Drop.025『 The STAR:U〈Ⅳ〉』【2】
自分の“経験上”からすれば――、まだ、大した事など何一つしていないはずであるのに――。
法雨は、そんな自身の状態に戸惑いつつも、雷の肩口にて、なんとかその問いの答えを小さく紡いだ。
「………………ベッドが……いいです……」
すると、雷は、愛おしげに法雨の髪を撫でながら、優しく言った。
「分かりました。――それでは、寝室までのご案内、――よろしくお願いしますね」
「……はぃ、――えっ? ――ちょ、あ、あのっ……」
そして、そんな雷に法雨が頷いた次の瞬間――、法雨は、その身を突然と抱き上げられ、思わず慌てる。
「そんな、あの、えっと、お、重いですから」
しかし、そうして慌てる法雨を軽々抱き上げた雷は、足元をふらつかせる事も一切なく、にこやかに言う。
「いえ。大丈夫ですよ。――むしろ、予想より軽くて驚いたほどですから、落としたりもしませんので、どうぞご心配なく。――それでは、お手数ですが、――ご案内を頂いてもよろしいですか?」
「は、はぁ。――そ、それは、良かったです……。――あぁ。ええっと。――し、寝室は、あっちの部屋です……」
「分かりました」
そして、その法雨の案内に、またにこやかに笑んだ雷は、そんな彼にも心を射られ、それから何も紡げなくなってしまった法雨を、その時間をも愛でるかのように――ゆったりと、寝室まで運んだ。
法雨が、そうして――、絵本に出てきた姫君たちのように、誰かに抱き上げられる経験をしたのは、幼い頃以来の事であった。
彼は、母だけでなく、絵本に出てきた“お姫様”に憧れる事もあった。
だが、法雨は、自身が――あくまでも男の身体をしている、という事を、忘れる日はなかった。
だからこそ、元より実現や体験を諦めていた事も沢山あった。
そして、愛した人に――“このように”抱き上げられる事も、その中のひとつであった。
“お姫様抱っこ”などという、それらしい呼び名などついているから、余計にしてもらえないのだ――。
若き日の法雨は、そのように思う事も多々あった。
だが、廻り合わせは、まるで魔法使いの様だ――。
どうやら、不可能と思っていた事を、可能にする力を持っているらしい――。
もしかすれば、これもまた――、法雨を弄んだ運命の悪戯のひとつなのかもしれない――が、これが夢だったとしても、今回ばかりは、赦してやろう――。
法雨は、柔らかなベッドまで至り、ベッドで再び雷と口付け合う中、そのような事を思いながら――、かつて諦めた夢が、酷く幸せな形で叶った喜びを、雷のその温もりと共に、愛おしげに抱きしめた――。
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互いにとっての――幾つもの“初めて”を重ね合い、胸に積もる愛しさの熱に侵されながら、ただひたすらに温もりを感じ合う一夜を過ごした、その翌朝の事――。
法雨は、その白い肌に心地よく触れている柔らかく温かなシーツを弄んでは、酷く幸せな朝のひと時に浸りながら、ふふと笑みを零した。
「――どうしました?」
そんな法雨の髪をやんわりと撫でていた雷は、そうして楽しげな音が零されると、穏やかに問うた。




