Drop.019『 The EMPRESS:R〈Ⅰ〉』【3】
――姐さんって、コーヒーと紅茶だったら、どっち派っすか?
(――………………。――や、やあね。――もう、今思い出す事じゃないでしょうに……)
そして、眼前の妙な光景から、妙な記憶を引き出してしまった法雨は、心内で慌てて引き出しを閉めると、“邪心”を祓う気持ちでティーカップを手に取り、まずはその香りを味わった。
「――ダージリンは、平気でしたか?」
その――秋摘みのダージリンらしい優しげな香りを楽しんでいると、法雨のやや斜め向かいに腰掛けていた雷が、柔らかく問うた。
法雨は、それにまた少し慌てながらも、笑顔で応じる。
「あ、はいっ。――とても良い香りです」
「それは良かった」
そんな法雨に、安心したように言うと、雷もまた、コーヒーに口をつけた。
それから、雨音のみが心地よく空間を満たす――しばしの静寂の中、法雨は、温かな紅茶でたっぷりと心身を満たすと、改めて雷に言った。
「雷さん。――今日は本当に、何から何までありがとうございます。――それで、あの、――お仕事の方は、今日はもうお済みなんですか? ――いくらお声掛け頂いたからとは云え、突然お邪魔してしまいましたから……、――文字通り、お邪魔になっていないかと……」
それに、雷は、また穏やかに応じる。
「あぁ。それも、ご心配なく。――本日分の仕事は済んでいますし、今日は依頼人が来る予定もないので、――安心して雨宿りしていってください」
そんな雷に、法雨はひとつ苦笑し、改めての礼を言うと、天の気まぐれが落ち着くまでの間、彼の厚意に甘える事にした。
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そうして――、それからしばらく、雷との雑談を交わして時を過ごした法雨は、またひとつの話題を終えたところで、意を決し、彼に“あの話題”を振ってみる事にした。
「――………………。――あの……、雷さん……」
「はい。――なんでしょう?」
不思議そうに自身を見返す雷に、法雨は、慎重に言葉を紡ぐ。
「その……、――もし、失礼な事を伺っていたらすみません……。――あの……、実は……、少し前に……、――京から……、――雷さんの様子がおかしいって話を、お聞きして……」
すると、そうして緊張気味に紡ぐ法雨に反し、対する雷は、驚くでも、怪訝な顔をするでもなく、ただ、苦笑しながら言った。
「ははは。――あぁ。えぇ。――そういえば、――京君から、法雨さんからもお力をお借りしたと、聞いていました。――彼にも随分と迷惑をかけてしまいましたが、――その節は、法雨さんにも、随分ご心配をおかけしてしまい、すみませんでした」
法雨は、そんな雷が詫びと共に軽く頭を下げるので、咄嗟に両手を前にし、慌てて言う。
「いっ、いえいえ! そんな、――頭を下げられるような事はしていませんから……っ」
そして、その不意の事に戸惑いながらも気を取り直した法雨は、話を戻すべく続きを紡ぐ。




