誰も知らない秘密のお伽話
作者の作り上げた架空のお伽話です。
夢と現実の狭間に美しい七色の羽は息絶えた
悪魔は蝶の羽を毟り取り
鮮やかで繊細な悪夢を描き出した
【誰も知らない秘密のお伽話】
ある太陽の日差しが眩しい昼下がり。
屋上の鍵を職員室から拝借して来た、その鍵はジャラジャラと掌で弄ばれる。
薄暗い階段をゆっくりと上がり錆びた鍵穴に銀色に青が薄ら掛かった鍵を差し込む。
夢の扉への入口です。此処からが誰も知らない物語、お伽話のお話です。
子供には大変喜ばしい話ではなく読んであげるには少し、悲惨なのでこのお伽話は永久に世の中に出回る事はありませんでした。
唯青い空を眺めて、コンクリートに頭をつけて眠りについた...。
ある、1人の少年...男が。
とある時代、場所でその話は出来上がった。
その時代と言うのは争いが激しい時代でした。
勿論、役立たずは唯のクズ野郎と言われます、当然の事。
其処でその国の司令塔は使えても何処かに一箇所でも傷のある人々、役立たず、とにかく司令塔が選び出した人物達は皆島流しにされました。
小さな筏に10人を押し詰め座らせると大海原へと筏を蹴り飛ばし国の安定を図りました。
筏は簡単に設計されたもので、細い棒に白い旗がヒラヒラと舞う。
ロープの結び方は緩く、何時解けても可笑しくはない。
そんな状況の中で老若男女...何でもコイ。
主人公にあたる少年の名前はライマと言う少年だった。
彼の年齢は現代の年齢に照し合わせれば凡そ14歳ぐらい。推測。
司令塔から島流しと告げられた理由は、役立たずではなく、傷がある訳でもなく。
自分の両親から島流しを告げられたのです。
ライマの両親は話す事もなく、国の大事な部分の司令塔にあたるのです。
まったく血も涙もない...けどライマは何も言わずに自ら筏に乗り込み卑劣な親から離れ行ったのです。
そんな雑談はさて置き、筏には人がやっと座れるスペースしかなく、判るように食料など一切ない。
あるのは海水のみ。
塩分の摂り過ぎは体によくない...今はそんな事も言っていられない。
同じ筏に乗ってしまったのは何かの運命。
飢え死にしないように皆で助け合おう...。
この世界でそんな言葉は通用する事はない。
この世界での助け合おうは殺し合おうと言っているようなものである。
それでも人々は生き延びる為、極力会話を減らし、海に顔を突っ込み海水をがぶ飲みする。
勿論、人間であるライマも同類に海に顔を突っ込み海水を体の其処に染み渡らせる。
眩しい太陽が肌を焼く。冷たい海水だけではもう温度調節は難しい。
そして、日射病で治療も出来ずに死んで行く人が1人、また1人と...。
「これで8人目か...」
「君は大丈夫かい?」
「あぁ...お前名は?」
「僕はサラス、君は」
「俺はライマ」
島流しにされて早5日あまりの月日が流れ...。
昨日、今日で計8人が飢え死に、もしくは日射病で死に至った。
そんな中で生き残っていた主人公ライマと同い年ぐらいの少年サラス。
2人は協力し合いながら何とか生き残ろうと決意しました。
けれどもそんな誓いも虚しく、サラスは飢え死にしました。
ライマもそろそろ自分自身もヤバイと感ずいて来ました。
けれども食料はない、あるのはしょっぱい海水だけ。
今となっては生きる事より死ぬ事の方が容易い。
いっそ死んでしまえば楽だろう。
けどライマは死にたくないと心の其処から思いました。
死なない為には生きる為に手段は選ばない。
さて如何する?
ライマは頭を抱えて悩みました。悩んで悩んで。
脳裏を過ぎったのは当たり前の決断でした。
『死んだ奴の肉を食べるしか方法はないだろう』と。
もし此処が海でなく、地上で何もない空間で取り残されたら。
食べ物より水分を求めて自分の血を啜るのだろう。
ライマは決意しました。
涙を流しながら自らの手を真っ赤に染めて人間の血を啜りました。
肉を千切り、口に運びました。
口からスッーと伝うのは食べている肉の血でした。
ライマはサラスの味を涙で滲みながら噛み締めました。
流れ流されでとうとうある1つの島に辿り着く事が出来ました。
其処は本当に小さな島で、小さなレストランが1軒。
千鳥足でそのレストランに向かう。
目は違う遠い場所を見詰め、口の中に広がる鉄の味を噛み締めて。
そのレストランの扉の前には営業中と言う看板と小さな黒板に殴り書きされた文字。
『激美味!一度は食べてみる価値ありっ!当店メニュー一押しの...お伽話スープ』
ライマは視線の先にある扉を押した。
カランカランと扉の上に設置されていた鈴の音が響いた。
「いらっしゃいませ」
厨房らしき場所から顔を覗かせたのは此処の主であろう人。
その人は綺麗な長い黒髪で...女性。
微笑みながら「此方へ」と椅子を引きライマを座らせ、厨房へと身を隠す。
そしてすぐに出てきて目の前に湯気の立つスープをゆっくりと置いた。
「召し上がれ」と口には出さずに瞳で言った。
右に置かれたスプーンを不器用に持ち、一口スープを啜る。
後を向いて去って行く主の表情は悪魔のように暗く。
そのスープを飲み込んだライマは涙を流した。
そのスープの味に唖然。
死んだ仲間の味がした..........。
食べた仲間の味がした..........。
「泣く必要はないでしょう...実際に本物を食べていらっしゃるのですから...」
と女は言った。細い声で。
ライマは泣き続けている。
筏の上で頬張った仲間の味が口の中に充満する。
後味の悪い結末に終わったストーリ...。
俺はゆっくりと瞳を開けた。
夢かぁーと溜息を1つして上半身を起こす。
グシャグシャに乱れた髪を手で少し整える。
「随分よく寝てたね」
「あ...ぁ...槻柚...俺さぁ」
「言わなくてもいいよ」
と彼女は俺の言葉を避けた。
長い黒髪が目の前を揺れて地面に落ちた。
綺麗な蝶が目の前をスルーした...。
目で追って行くと目の前に立っていた彼女はその綺麗な蝶を片手で捕らえて七色に輝く羽を毟った。
もがいていた蝶々は一瞬にして息絶えた。
蝶から毟った羽を俺の目の前で揺らしながら...。
「命なんて本当に貴いモノなんだよ...人間いざとなったら仲間だって殺せる、食べたりも出来る」
「..........ぁっあっ!」
「君が見たお伽話はねぇー... なの...」
「あぁぁぁっ!!!.....」
「サヨウナラ、ライマ」
静かな太陽の眩しい昼下がり、何処がで銃声が聞こえました。
駆けつけてその現場を目撃した人の証言では...。
其処には大量の血溜まと肉を千切り剥がされた男性の亡骸があったそうです。
このお伽話を書いた人物は亡骸になった男性です。
ライマと言う人物が作り上げた架空のお話でした。
架空の架空の作り話です。
作り話だと思いたい、でもそうもいきません。
これは彼が実際に体験した事をお伽話として作成し、永遠の眠りにつかしたのです。
では、このお伽話を作り上げたのは誰?
そんな質問に答えるのは簡単です。
最後に登場してきた槻柚と言う少女と夢の中で登場して来た謎の女コック。
彼女と彼女は同一人物です。
「君が見たお伽話はねぇー...私が作り上げた夢の世界なの...」
「もう現実には引き返せないの...此処で死ぬのが貴方の運命なの」
夢の世界へと引きずり込まれた亡骸は二度と返って来る事はありませんでした。
最後まで読んで頂き誠に有難う御座います。
お付き合い有難う御座いました。