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学校で地味メガネな僕がバイト先ではシゴデキな件。~年上彼女との秘密の恋に、新人の同クラギャルが割り込んできた~  作者: acid-junky


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胸に刺さる魚の骨、得られない解答(アンサー)

「……はぁ。事情は、よーくわかったわよ」


 ソラは、溶けきって薄まったフラッペを最後の一口まで吸い込み、プラスチックのカップをテーブルに置いた。

 正直、いっぱいなのは胃袋ではなく胸の方だ。目の前で繰り広げられた、理屈と情熱が複雑に絡み合った「完璧に補完し合った愛」の告白。昨日出会ったばかりの自分が踏み込んでいい領域を、とっくに超えている。


「美月さんの夢も、水瀬の変態的な脳みその使い道もね」

「ふふ。でも、ソラちゃんに話せてよかった」

 美月が、憑き物が落ちたような晴れやかな笑顔でソラを見つめる。その隣で、悠真もまた、眼鏡の奥の瞳をわずかに和らげていた。


「僕も、家族以外の誰かに僕の脳内のこと、そしてこの関係を言語化して説明したのは初めてです。……それに、美月さんの想いの深さを再確認できました。ソラさん、きっかけをくれて感謝します」

「……あー、はいはい。どういたしまして」

 ソラはわざとらしく耳をほじり、視線を逸らした。


 感謝されるのは悪い気はしない。けれど、2人が見つめ合うたびに、自分の立ち位置がどんどん「ただの観客」として固定されていくような、割り切れない寂しさが胸の端をかすめる。


「それで、改めてのお願いなんだけど……」

 美月の表情が、ふっと「プロの顔」に戻った。


「私たちのこと、やっぱり学校やバイト先では秘密にしておいてほしいの。悠真くんが言った通り、私の将来にとっても、そして彼が穏やかに学校生活を送るためにも……。勝手なお願いだって分かっているけど」

「言わないわよ、あたし、口は固い方だし」

 ソラは投げやりに手を振った。

「ありがとう、ソラちゃん。本当に助かるわ」

 美月は心底安心したように、悠真の腕をそっと自分の方へ引き寄せた。その動作は、自分を守ってくれる騎士を慈しむようでもあり、同時に自分の所有権を無意識に誇示しているようにも見えた。


「本当に見返りは要らないんですか?」

 悠真が鋭い眼光でソラを捉えながら問いかけた。


「あのねえ」ソラは呆れたように返す。「昼も言ったじゃん、知りたいだけだって⋯⋯あんたの脳内のCPU?だっけか、何か裏があるから見返りを渡すべきだ、って答え出してるのかもしれないけど。そんな駆け引きとか、ややこしいことはあたし苦手なの」

「そのようですね。わかりました」

「⋯⋯何かムカつく」

 自分から言ったことだが、そのままあっさり認められると、頭悪い扱いされたようで、ソラにモヤモヤが残った。


「じゃあ、もう遅いし、今日はこの辺にしましょうか。悠真くん、バイト中倒れたし、さっきの話からすると、そんなにリソースが残ってないと思うし」

 2人の会話の様子を見守っていた美月が、そう切り出した。


「……そうですね。脳がアラートを発し始めてます。そろそろスイッチをオフにしないと⋯」

 正直、限界に近い状況だった。悠真が少し眠そうに眼鏡の縁を触る。



 席を立ち、3人並んで飲み干したカップなどを片付けている時だった。

 悠真がソラのすぐ横にある分別用ゴミ箱へ手を伸ばした、その瞬間。


「!」


 悠真の脳内アラートが一瞬、止まった。

 気を失うのか? いや、大丈夫だ。むしろ、さっきよりクリア。

 何だ? 何が起こった!?

 悠真が慌てて周りを見渡す。


 ソラはちょうど、悠真のすぐ隣で自分のトレイを片付け終え、その場から離れるところだった。美月は一歩下がった場所で悠真の様子を窺うように立ち、心配そうな顔で見上げている。


 再び、脳内アラートが鳴り出した。


「どうしたの?」

 悠真の腕を掴んでいる手の力をグッと強めながら、美月が尋ねた。


「⋯⋯いえ、何でもないです」

 美月を見つめ、弱々しく笑いながら、悠真が答えた。

 その後、悠真が出口に向かうソラの後ろ姿に意味ありげな視線を送ったのを、美月は見逃さなかった。


 店を出ると、夜の冷たい空気が3人の頬を撫でた。

 2人は駅の方へ、ソラは自宅の方へと別れる間際。


「じゃあね、ソラちゃん。また、『クローバー』で。学校では悠真くんのこと頼……あ、内緒だったね」

 美月はおどけたように肩をすくめ、茶目っ気たっぷりに手を振った。


「じゃあ、ここで」

 ソラも手を振り返し、2人に背を向けて歩き始めた。

 ソラは「やれやれ、とんだ『愛の劇場』に巻き込まれたわ」と、自分で飛び込んだことは棚に上げて毒づきながらも、なぜか動悸がさっきからおさまらないことに戸惑っていた。


「私たちも行こうか」

 美月が組んでいる腕を押し出すようにして悠真に歩き出すのを促した。

 あの、最後に悠真くんがソラちゃんに送った意味ありげな視線、何だったのか。

 美月は、自分の心の中に魚の骨が刺さったままなのを感じつつ、歩き出した。


「はい。でも、限界なのでスイッチ、切りますね⋯⋯ご迷惑おかけします」

 そう言った途端、悠真の目から鋭い光がどんどん失われ、淀んでまどろんだ眼と腑抜けた表情になり、オフモードに突入した。

 スイッチが切れる直前まで、アラートが一瞬止まった原因を探し続けたが、明確な解答は得られなかった。

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