Drop.024『 The STAR:U〈Ⅲ〉』【3】
「そうですか……。――良かった……」
そして、そう言い、ゆっくりと席を立った雷は、次いで、向かいに座る法雨のもとへと歩み寄り、改めての礼を告げようとした――のだが、
「あっ、ちょっ、――ちょっと、――ちょっと待ってくださいっ。――今は、あの、その」
法雨は、何故かその雷に随分と動揺した様子を見せると、突然と顔を伏せては、雷を制する様にした。
「? どうしました?」
突然の様子を案じ、座ったまま顔を伏せている法雨の横で片膝をつくと、雷は、その法雨の伏せた顔を見上げるようにして、容態を問おうとした。
「どこか、具合でも……」
だが、そうして見上げた法雨の顔を見るなり、しばし目を見開いた雷は、言葉の先を仕舞う事にした。
そして、ふ、と愛おしげに笑むと、優しげな声で言った。
「……まさか、――法雨さんのそんな可愛らしいお顔を見られるとは、思いませんでした」
すると、片方の手で口元を隠すようにしていた法雨は、小さく言った。
「ア、アタシも……、――こんな顔を見られる事になるなんて……、――思っても、みませんでした……」
そして、その長くしながやかな尾を忙しなく動かしては、赤く染まった頬と身体の火照りを鎮めるに努めながら、法雨は、不満げに言った。
「ずるいですよ……」
「え?」
そんな法雨の様子を愛おしげに眺めていた雷が、その不満げな声に首を傾げると、法雨は視線を逸らしたまま続けた。
「……あ、雷さんは、平然としていらっしゃるのに……、――なんで、アタシばっかり……、こんな取り乱してるんですか……」
雷は、それに楽しげに笑う。
「ははは。――俺だってずっと緊張してましたよ。――今だってそうです。――こんなに近くで法雨さんの事を見られるとは、夢にも思っていませんでしたから」
「……嘘ばっかり」
穏やかに言う雷に、法雨が小さく言うと、雷はまた笑う。
「本当ですよ」
とは言うものの――、法雨がやっとの思いで雷の顔を見れば、やはり彼は穏やかに微笑むばかりで、緊張などしているようには思えなかった。
そんな雷は、続ける。
「今日だって、――法雨さんがあまりにも積極的にお誘いくださるので、心臓に悪い時間を過ごしました」
「……そ、それも、――絶対嘘です……」
(だって、どう考えても、“ただ動揺してた”だけだったもの……。――心臓に悪いなんて、そこまでの感じじゃ、絶対になかったわ……)
「ははは。――今はいかにしても、信じて頂けませんね」
その日の日中に、気まぐれな天を見上げていた時と同じく、心なしか不満げなその横顔を愛おしげに見ると、雷は、愛しき彼の名を優しく呼ぶ。
「法雨さん」
しかし、呼ばれた法雨は、未だ、いかにしても音を紡ぐ事は出来ないようであった。
そんな法雨が、視線でそれに応じると、雷は続ける。
「法雨さんは……、――貴方の事を好きだと言う俺の事を、――どのように想ってくださいますか」
「………………」
その問いに対し、視線を合わせながらも、法雨は沈黙で応じた。




