Drop.020『 The EMPRESS:R〈Ⅱ〉』【2】
「最初に気付ければ良かったんですけどね。――でも、もう、アタシも染まってしまってたんです。――その、穢れた環境に。――恋心なんてなくても、アタシを求めてもらえる状況さえあれば、それで満足出来た。――だから、気付いた時にはもう、その環境にすら、依存してしまっていたんです。――とはいえ、もちろん、しばらくすれば、誰もがアタシに飽きますから。――飽きられたら、また別の場所を求めるようになりました。――そして、アタシは、高校生で道を踏み外して以降、――大学でも、同じような事を繰り返して過ごしました。――それが、“アタシにとっての恋なんだ”と、思い込みながら……」
「――………………」
己の過去をひとつ紡ぎきり、ティーカップで煌めく水面に視線を落としたまま言葉を切った法雨を、雷は黙したまま見つめる。
法雨は、その視線をはっきりと感じていた――が、紡いだ内容のせいか、その雷の顔を、どうしても見返す事は出来なかった。
そして、沈黙に耐えられなくなった法雨は、また紡ぎだす事にした。
「――えっと……、――これが……、アタシがしてきた恋愛です。――そんな経験をしているから、言えるのですけど、――依存的な恋愛や、欲求任せの恋愛は、やはり良い結果にはなりませんし、――そんなモノは、恋愛ですらないのだと思います。――あぁ、でも、――だから、京たちと事があっても平気だったので、――そういう意味では、この経験も、役には立ったのかもしれませんね」
そんな法雨は、言葉を紡ぐにつれ、己の恥ずべき過去を赤裸々に語ってしまった事から、雷に恐縮する気持ちが強くなり、そう言うと、明るく苦笑してみせた。
すると、雷は、その法雨の心をすべて見透かしたように、優しげな苦笑を返すと、言った。
「法雨さんは、そんなにお若い頃から、本当にお優しく、愛情深い方だったのですね」
法雨は、その――過去の穢れた自身をあまりにも美しく彩るような、思いもよらない言葉に、慌てて言う。
「そ、そんな立派なものじゃないです。――ただ、本当に、自分の欲求に溺れていただけの事で、――若気の至りじゃないですけれど……」
そして、無性に気恥ずかしい気分になった法雨は、困りながらも紅茶をひと口頂き、気持ちを静めるなり、雷が“次の予想外”を紡ぐ前にと、慌てて続ける。
「あっ、そ、そうでした。――あの、雷さん。――は、話の途中ですけれど、――アタシ、実は、ひとつお伝えしなければならない事があって」
「? ――なんでしょう?」
慌てる法雨に反し、相変わらずと落ち着いた様子の雷は、また穏やかに応じた。
法雨は、その雷の様子から自身の落ち着きを取り戻すと、ティーカップを丁寧に置き、次いで、姿勢を整えては言った。
「あの日――、雷さんに助けて頂いたあの日。――アタシ、雷さんに対して“オオカミが嫌いだ”と言ってしまいましたけれど、――実は、その、――アタシが、“オオカミが嫌い”だと言ったのは、京たちの事があったからでは、ないんです。――それどころか、そう言った事と、京たちとの事は、一切関係がないんです……」
その言葉に、雷は、微かに耳と眉を動かすと、問う様な表情で、法雨を見つめた。
法雨は、そんな雷の視線を真っ直ぐに受け止め、言った。
「――………………。――アタシには……、過去に……、――そう思うきっかけになった……、――オオカミ族の恋人が居たんです……」
「――………………」




