーは、呆然と彼女の顔を見た。
あの、王の娘?
「このガレスと互角に戦ったのは、お前が初めてだ。」
「・・・だから、なんだ。もう、勝負は決まったんだからさっさと殺せ!」
「ダメだ。」
「・・・おい。本人が、死にたがってんのに止めるか?普通。」
「普通は、止めるんだよ。」
思わず口を出したガレスは、むすっとした顔で腕組みをし直した。
そして、シルヴィアは何かを考えつくと、
「その剣の腕、真剣な眼差し・・・気に入った。お前、
私のところへ来い。」
「「はあ?」」
後編へ・・・
le herosはフランス語で「英雄」という意味です。
この物語ではいろんな意味での英雄が出てきます。
まだまだ、駆け出しですが、最後まで頑張りますのでよろしくお願いします。