Drop.022『 The STAR:U〈Ⅰ〉』【3】
「あぁ、いや、違います。――迷惑だなんて、とんでもない。――その、嬉しいというのは、本当です。――ただ……、――礼を頂くためにお送りしたわけではないというのも、本当なのです。――ですから、“礼をしなければ”というお気持ちから、無理をさせてしまっているのではと……」
すると、法雨は、またするりと微笑みを戻すと、言った。
「雷さんは、本当にお優しいですね。――でも、安心してください。――アタシ、無理なんて、これっぽっちもしていませんから。――あと……、――お礼をしたいのは……、もちろんなんですけれど……」
そして、そこまで紡いだ法雨は、次いで、苦笑を作り、続けた。
「その……、――実は……、――今日は、久々のお休みなものですから……、少し……、独りの食事が、寂しかったんです……。――ほら、この時間はいつも、お店に居る時間じゃないですか……。――ですから、いつもは沢山のお客様や、お店のコたちが居る夜が当たり前なので、独りでの夕食は……、どうしても慣れなくて……」
そうして、続けられた法雨の言葉だが――、実の所、その中には、半分量の“嘘”が混じっている。
では、何が嘘か――、法雨は、そもそも“寂しい”などという自分勝手な理由で、大分と世話になってきた雷を、無理やり自身の夕食に付き合わせる気などは毛頭なかった――が、ゆえ、“寂しさの穴埋めに雷を夕食に誘っている”という点は、嘘である。
だが、“独りの夕食が寂しい”というのは、事実だ。
とは云え――、そんな嘘までをも交えて、こんなにも不躾かつ強引に雷を引き留めているのにも、勿論、理由があった。
そんな――“いかにしても譲れぬ事情”から、法雨が、わざとらしい“芝居”までをも披露してみせたところ、――雷は、“降参”といった様子でひとつ息を吐き、柔らかく苦笑すると、自身の後ろ首を撫でながら言った。
「なるほど……。ははは。――ううん……。――………………、――分かりました……。――では……、――お言葉に甘えて、お邪魔させてください」
警察に探偵と、“見抜く力”を要する経歴を持つ雷ならば、法雨が明らかな芝居を打てば、無礼な“嘘”をついてまで雷への礼をしようとしている事など簡単に見抜くだろうが――、それを見抜いた雷だからこそ、その想いに打たれ、法雨の誘いに“頷く”、という事までを、法雨に見事に見抜かれていた――という事を、雷もまた、見抜いたのであろう。
そんな雷は、苦笑したまま、ミラー越しの法雨に続ける。
「――流石と云いますか……、――法雨さんは、誘い上手ですね」
その雷に、法雨は嬉しそうに言う。
「ふふ。――強引で我儘な自分を“出すタイミング”を心得ているだけですわ。――でも、そんな雷さんは、本当、とってもお優しいですわね。――すべて“お分かり”なのに、そんなアタシの“舞台”に付き合ってくださるんですから」
すると、雷も、ようやっと取り戻した穏やかな笑みで応じる。




