Lovely15..ライク・ア・ビースト。
「あれあれあれ〜?矢田さん…もしかしてきのうと同じ格好ですかい?」
金曜日の朝。
会社までの道を歩く私に、歩が最高の笑顔で問いかけてくる。
「ちょっと、し〜っ!歩…っ!」
言うまでもなく、私は耳まで真っ赤っか。
「あれ?衛門君!おはよう!」
歩の声に振り向くと、そこには福人君が立っていた。
「福人君っ!おはよう〜。」
私も歩に続けて挨拶をする。
「福人君…?」
だけど福人君はずっと私を見つめたまま動かない。
「……っ!」
しばらく黙って福人君は走って行ってしまった。
歩と二人、首を傾げてみせたけど、正直いまの私たちの一番の興味は…
「平山さ〜ん!おはようございます♪」
彼に決まってる!
「おはよう!江波さん。」
新入社員の江波さんが平山さんに何やら話しかけている。
歩はわざとらしく顔をしかめて、こっちを見つめてくる。
「おやおや〜?彼女は新入社員の萌乃ちゃんじゃな〜い!何話してるんだろうね〜?」
「た、ただの朝の挨拶だよ…っ!早く行かないと遅刻だよっ!」
そう言って私は会社へと急いだ。
だけど平山さん…
何を話してたんだろう?
ただの挨拶だよね…?
デスクに着いてパソコンに電源を入れた。
髪の毛をシュシュで結わいて仕事モード、開始だ。
あ〜ぁ。
きのうの夜はあんなに甘くロマンティックで幸せだったのに…
朝になればいつもの"平山さん"と"矢田さん"だ。
平山さんの方を見つめながら小さくため息をついた。
「エリーさん♪ちょっといいですか〜?」
「…江波さんっ。どうかしたの?」
江波さんが話しかけてくるなんて意外だ。
一体何だろう?
江波さんに連れられて共有休憩スペースの横の窓際にやって来た。
「な、何かな?江波さん。」
彼女は胸が大きい。
いつも胸元が大胆に開いたセクシーな服装で、男性陣の注目の的?なのだ。
胸元に揺れるネックレスに指を絡ませながら彼女は話しだした。
「平山さんて…彼女とかいるんですかね?どう思います?」
…っ!
「さ、さぁ〜?どうなんだろうね…ちょっと分からない、かな…」
「…ふ〜ん。まぁ、別に彼女なんて居ようが居まいがどっちでもいいんですけどね!」
江波さんは真っ直ぐに私を見つめた。
「恋愛は心じゃなくって、体でするものですから!」
そう言うと彼女は小悪魔風ににこっと微笑む。
「…っ。」
「それじゃあ失礼しま〜す♪」
何だかモンモンとする。
「矢田さん…?」
「福人君。」
資料を抱えた福人君が心配そうにのぞき込んでくる。
「江波に何か言われたんですか?大丈夫でしたか?」
私は口角をきゅっとあげてにっこりとしてみせた。
「大丈夫だよ!会議の準備のことでちょっと分からないことがあったみたい。」
「そうなんすか〜!それなら良かったです!」
福人君は大っきく笑った。
「でも…あいつには要注意っす。」
「え…っ?」
「あいつ…同期の間でもちょっと嫌煙されてて。いわゆる"THE肉食女子"なんで。気をつけてください!それじゃあ失礼します!」
"THE肉食女子"かぁ〜…
私とは正反対だなぁ…
─お昼休み。
歩から会議の準備で遅れそうとメールが来たので、先に行って待っていることにした。
今日のランチのテーマは"肉食女子"で決まりそうだ!
私はテラスのドアに手を掛けた。
どこか空いている席はあるかな…
「エリーさ〜ん♪こっちこっち〜!」
江波さんがこっちに向かって、爪先まで完璧に手入れされた白く細い手を振ってくる。
…その横には、平山さんがいた。
私はどこか釈然としないまま二人の座っている席の方に歩いて行った。
「エリーさんも良かったら私たちと一緒に食べません?」
断れるわけない。
だって肉食獣のとなりには大好きな…
平山さんは少し気まずそうに苦笑いをした。
「萌ね平山さんの微笑い方大好きっ!」
サンドイッチを無邪気に頬張りながら江波さんは大胆な言葉をどんどん口にする。
「まぁ、平山さんのことを好きなのは萌乃だけじゃないと思いますけど。でも大好きなのは萌だけ〜!えへへ〜♪」
…っ!
私だって…いや、むしろ私の方が絶対に!
平山さんのこと、大好きだもんっ!
「そんな風にストレートに来られると…困っちゃうなぁ…」
平山さんはますます気まずそうに、下を向いて微笑む。
だからそれがいけないんだってば…!
平山さんは何にも分かってないっ。
「…エリー?」
最強の救世主!
歩だ。
歩は一瞬でだいたいの状況を理解したらしい。
「歩さんも良かったらお昼一緒にどうぞ♪いいですよね?平山さん♪」
「え?あ、あぁ…もちろん!」
何だかすごいテーブル図式だ。
私は平山さんにちらっと目をやった。
平山さんもそっと、私の方に優しい視線を送ってくれる。
「平山さんて…」
「…ん?何かな?」
まるで本物の獣のように、江波さんは瞳をギラりとさせた。
「平山さんて…恋人とかいるんですか?」
…っ!!!