Drop.027『 The LOVERS:U〈Ⅱ〉』【5】
「まだ……、もう少し、荷解きしないといけない物もあるのに……、――雷さんがそんな事言うから……、先に心が解けちゃったじゃない……。――これじゃ……、荷解きどころじゃないわ……」
そう――微かに震えた声で紡ぐ法雨の金色は、感情の雫に静かに浸っていた。
雷は、そんな法雨を優しく抱き寄せると、天が贈る陽光に美しく煌めくレモン色を愛おしげに撫でた。
すると、愛するオオカミの温もりを感じながら、その大きな身体にすべてを委ねる様にしていた法雨は、ぽつりと零した。
「アタシは結局……、――オオカミの王子様には出逢えなかったわ……」
雷は、法雨がそのように零した理由を、“王子様”というイメージはいかにしても自身と紐づけられないがゆえ――と察し、苦笑しながら言った。
「あぁ。ははは。――申し訳ないが、そうなってしまったね」
そんな雷に、法雨は、不満げな声で続ける。
「そう。――まったく。本当、困ったものよ。――だって、それもそのはず。――アタシの運命の王子様は、“とっくに王子様をやめちゃってた”んですもの……」
「……え?」
その予想外の結末に、雷が思わず問いの一音を返すと、その腕の中、法雨は変わらずと不満げに続けた。
「だって、アタシは、運命の人が“王子様”だと思ってたから、“王子様のオオカミ”を必死に探してたのよ? ――なのに、雷さんたら、せっかく王族の家に生まれたのに、王族定番職の憲兵を辞めて家出までした挙句、庶民にまぎれて探偵になんてなってるんですもの……。――それは、いくら探し回ったって見つからないわけよ……」
そうして、不貞腐れ気味に紡がれた法雨の比喩と自身の経歴を重ねた雷は、その愛らしい例えに思わず笑った。
法雨が、社会的上位職に属す者たちを王族と例え、警察官を憲兵に例えた上で、その警察官の道から外れた事を“家出”――と、随分可愛らしくまとめられたのがおかしかったのだ。
「ははは。それは確かに悪い事をしてしまったな。――申し訳ない。――お城での生活が俺には合わなくてね」
そして、そんな文句に合わせ、“それらしい”弁明を紡いだ元王子に長い尾をはたりと波打たせた姫君は、その腕の中で未だ不満げに続ける。
「もう……。――そうならそうで、いっそ攫いに来てくれたら良かったのに……」
すると、オオカミの元王子様は、それに意外そうにして言った。
「おや? おかしいな。――だから、攫いに行ったじゃないか。――でも、その時に“嫌いだ”と言われてしまったから……」
そんな彼の言葉で、雷と初めて出会った“あの日”の事を思い出した法雨は、頬が火照るのを感じながら雷から少し身を離すと、その顔を見上げては、慌てた様子で言った。
「そ、それは……っ、――だ、だって……、――あ、あんな、だらしない格好の時に来るんですものっ」
そんな法雨に、また意外そうにして片眉を上げた雷は、漆黒の尾をひとつふわりと舞わせると、首を傾げて言った。
「あぁ。恥ずかしかったのかい? ――あの時の姫君は、とても毅然としていらしたように見えたが……」
すると、法雨はさらに頬を赤らめると、しどろもどろに紡ぐ。




