Drop.013『 The HANGED MAN:U〈Ⅰ〉』【3】
「――なんか~……、――書類の処理してんのかな~と思ったら、ぼけ~っとしてるだけだったり~……、――コーヒー淹れ終わってんのに、そのまま突っ立ってたり~……、――ってな感じっすかねぇ……」
法雨は、それにしばし考える様にしながらも、まずは率直な意見を返した。
「そう……。――まぁ……、――それは確かに、あの雷さんらしくはない感じはするけれど……、――でも、雷さんだって“ヒト”なんだから、――そんな時も、あるんじゃないの? ――後は、単純に疲れてるとか……」
「う~ん……、――そうなんすかねぇ……。――でも、ここしばらくは、忙しい感じも一切なかったんすよ……? ――むしろ、暇なくらいって感じでしたし……」
そんな京に、法雨はまたひとつ添える。
「あぁ。――じゃあ、その暇にボケちゃってるんじゃない? ――ほら、常に忙しくないとダメな人も、意外と居るでしょ?」
「あぁ~、まぁ~……。――じゃあ、雷さんもそうなんすかねぇ……。――でもなぁ~……。――俺、――あんな雷さん見るの、初めてなんすよ……」
「あのねぇ……」
法雨はそこで、京の言葉にひとつ溜め息をつく。
「――“初めて”ってアンタ、――雷さんとは、まだ数か月くらいしか一緒に居ないでしょ? ――その程度の付き合いじゃ、例え毎日顔合わせてても、知らない事の方が多いわよ」
「まぁ、それもそうなんすけどねぇ……。――でも~、――やっぱ、あまりにも変な感じで……」
法雨の意見を聞いてもなお、納得のゆく答えに辿り着けなかったらしい京は、カクテルグラスを撫でながら、ひとつ鳴いては考え込む。
そんな様子に見兼ねた法雨は、悩める助手に、またひとつ選択肢を与える事にした。
「もう。――そんなに悩むくらいなら、本人に直接尋いてみたらいいじゃない。――いずれにしても、雷さんって、自分から疲れてるって言わないどころか、自分が疲れてるとか、具合が悪いとかすらも、気付かないタイプな気がするわ。――だから、アナタから、身体の調子についてでもなんでも、とにかく思った事を尋いてみなさいな」
すると、そんな法雨の言葉で踏ん切りがついたらしい京は、気持ちを切り替えるようにして短く息を吐くと、言った。
「はぁ。――やっぱ、そうっすよね。――っし、――俺、明日にでも尋いてみます!」
法雨は、それに頷きながら微笑む。
「えぇ、――そうしてみなさい」
そうして――、法雨に背を押された事で決心がつけられたらしい京は、法雨から次のカクテルを受け取ると、笑顔で礼を言った。
「ありがとうございますっ」
「いいえ」
そして、受け取ったカクテルに京が口をつけたその時――、休憩からカウンター内に戻ってきた桔流が、京の前を通過した。
すると、京は、グラスに口を付けたまま――ンンと鳴くなり、口に含んだカクテルを一気に飲み干すと、意気揚々と桔流を呼ぶ。
「――あっ、――桔流、桔流!」
「あ~?」
それに対し桔流は、あくまでも客である京に対し、接客と云うには程遠い応答をした。




