Drop.003『 WHEEL of FORTUNE:U〈Ⅱ〉』【3】
すると男は、あの若いオオカミたちが逃げて行った窓の向こうを見据えながら、言った。
「――貴方は、“オオカミ”が――、お嫌いなんですか」
「――………………」
法雨はその問いに少し驚いたが、強調するように、ゆっくりと発された“オオカミ”という言葉を反芻した後――、“その男の容姿”を改めて見た上で、無感情ながらも、はっきりと告げた。
「――えぇ。――……嫌いよ」
男は、それに、幾度か小さく頷くようにすると、次いで、穏やかに言った。
「――分かりました。――お答え頂き、ありがとうございます。――あぁ。ないとは思いますが、もし何かお困りの際がありましたら、その際も気兼ねなくご連絡ください。――では、自分はこれで。――どうぞ、お帰りの際もお気をつけて」
そして、そう挨拶を終えた男は、最後に丁寧な一礼をすると、そのまま静かに去って行った。
法雨は、その大きな背に感謝の言葉を添えながら、去りゆく男を見送った。
「――………………」
男が去り、すっかりと静けさを取り戻したその場で、法雨はふと、先ほど渡された名刺に視線を落とした。
名刺には、あの男の名と、男が何者であるか、などの情報と共に、男の連絡先が記されていた。
それらを眺めながら、法雨は、あの男と交わした、とあるやりとりをしばし反芻した。
そして――、大きな罪悪感を胸に、不貞腐れた子供のように言った。
「――だって……嫌いだもの……」
名刺に印字された、男の名を指で擦りながら、その美しい漆黒の毛並みを思い起こしながら、ただ、言い訳を紡ぐ。
「――嘘をついたって……、分かってしまうんでしょう……?」
駄々をこねるように、誰にも届かぬ言い訳を、ただ、ひたすらに――。
「――だったら……、嘘なんてついたって、無駄だもの……」
言い訳を紡ぐ度に、深く根を伸ばすその罪悪感に、抗うようにして――。
「――オオカミなんて……、最後は皆、一緒だもの……」
心に深く根を伸ばしてゆく罪悪感に責めたてられながら、法雨は、一滴、また一滴と――、誰にも届かぬ言い訳を、ただ零した。
――その日。
法雨の身体を貪っていたのは、オオカミたちであった。
だが、そんな法雨を救うべく駆けつけたのもまた――、オオカミだったのだ――。
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