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Lovely1..素敵な贈り物。

「どうせ私なんて…可愛くないし、だめなんだよ。」






矢田エリー。

昔からこの名前が嫌いだった。

私に似合わないこんな可愛らしい名前なんて、いらないよ。






今日は雨。

ううん、予報じゃ曇りだった。

なのに外に出て歩き出したとたん急に降り出したんだ。

どうやら天気まで私に冷たい。






「別にいいけどさ…」

古びた黒い靴を見つめながら一人、つぶやいた。






8:45。

いつもと変わらない朝。

いつもと同じ風景。

もしもこの世界が月9のラブストーリーだったとしたら、私は脇役?

なんて良いものじゃない。

所詮、私なんてセリフの一言もないただのエキストラだ。






「ん?え…太陽?」

ふと傘を上げるとさっきまでの雨が降りやんでいて、グレーの雲の間から一筋の太陽の光りが射しこんでいた。

その光りが水たまりに反射してとってもきれいだ。






"Happy Birthday,Love for you.."






可愛らしいお花屋さんらしき店頭にたくさん並んだ贈り物。

ピンクや水色、真っ赤なリボン…とおめかしして並んでいる。






「サボテン…?可愛いな。」






「ありがと♪」






「え…っ!?いま喋っ…」






まだ寝ぼけているのだろうか。

サボテンから話し声が…





「いらっしゃいませ。ごめんなさい、まだ開店前で…」






わ─っ!

綺麗な人。






「いいえ。あの、見てただけなので…何でもないです!」






私はそそくさと花屋をあとにして仕事場へと向かった。






12:30。

いつもと変わらないお昼休み。

いつもと同じ1時間休んでまた仕事に戻る。






朝、駅のコンビニでてきとうに選んだおにぎりとお茶を片手にランチタイム。






それにしてもあんな場所に花屋さんなんてあったっけ。

全然知らなかった。

いや、そもそも私はいつも下ばかり向いて歩いているから、はじめからあったとしても、きっと絶対気付かない。






18:00。

「退勤、っと。」

パソコンに私の嫌いな名前と名前より大切な社員番号を打ち込んで会社を後にする。

大切な社員番号がなければ、会社(ここ)では「私」ではない。






会社終わりはたいてい真っ直ぐに帰る。

だけどそのつもりの心とは逆に、私の足はあのお花屋さんへと寄り道をしていた。






あっ、朝の店員さんだ。

…って向こうは覚えていないだろうけど。






「いらっしゃいませ!朝はどうも。お仕事帰りですか?お疲れさまです。」






──キラキラ♪






心が一瞬ふわっと揺れた、そんな気がした。






「あの…あのサボテン、下さい!」





思わず口から飛びだした言葉に、自分でもとても驚いていた。






すると綺麗な店員さんは、優しい微笑みでサボテンを持ってきてくれた。






「リボン何色になさいますか?」






「え?」






「お誕生日だし赤とピンクかな、やっぱり。」






「はい。それじゃあその色で…」






もちろん今日は誰の誕生日でもない。

だけど何か買わなきゃって、このサボテンが欲しいって、なぜだかそう思ったのだ。






可愛くラッピングされた贈り物を手に、店員さんはこんな素敵な言葉をくれた。






「ハッピーバースデー。」






「ありがとうございます。」






お店を出た私の帰り道は、いつもと少しだけ違っていた。

だって今日は私、笑って歩いている──♪








─次の日の朝。






「ん〜、朝だ。起きるか…」






今日は日曜日。

私の休みは水曜日と日曜日の週休2日。

だけど休日の過ごし方といえば、たいていはお昼くらいまで寝て、掃除に洗濯をして、ちょっとパソコンでもいじっていたら終わってしまう。

何でもない一日だ。






「そんなのもったいない!」






「ん…?え…何いまの?」






またあの声が聞こえた気がした。

また私、寝ぼけ…






「こっちだよ!こ〜こ!サ・ボ・テ・ン!」





それはまぎれもなく、出窓の上で可愛くおめかししているあのサボテンから聞こえてくる。






「…?まさかね。」






きっと夢でも見ている。

そう思うことにしよう。

もう一度ベッドにもぐり込んで…






「こら!起きろ〜!こ〜んなにいいお天気なのに!素敵な日曜日がもったいないよ!!」






─ガバッ!






「…!!!サボテンが喋ってる…」






ツンツン。

…痛い。






「んふふ…くすぐったいよエリー♪おはよう!」





「おは、よう…?」






その日からサボテンと私の愛しき二人暮らしが始まった。

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