Drop.023『 The STAR:U〈Ⅱ〉』【1】
法雨の案内に従い駐車した雷は、法雨と肩を並べながら車のトランクを開けた。
「――あ、こちらのバッグは、着替え用ですか?」
その雷から、預けていた大荷物を受け取る中、トランクの隅に佇む大ぶりなバッグを示し法雨が問うと、雷は穏やかに応じた。
「ん? ――あぁ。そうです。――よく分かりましたね」
「車での遠征も度々おありと仰ってらしたので、――着替えも常備していらっしゃるのかなと思いまして」
「なるほど。――まさに、ご推察の通りです。――流石、一度お話ししただけの事でしたが、よく覚えてらっしゃいますね」
「ふふ。――店長なんてしておりますと、勝手に覚えてしまう事も多いもので」
感心した様子の雷に、嬉しそうに笑むと、法雨はさらに続けた。
「でも、着替えもお持ちなら、安心しました」
「? “安心”? ――雨の事ですか?」
それに、はてと不思議そうにした雷が問うと、法雨は、随分と満足そうに笑んでは言った。
― Drop.023『 The STAR:U〈Ⅱ〉』―
「――実は、今。――うちには、美味しいお酒も、勢揃いしているんです。――ですから、――“着替えをお持ちなら安心だな”、と」
「――………………」
法雨が、そう言いながら、今しがた閉められようとしていたトランクリッドにそっと触れ、留めるようにすると、雷は一度黙し、困惑した様子を見せながら、ぎこちなく言った。
「その……、――“この通り”……なので……」
そして、雷は、法雨と同じく車体に添えたままの左手でトランクリッドをわずかに揺らすと、“帰路にも車を使用する”旨を示すようにした。
しかし、そんな雷にも笑顔を崩さぬままの法雨は、その繊細な指先でトランクリットをついと持ち上げては言う。
「えぇ。それはもう“この通り”、――しっかりと存じ上げておりますわ。――でも、“今晩中にお帰りにならなければ”、問題のない事ではありません? ――奇遇にも、“着替えまでお持ち”ですし」
「ですが……」
そんな法雨に雷は躊躇うが、その彼の心を知ってか知らずか、法雨は言った。
「もう、――そんなに緊張なさらないでくださいな。――大丈夫ですよ。――お客様には、“おひとりで”安心してお休み頂ける専用のお部屋がちゃんとありますから。――“捕って喰ったり”なんてしませんわ」
そうして、悪戯っぽく笑んだ法雨に言われた雷は、それから随分と長い沈黙を挟みはしたものの――、その間、延々と法雨に見つめられていたためか、結局は白旗を振った。
「――………………分かりました……。――では、“大いに”お言葉に甘えて、――“コレを連れて”、お邪魔しますね……」
そして、己への溜め息を交じえながら言うと、本日の出番はないはずであった“連れ”を、トランクから連れ出した。
すると法雨は、そんな雷に満足げに笑んでは言う。
「ふふ。――嬉しいですわ。――それでは、参りましょ」
そして、くるりと雷に背を向けると、日中の滝行によりボサついた尾を上機嫌に揺らしながら、エレベーターに向かって歩き出した。




