Drop.013『 The HANGED MAN:U〈Ⅰ〉』【1】
雷が法雨の店を訪れた夜から、彼は、ちょくちょくと店に顔を出すようになった。
そんな雷は、仕事終わりや休日に店にやってきては、一人で飲んでいる時もあれば、ある日は、京率いる若オオカミたちと共に飲んでいたりと、その様子は様々であった。
法雨は、そんな彼らの様子を見る度、頼れる兄が、自身に懐く弟たちと和気あいあいと過ごしているようで、妙に微笑ましい気分になる事もしばしばとあった。
そんな――穏やかな日々を過ごしていた、とある日の事。
夏までもがあっという間に駆け足で過ぎてゆき、夜はすでに秋の到来を思わせていた――その穏やかな夜に、とある常連客が、法雨に声をかけた。
― Drop.013『 The HANGED MAN〈Ⅰ〉』―
「――姐さん。――今晩は」
法雨が、今しがた会計を済ませた客の背を見送っていると、背後から不意に聞き慣れた声がした。
その声に法雨が振り返ると、そこには、若オオカミたちのリーダー――明楽京が居た。
雷からの救済を受けて以来――、法雨との和解をも経た京は、仲間たちと共に、すっかりと法雨を慕う常連客となり、その上で――、気付けば、法雨の事を“姐さん”とも呼ぶようになっていた。
法雨は、その――いつの間にか誕生していた舎弟たちのリーダーに笑むと、挨拶を返した。
「アラ、いらっしゃい。京。――珍しいわね。――今日は一人なの?」
京はそれに、嬉しそうに笑むと、頷きながら言った。
「ハイ。――今日は俺だけが非番だったんで迷ったんですけど、――姐さんには会いたかったんで」
法雨は、そうして――“わざわざ添えられた最後の一言”の意を汲んでやると、腰に手を当てては首を傾げるなり、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「ア~ラ、――そんなコト言ってもらえるなんて、法雨ぃ、すっごく嬉しいわぁ~。――……でも、――アタシをナンパするなら、もっとオトコを磨いてからいらっしゃい。――アタシ、“男子”には惹かれないタイプなの」
京はそれに、がくりと肩を落とすと、そのまま駄々を紡いだ。
「えぇ~……。――俺だって十分“オトコ”っすよ~……。――もう、“男子”って年齢じゃないですし~」
そんな京に、法雨は容赦なく応じる。
「残念。――アタシからしたら、アンタはまだまだ男の“子”、よ」
「えぇ~……。――ジャッジ厳し過ぎっすよ~」
数か月前までの刺々しいリーダーはどこへやら――。
“活気があるだけの普通の常連客”として、法雨の店に訪れるようになってからの京は、日を追うごとに丸くなってゆき、今となっては、法雨に対して随分と可愛らしい一面をも見せるようになった。
そして、その晩も、そんな京からの“正しい”アタックを軽くあしらうと、店の業務に戻るべく、法雨は店内へと戻っていった。
すると、京もまた、その法雨を追うように、店内へと入った。
(――本気なのかどうかは、分からないけど……。――毎度の事ながら、京も飽きないわねぇ)
そうして、顔を合わせる度にささやかなアタックを忘れない京に心の内で苦笑しながら、法雨は、未だ駄々を続ける京をカウンター席まで案内してやった。




