Drop.019『 The EMPRESS:R〈Ⅰ〉』【1】
法雨と京が、かの探偵殿の初恋を案じて過ごした秋も、いよいよと次季に移り変わろうとしていた十一月の事。
その日の日中――、ちょうど、ティータイムを過ごすのに最適な時刻に、都内は、突然の豪雨に見舞われていた。
「――はぁ……。最悪だわ……」
(こんな豪雨になる予報なんて、今朝はされてなかったのに……。――お天道さまは本当に気まぐれねぇ……。――丸一日のお休みなんて久々だったから、気合い入れてお買い物しちゃった後なのよ? もう……)
その日の法雨は、午前から意気揚々と出かけては、化粧品を見て回り、洋服を見て回り、その充実感に浸りながら、お気に入りの喫茶店でランチにスイーツに紅茶まで楽しみ抜いていた――のだが、続いて食料品の買い出しに出陣すべく、気合いたっぷりで喫茶店を出たところで、天の気まぐれに見舞われた。
さらに、そんな法雨に、水どころか止めを刺すかのように、その気まぐれ豪雨は、法雨のなけなしの折り畳みの傘をも破壊した。
(この傘も、お気に入りだったのに……。――これじゃあ修理も難しそうだし……、――残念だけど、お別れするしかないわね……。――もう……、非道いんだから……)
法雨は、窮地で見つけた“準備中”のバルの軒先で雨宿りをする中、その――すっかりと元気をなくしてしまった傘を見やりながら思うと、次いで、ざんざんと豪粒を非情に降り注がせている天に向け、不満げに口を尖らせる。
すると、そんな法雨に、ふと声がかけられた。
「法雨さん……?」
その声の方をはたと見やると――、そこには、法雨が随分と久しく感じる男が立っていた。
― Drop.019『 The EMPRESS:R〈Ⅰ〉』―
まさか、このような豪雨の中で“ウワサの探偵殿”との再会を果たすとは夢にも思わず、法雨は、驚きながら紡ぐ。
「あ、雷さん!? ――ど、どうしてここに……」
すると、豪雨にも関わらずコンビニにでも行っていたのか――、小ぶりなビニール袋と立派で頑丈そうな傘を手にした雷は、心配するような声色で言った。
「すっかり雨にやられてしまってますね……。法雨さんこそ、どうしてこんな所で……、――あぁ、――傘を駄目にされてしまいましたか……」
そして、法雨の傘のあられもない様子から、その様々な事情を察したのか、雷はそう言うと、手早く続けた。
「実は、この上が、丁度うちの事務所なんです。――法雨さんさえよければ、雨が止むまで事務所にいらしては」
その雷が指し示したのは、法雨が雨宿りをしていたバルが入った、背後のビル右手の階段口だったのだが――、そこには、ビルに入っている店名などが示された鉄製プレートが並んでいた。
そして、それらを確認すれば、一階にはバルの店名が記されており、その上の二階には、法雨にとっても随分と馴染みのある――“雷探偵事務所”の名が、確かに記されていた。
「まぁ、本当! ――まさか、こちらの上が事務所だったなんて。――全然気付きませんでしたわ」
その表記を見るなり、法雨が苦笑すると、雷は穏やかに笑み、言った。




