Drop.004『 The HIEROPHANT:U〈Ⅰ〉』【2】
(――なるほど……。――あれで懲りたんじゃなく、ただ警戒して、しばらく寄り付かなかっただけね……。――まぁ、大したことじゃないから、別にいいんだけど……)
法雨は、彼らが再び店に現れた事に対しては何も感じなかったが、来る夜明けから再開されるであろう密会を見据え、その日、店に着てきた私服の事を想った。
(――今日の服。汚したくないのよねぇ)
そんな事を考えながら、法雨は、特に絶望するでもなく己が運命を受け入れると、その後も通常通り、バーの業務をこなして過ごした。
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そして、その日の零時頃の事――。
法雨は、嫌な胸騒ぎを覚えていた。
いつもなら明け方の閉店間際まで居座っていた彼らが、まだ日を跨いで久しいその時刻にすでに会計を済ませ、店を出ようとしていたからだ。
終業後の法雨を密会に連れ込むために、明け方まで店に居座る事が常であった彼らが、わざわざ店に来ておいて、何故このような早い時間に――。
(――まさか……、他の子を……?)
あの大柄なオオカミを警戒し、標的を法雨から他の従業員に変えたのかもしれない。
(――ふざけるんじゃないわよ。――他の子にあんな事させるなんて、絶対に赦さない……)
そして、そんな懸念から、胸騒ぎを怒りに転じさせた法雨は、近場の従業員に嘘の断りを入れると、先ほど店から出て行ったばかりの彼らを足早に追った。
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その後――。
すぐに彼らに追いついた法雨は、夜の街に消えゆこうとしているオオカミたちの背に、鋭い声を放った。
「――待ちなさいっ!」
すると、その声に若いオオカミたちの何人かが肩をびくつかせるようにし、恐る恐る振り返った。
そして、戸惑うようにしながらも法雨の制止に応じた彼らは、それぞれ法雨の事を見るなり、気まずそうに目を反らした。
その中、あの――群れのリーダーでもある灰色の彼が、その毛並みを揺らがせ、法雨の声に応じるように、仲間たちの間を割りながら歩み出てきた。
そして、法雨と向き合うようにすると、不機嫌そうな表情で言った。
「なんだよ。――今日は何もしてねぇだろ」
そんな彼に目を細めるようにすると、法雨は厳しい表情と声で言う。
「今は、――いえ、――アタシには、ね。――これは一体どういう風の吹き回し? ――まさか、今度は別の子に手を出してるんじゃないでしょうね」
「してねぇよ」
その法雨の言葉に苛立たしげにした彼は、噛みつくように強く否定した。
だが、それにも気圧されず、法雨はただ黙したまま目を細め、彼を見返す。
「………………」
「――なんだよ……」
法雨は、その彼の問いに対し、さらに黙して応じた。
すると、その責め立てる様な法雨の視線に耐えられなくなったのか、彼はついに怒鳴るようにして言った。
「――っだから、――なんもしてねぇって言ってんだろ!! 疑うなら確認してみろよ!!」




